記者の目 / その他

2014/1/22

変貌するまち、ワルシャワを訪れて

建物に見る「Heart of Europe」

「Heart of Europe」といわれ、地政学的にも文化的にも東西ヨーロッパの架け橋となっているヨーロッパの中央に位置するポーランドを訪れた。 ポーランド最大の都市であるワルシャワの旧市街は第二次世界大戦で建物の90%が破壊されたが、その後市民たちの努力で、ヒビ一つに至るまで、忠実に再現された。復元された「ワルシャワ歴史地区」は1980年に異例の世界遺産に登録されている。 重い歴史を背負いながらも前向きに生きるポーランドの人々。その姿は建築物やまち並みにも表れている。建物を中心に訪問したワルシャワを紹介したい。

ワルシャワの中心地
ワルシャワの中心地
戦前の建物や近代的な建物が一同に見渡せる、PL.Grzybowska(グジボフスカ)広場
戦前の建物や近代的な建物が一同に見渡せる、PL.Grzybowska(グジボフスカ)広場
ポランスキー監督が、映画「戦場のピアニスト」の撮影で使用した建物
ポランスキー監督が、映画「戦場のピアニスト」の撮影で使用した建物
「ワルシャワのシンボル」文化科学宮殿の対面にあるのが、高層マンション「ズオッタ44」。未完成ながら存在感がある
「ワルシャワのシンボル」文化科学宮殿の対面にあるのが、高層マンション「ズオッタ44」。未完成ながら存在感がある
ワルシャワ市内から少し離れた、築16年3
ワルシャワ市内から少し離れた、築16年3
000平方メートルの土地の家。価格は350
000平方メートルの土地の家。価格は350
000€(約5
000€(約5
000万円)。ワルシャワの人の暮らしを知るために訪問した
000万円)。ワルシャワの人の暮らしを知るために訪問した
建物に、弾丸の爪あとが残るエリアも
建物に、弾丸の爪あとが残るエリアも
2本目の地下鉄が開通すれば、一層の再開発が見込まれるプラガ地区。右に映る集合住宅は、建物裏に広がる「貧困のまち」事情を隠すために横幅を長くしたという。1960~1970年代初頭にこのようなプレハブ式建物が建築された
2本目の地下鉄が開通すれば、一層の再開発が見込まれるプラガ地区。右に映る集合住宅は、建物裏に広がる「貧困のまち」事情を隠すために横幅を長くしたという。1960~1970年代初頭にこのようなプレハブ式建物が建築された
プラガ地区でもまだ場所によっては危険なエリアが多くある。犯罪も多く旅行者は絶対に行くべきではない場所も
プラガ地区でもまだ場所によっては危険なエリアが多くある。犯罪も多く旅行者は絶対に行くべきではない場所も
プラガ地区の貧困層が住む住まいの裏側。教会に行けないからと、敷地内部にこんなスペースを作っていた
プラガ地区の貧困層が住む住まいの裏側。教会に行けないからと、敷地内部にこんなスペースを作っていた
日々再開発が進む
日々再開発が進む
SOHOファクトリー
SOHOファクトリー
デザイナーたちが集まり、既存のイメージを変えているプラガ地区
デザイナーたちが集まり、既存のイメージを変えているプラガ地区
プラガ地区にある社会主義風のバー。ポーランドではこういった大衆食堂を「ミルクバー」という。店内にあるマネキンは社会主義時代の労働者の姿か
プラガ地区にある社会主義風のバー。ポーランドではこういった大衆食堂を「ミルクバー」という。店内にあるマネキンは社会主義時代の労働者の姿か
ワルシャワ初の「屋上庭園」がある、ワルシャワ大学外観。屋上庭園は1999年にオープン。除幕式にはヨハネ・パウロ二世が参加したという
ワルシャワ初の「屋上庭園」がある、ワルシャワ大学外観。屋上庭園は1999年にオープン。除幕式にはヨハネ・パウロ二世が参加したという
ショパンサロン。訪問時、客は10人ほどだった。アットホームな雰囲気の中ショパンの音楽をケーキとワインを頂きながら堪能
ショパンサロン。訪問時、客は10人ほどだった。アットホームな雰囲気の中ショパンの音楽をケーキとワインを頂きながら堪能
現代のワルシャワの夜景。文化科学宮殿の展望台から望む
現代のワルシャワの夜景。文化科学宮殿の展望台から望む

