記者の目

2014/3/14

ゼロから築いたシェアハウス(2)

「引っ越す必要がないのにあえて入りたくなる」シェアハウスとは?

 前回から引き続き、名古屋で成功している奥村氏のシェアハウス事業をレポートする。今回は、入居者の募集や審査方法、入居者傾向、運営方法などを紹介しよう。

13年7月に竣工した4棟目「シェアハウスLT城西」(総室数13室)は、同社初の新築物件。窓の配置にもこだわった外観は目立つデザイン
13年7月に竣工した4棟目「シェアハウスLT城西」(総室数13室)は、同社初の新築物件。窓の配置にもこだわった外観は目立つデザイン
キッチンには大容量の収納棚を。木製で揃えている
キッチンには大容量の収納棚を。木製で揃えている
1階のダイニングルームは4人掛けと10人掛けのテーブルを用意
1階のダイニングルームは4人掛けと10人掛けのテーブルを用意
1階リビングはソファでリラックスできる空間に
1階リビングはソファでリラックスできる空間に
吹き抜けとなっているため天井が高く開放的な内装
吹き抜けとなっているため天井が高く開放的な内装
写真目の前階段で2階に上がる
写真目の前階段で2階に上がる
2階のリビングスペースから各個室に階段や廊下でつながっている独特のデザイン
2階のリビングスペースから各個室に階段や廊下でつながっている独特のデザイン
すべてが吹き抜けでつながっているため、人の動きが感じられる
すべてが吹き抜けでつながっているため、人の動きが感じられる
水回りは白で統一。空間にゆとりを持たせている
水回りは白で統一。空間にゆとりを持たせている

◆男女比のバランスとって、キャリアアップの場に

 奥村氏が運営するシェアハウスの入居者は社会人に限定。主に20~30歳代の女性の割合が多い。

 1棟目「シェアハウス桜山」は女性からの問い合わせが多かったため女性専用、2棟目「滝子」ではあえて女性対男性のバランスを5:5と調整している。「女性だけですと、非常に仲良くなるのですが、小さなコミュニティでまとまってしまいがち。社会人としての起業や独立志向、キャリアアップ志向などを高めるには、男女のバランスが良いほうが、シナジーが高まりやすいと思います」(賃貸オーナー((有)デクーン代表取締役)・奥村秀喜氏)。

 実際、「滝子」入居者からは会社員から独立した人が2人出ているという。「相談し合える相手がいるとモチベーションが上がるようです」(同氏)。「滝子」には共用部としてコワーキングスペースも併設している。現在は外部に貸し出していないが、「今後、シェアハウス卒業生が事務所として使用したいということであれば貸し出してもいいかなと考えています」(同氏)。

◆地方ならでは?セカンドハウス利用が多数

 また、地方ならではの特色といえるのが「セカンドハウス」利用者が多いことだ。

 「1棟目で想定以上にセカンドハウス需要が高いということがわかりました。そこで2棟目ではその需要に対応できるよう、部屋は極力コンパクトにし、賃料を抑えるなど、セカンドハウスとして利用しやすいよう工夫しました」(同氏)。現在、入居者の中には、平日は会社に近いシェアハウスで過ごし、週末は実家に帰るという人も多い。「実家も十分通勤圏内といった本来引っ越す必要のない人が、わいわい楽しく過ごしたい、人脈を広め自分を高めたいという目的で入居されてくるので、感度の高い人が集まっています」(同氏)。

◆運営開始数ヵ月は運営者自ら入居

 シェアハウスでは、イベントなどが入居者主催で行なわれることが多く、シェアハウスOB・OGも度々顔を出したり、一つのシェアハウスに他のシェアハウスの住人が足を運ぶまでになっている。「シェアハウスを卒業しても交流は続いています。イベントを開催するとほぼ100%の出席率なんですよ(笑)」(同氏)。

 また、シェアハウス入居者全員が入れるメーリングリストをつくっているため、例えば、「今、鍋をつつき始めたけれど、良かったらどうですか」といった突発的な誘いが気軽に可能だ。

 こういった良好なコミュニティが生まれているのには、運営当初に奥村氏もしくはスタッフである娘さんがしばらく泊まり込み、あるいは通い、その土壌をつくったからだ。「いわばマラソンでいうペースメーカーの役割。音頭をとってシェアハウスの暮らし方やコミュニティ形成方法などを伝えています」(同氏)。

 いいコミュニティを継続していくためも、奥村氏は入居希望者との面談を大切にしている。「良い入居者を確保するのは運営上でもキモ。ですから、面談時に少しでも違和感を感じたらすぐにお断りしています。あらかじめうちでは断ることが多いから気にしないでくださいとお伝えしていますよ(笑)。緊張されてしまう方もいるので複数回にわたって話し合うケースもあります。3回にわたって面談した方もいますが、結果、入居していただき、今は滝子の中枢メンバーになっています」(同氏)。

 入居条件は社会人以上。年齢の上限などは特に設けていない。「40歳代の方もいますが、年齢関係なく楽しく交流していますよ」(同氏)。

◆シェアハウスに入るために引っ越す

 同氏のシェアハウス運営成功から3年半。名古屋でも参入事業者が増加傾向にあるという。競合かと思いきや運営者同士の交流は活発で、適宜情報交換なども行なっているようだ。
 「社宅など寄宿舎を活用したシェアハウスもありますが、なかなか運営は厳しいようです。『社宅に住むなら実家でいい』と考える人が多いよう。一見『寄宿舎』からシェアハウス運営するほうが参入しやすいように感じますが…、よほどリノベーションや付加価値付けをしないと客付けは厳しいでしょう」(同氏)。

 一方、新規に参入したいと物件見学に来るオーナーの中には、「アトリエやコワーキングなどのスペースがもったいない」と言う人もいるという。「単純に考えれば、そのスペースを居室や駐車場にするほうが収益につながると思われるかもしれませんが、長期的にみればこういったスペースがあることにより集客力が上がり、差別化につながると考えています」(同氏)。

 なお、現在5棟目を工事中で、3月下旬にオープン予定だ。

◆◆◆

 シェアハウス入居の理由に「自分への投資」と考える人も増えてきている。つまりは賃貸住宅からの引っ越しにあたり、新たなコミュニティや交流が得られるシェアハウスをあえて選択するというものから、持ち家がありながら、あえてシェアハウスに入居することで自分を変化させていきたい、高めていきたいという、ステップアップの場所として注目しているということだ。
 そういった人を突き動かすシェアハウスを提案できることが、競争時代に差し掛かったシェアハウス事業において重要になっていくだろう。(umi)

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