記者の目 / 開発・分譲

2013/1/15

地域とのつながり模索する高齢者住宅

東急不、港北NTのシニアレジデンスで挑戦

 全国各地でその数を増やしつつある高齢者住宅。だが、地域の中に溶け込んでいる施設は、ほとんどない。基本的に、入居者や親族以外は足を向けることがないからだ。施設内でどれだけ豊かなコミュニティが形成されていても、地域とのコミュニティが確立されていなければ、それは入居者にとっても地域住民にとっても不幸なことではないか。そこで、高齢者住宅に地域との交流拠点を設けることで、入居者と地域住民とのコミュニティーを確立しようとチャレンジしたのが東急不動産(株)。そのユニークな交流拠点を紹介したい。

「グランクレールセンター南」1階に設けられた「& Comodia Life style shop(アンド コモディア ライフ スタイル ショップ)」。歩行者専用道路に面しており、晴れた日にはサッシュを開け放ち、オープンカフェとなる
「グランクレールセンター南」1階に設けられた「& Comodia Life style shop(アンド コモディア ライフ スタイル ショップ)」。歩行者専用道路に面しており、晴れた日にはサッシュを開け放ち、オープンカフェとなる
店舗内部。カフェでありながら、インテリアショップ。その想いがエントランスに記されている
店舗内部。カフェでありながら、インテリアショップ。その想いがエントランスに記されている
どう見ても、インテリアショップのダイニングコーナーにしか見えないが、来店者はテーブルについてお茶や食事を楽しめる
どう見ても、インテリアショップのダイニングコーナーにしか見えないが、来店者はテーブルについてお茶や食事を楽しめる
ダイニングテーブルだけでなく、オットマン付きのリラクゼーションチェアなども置いている
ダイニングテーブルだけでなく、オットマン付きのリラクゼーションチェアなども置いている
本格的なソファでも食事を楽しめる。こちらも、手すりが独特のRを描くユニバーサルデザイン
本格的なソファでも食事を楽しめる。こちらも、手すりが独特のRを描くユニバーサルデザイン
店内に並べられた家具はユニバーサルデザインで統一されているが、デザインはばらばら。こうして眺めてみると、不思議な感覚に陥る
店内に並べられた家具はユニバーサルデザインで統一されているが、デザインはばらばら。こうして眺めてみると、不思議な感覚に陥る
チャイルドチェアも用意。天然木の触り心地がいい。鋭角な部分がまるでない
チャイルドチェアも用意。天然木の触り心地がいい。鋭角な部分がまるでない
もちろん、シンプルなダイニングテーブルも用意されている。気に入れば、その場で購入することもできるし、コーディネイターに意見を聞くこともできる
もちろん、シンプルなダイニングテーブルも用意されている。気に入れば、その場で購入することもできるし、コーディネイターに意見を聞くこともできる
ホームのエントランスとカフェのエントランスはほぼ向かい合わせ。「常連」同士が顔を合わせることも増えるだろう
ホームのエントランスとカフェのエントランスはほぼ向かい合わせ。「常連」同士が顔を合わせることも増えるだろう

施設内で完結してしまう高齢者住宅のコミュニティ

 高齢者住宅の施設内コミュニティは、非常に充実していることが多い。属性が似通った人たちが集まるため連帯感が強いし、1日中同じ屋根の下で暮らしていれば自然と交流も生まれる。施設自体も、ラウンジや食堂などさまざまな共用施設を充実させているほか、運営事業者もイベントなどを通じて入居者交流をサポートしている。

 ところが、地域とのコミュニティが活発な施設というのは、ほとんど存在しない。まず、地域住民は親族がいるなど用事が無い限り、高齢者施設に足を向けることはない。大規模マンションや分譲地であれば各世代それぞれのコミュニティが自然発生するが、高齢者住宅の入居者がたとえ街に出たとしても、そこからまちのコミュニティとのつながりができるかといえば、それも難しい。すなわち、高齢者住宅は、まちに対しては「閉じた」存在なのだ。

 だが、それは高齢者住宅の入居者にとっても、地域住民にとっても歓迎されることではない。入居者にしてみれば、地域住民との「絆」がないことは、何かあったときは不安だろうし、そのまちで暮らすの決して楽しいものではないだろう。地域住民もどんな人達が住んでいるかわからない施設がまち中に存在することは、なんとなく不安に感じるはずだ。
 それならば、入居者と地域住民とが交流できる施設を高齢者住宅に作ってしまおう、というコンセプトを打ち出したのが、東急不動産だ。