 ポーランドへは、日本からの直行便はないため、ヘルシンキ(フィンランド)、フランクフルト(ドイツ)やウィーン(オーストラリア)などの空港でトランジットしてのアクセスになる。あまり知られていないが、フィンランドは日本から一番近いヨーロッパ。フィンランドでの乗継ぎ便がスムーズであれば、成田空港から15時間程度で到着。しかもワルシャワ・フレデリック・ショパン国際空港から中心部までも10kmほどと移動のストレスもあまりない。意外と近いワルシャワなのだ。
 ポーランドと聞いて真っ先に浮かぶのが、ショパンだろう。映画ツウならば「戦場のピアニスト」かもしれない。「戦場のピアニスト」は、第二次大戦のワルシャワを舞台とした映画。撮影で使用したビルは、グジボフスカ広場(右の写真参照)にある。
 壁面に写真が貼られているビルだ。

最上階は7億円。「黄金」高層マンション

 近年、ワルシャワには多くの投資がなされ世界的建築家による建造物が誕生している。
 今、ワルシャワで話題の高層マンションが「Zlota44(ズオッタ44)」。観光名所として知られる文化科学宮殿からも見渡せる市の中心にあり、高さは192m。55階建てで、その存在感は実際の階層以上で、市内でも一際目を引いている。
 資料によれば、以前ここには90年代初頭に建てられたかなりモダンで変わったビルがあり、ショッピングセンターとして使われていた。それが4,150万ズヴォッティ(約1,100万ユーロ/1ユーロ140円として約15億円)でOrco Property Group(オルコプロパティグループ)に買われた。当初、オルコ側は貸し物件として運営していたものの、その後ビルは取り壊された。物件がまだ新しく、かなり外観も良かったため、それを嘆いた人も少なくなかったという。場所が場所だけに、何かもっと収益の上がるものを、もっと高い建造物で、と建てられたのがこの「Zlota44」。

 物件は、2007年に建築が開始され、13年の完成を目指していたものの、いまだ未完成。
 物件名の由来となっているのは前を走る「ズオッタ通り」。「ズオッタ」を日本語訳すれば「黄金」。その名の通り、価格は、最上階(45階)の住戸(192平方メートル)で、内装込み2,000万ズヴォッティ(約500万ユーロ/約7億円)。日本同様に、価格は、フロア、広さ、内装によって異なるが、中心となるのは6万5,000ズオッタ(1,700万ユーロ/2億3,800万円)程度。ポーランドでは物件の内装は購入者が自ら行なうため、スケルトン売りが基本となっている。物件デザインは、ポーランド生まれのアメリカ人建築家Daniel Libeskind(ダニエル・リベスキンド)氏。
 完成が注目される、ワルシャワで今もっとも注目の分譲物件といえるだろう。

貧困の「プラガ」地区がアートの発信地へ

 今再開発が進むエリアがある。「プラガ」地区だ。
 ワルシャワの北東、人気の観光ルートから離れた川を隔てたエリアだが、この近辺には地下鉄の2号線が今年開通予定となっている。それに合わせて今後地価も高騰すると言われている。
 そもそもプラガ地区とは、一言でいえば戦前の建物が唯一残っている地区。他のエリアとは雰囲気が全く違う。
 貧困層が集まり、場所によっては今もなお犯罪が頻発し、現地ガイドによれば、撮影も禁止。カメラも人に見られないように歩くほうが安全といった(撮影強行したが…)、緊張感漂う地域なのだ。
 そんなエリアが今変化している。
 象徴的なのが、以前はウォッカ工場があったという場所にできたコネッセール(建物名)。今はブティックやアトリエが入居する。
  
 また今回訪れた「SOHOファクトリー」は、戦前はメガネ工場、戦後はモビレット(単車)工場として使用されていたところだ。11年、右の写真のような洒落た建物群へと生まれ変わった。自然発生的に新進アーティストらが集まり、このような形態になったそうだ。
 倉庫のような建物に足を踏み入れればそこは、洒落たデザインアイテムが並ぶショールーム兼ショップ。カラフルな家具や、文房具など、近代的で個性的なインテリアの数々を見ていると、ここが労働者中心のまちというイメージがまったく湧かない。ただ一歩外へ出て、屋外のマーケットや、地元の人しかいない社会主義風のレストランに入ると危機感を感じ、まだ観光客がガイドブックを片手に来るところではないようにも思えた。
 とはいえ、ここ数年のアーティストたちの集まりによって、市側も、プラガ地区の再開発に乗り出した。ヨーロッパのメディアから、「パリのモンマルトルのようなエリアになるのでは」という声もあるほどというから、市の鼻息も荒くなる一方だろう。