カフェを舞台に地域住民とつながる

 舞台としたのは、同社が開発、2010年から運営しているシニアレジデンス(住宅型有料老人ホーム)「グランクレールセンター南」(横浜市都筑区、124室)。同施設が立地する港北ニュータウンは、横浜市内で最も住民の平均年齢が低い「若いまち」。同施設が接する歩行者道路も、ベビーカーを押す若い主婦たちや家族連れでにぎわっている。この住民たちの足を施設に向けさせるため、同社が設置したのが「カフェ」である。

 「なんだ、ただのカフェか」と思う読者もいるだろう。確かに、“ただの”カフェだったら、港北NTにも無数にある。また、たとえ若い地域住民を呼び込んだとしても、入居者たちと語り合えるような共通の「テーマ」がないと、コミュニティは生まれないだろう。では、そのため同社は、どんな工夫を施したのか?

 「グランクレールセンター南」に12年11月に設置された「& Comodia Life style shop(アンド コモディア ライフ スタイル ショップ)」は、カフェでありながら、実はインテリアショップでもあるという、変わった施設だ。つまり、交流の切り口は「インテリア」である。


ユニバーサルデザインが多世代を結び付ける

 もともと同社は、高齢者施設の入居者を対象にしたコンシェルジュサービスの一環として、インテリア販売サービスを手掛けていた。そのサービスを、入居者だけでなく地域住民にも開放したというわけだ。カフェ内のインテリアや、お茶や食事を採るためのテーブルや椅子は、すべて実際に販売している商品でもある。そのため、テーブルの種類、椅子の種類は、まるでインテリアショップのように、すべて異なっている。

 もっとも「高齢者と若年層では、インテリアに求めるものが違うのでは?」という疑問もあるだろう。そこで、この施設では、取り扱っているインテリアのすべてを「ユニバーサルデザイン」で統一するという、もう一つの取り組みを行なっている。

 「ユニバーサルデザイン」は、その名の通り、老若男女、障害の有無、言語の違い等を問わず誰でも使えるデザインのことで、インテリアで言えば、危険がないよう鋭角な部分をなくす、触り心地・使い心地のよい素材を採用するといった工夫が施されており、それでいながらデザインも凝ったものが多い。身体にハンデを抱える高齢者だけでなく、子供に怪我をさせないようにとファミリー層や主婦にも人気がある。

 カフェ内には、若者でもお年寄りでも自然に身体が預けられる曲線で構成されたチェア、触り心地のよい無垢材でできた大型テーブル、ポップな色調のリラックスチェアなどが所狭しと並べられている。記者も、そのいくつかに座ってみたが、背もたれやアームレストが絶妙のカーブを描いており、自然と楽な姿勢が取れた。また、いわゆる「角」が一切ないため、引っかけたりぶつけたりして怪我をする心配もなさそうだった。テーブルは高さをやや低めに抑えたものが多かった。


高齢者住宅予定地域への先行出店も検討

 同カフェは、晴れた日には、歩行者専用道に面したオープンサッシュが開け放たれ、住民の来場を待つ。同社は今後、他のシニアレジデンスのあるエリアでも、同じような交流施設の開設を検討していく。また、「シニアレジデンス開設予定地などへの先行開設することで、プロモーションなどにも活用していければと考えています」(経営企画統括部広報・CSR推進部広報グループ・高橋玄氏)という。

 近年、高齢者施設の住民と、周辺の幼稚園児・保育園児をイベントで交流させる試みが、多くの施設で行なわれている。だが、こうした強制的な交流よりも、ごく自然に住民同士が交流できる関係が望ましいのは、論を待たない。地域のなかでは、とかく奇異の目で見られることも多い高齢者施設への理解も進むはずだ。(J)

**
【関連ニュース】
港北NTの高齢者住宅に、地域交流拠点となるカフェオープン/東急不動産[2012/11/14]
港北NTで自社最大のシニアレジデンス「グランクレールセンター南」開業/東急不動産[2010/01/25]
港北NTで最大級のシニアレジデンス「グランクレールセンター南」募集開始/東急不動産[2009/11/05]

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。