ショパンが暮らしていた建物がB&Bに

 古さを感じさせる魅力的な建物は、他にも見られた。
 一つが、ショパンが母国を離れる前に数年間住んでいたアパート。その一部が、アントニ・コルベルクの線画をもとに復元され、現在は22の客室を備えたB&Bとして運営されている。しかも「ショパン音楽」が聴けるというおまけ付き。
 建物はワルシャワの近代建築としては最も古い。入り口は狭く、階段を上った先に割り振られた部屋が並んでいた。どこにレセプションが?客室は?という感じではあったが、共有のキッチン・リビングスペースは広々と充実し、音楽の話でもしていたのだろうか。7、8人ほどの若者が集まり盛り上がっていた。そして何よりここでは、1930年代の雰囲気を楽しむアコーディオンやピアノコンサートが時折開催され、宿泊客や地元の人らに人気。頻度や価格も、季節や内容によって異なるそうだが、私が体験したアコーディオンのコンサートで、40ズオッティ(約1,400円)。コンサートの模様はネットで全世界に生中継される。
 実は、音楽のまちワルシャワにはボタンを押せばショパンの音楽が自動的に流れる公共のベンチが点在しており、まちなかでも音楽に触れることができるが、生で聴く音楽はやっぱりいいものだ。ワイン片手にうっとりと音楽好きな人たちと、ショパンに触れることができた。

地図から国が3度消えているというのに

 建物を視点にワルシャワのまちを巡ってみたが、想像以上に、まち並みも人びとにも温かさがあり、心が踊った。こんなエピソードがある。現地ガイドから聞いた話だが、日本人がポズナン市長代理に「ポーランドは悲劇的な歴史があるのに、なぜみなさんはポジティブ・シンキングなのですか」という質問をした。すると、「そういう悲劇的な歴史があるからこそ、その都度われわれはずっと前を向いて、希望を持って生きてきたのです。ポジティブな考え方は、ポーランド人のDNAに刷り込まれています」と笑って回答したという。

 悲劇的な歴史そのものから逃げないどころか、それを受け止め、一つ一つ乗り越えて、建物、国を作っている強さ。それは、ポーランドを初めて訪問したわれわれにも伝わってきた。出会ったガイド然り。地元マーケットの人たち、ワルシャワ大学の教授、すべて。
 滞在したホテルを離れる時、迎えの車はもう到着していたが、ホテル概要をもっと知りたくて、レセプションに戻りレセプションにいたスタッフに尋ねた。すると彼は本を開きながら、歴史と一緒に歩んできたホテルの説明を丁寧にし始め、本のコピーまで沢山くれた。宿泊した「ホテルブリストル」は、ワルシャワで最もラグジュアリーなホテルというだけでなく、ポーランドにおける重要な政治的、社会的出来事を多く見届けてきた場でもあったのだ。彼はホテルのスタッフとしてのレベルを超えて、熱を帯びて話をしていた。それがとても印象に残った。ポーランドに暮らす人は(おそらく行政や民間問わず)、どのような仕事や、どんな立場であろうが、一定の強い共通意識があって、それが人々の暮らしに光を与えているのだと思う。

 歴史の中で、3度国が消滅しているポーランド。
 その度に、人々は力を合わせて立ち上がろうと蜂起してきた。そもそも15、16世紀のポーランドは黄金期で世界で最も強かった。力強さ、たくましさは人々の心に受け継がれているのだ。

 帰国後は、滞在中ポーランドの人や景色が恋しくなり、音楽を聴きながら心踊った時間が懐かしく感じられた。
 心踊るといえば、ポーランドにはInternatinal Women's Day(国際婦人デー)という日があり(3月8日)、その日は男性が女性に花を贈るとか(女性ではなく!)。毎年、3月8日という日には、ポーランド中に花を持った女性が溢れ、まちに彩りを与えるという。やっぱり、ポーランドって温かいな。(Y)

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