記者の目

2014/4/25

大相続時代に役立つ!「不動産信託」とは

業界唯一の不動産信託専門会社・スターツ信託に取材

 2015年1月以降、相続税増税が実施される。基礎控除額が大幅に引き下げられ、地価の高い都心部に不動産を所有するオーナーを中心に、課税対象者が大幅に増加する見込みだ。不動産・住宅業界でもそれを見越したサービスが展開されている(詳細は『月刊不動産流通』14年2月号編集部レポートをご覧ください)。  中でも地場不動産会社は日頃から相続案件を相談されるケースが多い。その際、税理士、司法書士、ファイナンシャルプランナーなどさまざまな専門家と連携を持ちながら、あらゆる相談に対応できる体制を築くことがポイントになる。その一つに「不動産信託会社」との連携という手段もあるようだ。  今回は、最近「家族信託」といった呼び名で注目されつつある個人の住宅を対象とした「不動産信託」のシステムについて、不動産業界で唯一の「運用型信託会社」(顧客と取り決めた範囲で自己裁量で最適な管理運営を行なう業態)であるスターツ信託(株)(東京都中央区、代表取締役:井口一弘氏)に取材した。改めてその仕組みについて紹介しよう。

2015年1月以降、基礎控除額が大幅に引き下げられため、都心部を中心に相続税増税対象者が増加する予定。不動産の相続対策に関心が高まっている(写真はイメージ)
2015年1月以降、基礎控除額が大幅に引き下げられため、都心部を中心に相続税増税対象者が増加する予定。不動産の相続対策に関心が高まっている(写真はイメージ)
遺言代用信託(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)のビジネススキーム(同社ホームページより)。なお、相続に関係ない土地・建物の不動産信託も取り扱っている
遺言代用信託(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)のビジネススキーム(同社ホームページより)。なお、相続に関係ない土地・建物の不動産信託も取り扱っている
後継ぎ遺贈型受益者連続信託のパターン1。夫婦間に子供がおらず、後継ぎがいないケース(同社資料より、以下同)
後継ぎ遺贈型受益者連続信託のパターン1。夫婦間に子供がおらず、後継ぎがいないケース(同社資料より、以下同)
後継ぎがいない場合、自身で先々の受益者まで指定が可能
後継ぎがいない場合、自身で先々の受益者まで指定が可能
後継ぎ遺贈型受益者連続信託のパターン2。再婚しており、妻と養子縁組していない
後継ぎ遺贈型受益者連続信託のパターン2。再婚しており、妻と養子縁組していない
後継ぎがいる場合でも、自分の指定した人に相続ができる
後継ぎがいる場合でも、自分の指定した人に相続ができる

オーナーは所有権ごと信託会社に委譲。 契約満期までノータッチでOK

 そもそも信託とは、「委託者兼受益者」(オーナー)が「受託者」(信託会社)に対して、土地などの財産を移転し、受託者は一定の目的に従って、受益者のためにその財産の管理運営や資産継承などを行なう仕組み。

 同社の不動産信託スキームは、委託者から土地、賃貸アパート・マンションを、所有権移転を受けた状態で預かり、契約期間中は運営・管理なども行なうもの。具体的には、事業計画の立案、必要資金の調達、建築会社の選定、テナント誘致、完成後の管理運営までの業務を、スターツグループの各社と連携しながら一貫して行なっていく。

 信託契約期間中は、同社がその土地に合った賃貸住宅、ビル、商業施設、駐車場などの方法で貸し出すことで、賃料収入を得る。そのうち必要な費用を差し引き、残りを受益者に配当として支払っていく。契約期間終了時には原則預かり時と同様の状態に戻して返還するというものだ。

 「すべて当社にお任せいただくことになりますので、通常の賃貸管理業のように都度オーナーへの確認というものも行ないません。委託者は株主的立場になり、精神的・物理的にも煩わしいことから解放されます」(同社賃貸管理推進室長・穂阪裕之氏)。

相続紛争のタネがすべて解消。 数代先までの相続人の指定が可能

 不動産信託の魅力はオーナーが生存している間に財産を信託できるということ。その上で自身が死亡後の受取人(受益者)を指定することができる(「遺言代用信託」)。また数世代にわたって受益者をあらかじめ指定することもできる(「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」)。
 また、一般的な「相続人」とされる人以外を受益者として指定することも可能なため、通常の相続では資産を残すことが難しい相手にもスムーズに資産を残すことができる(画像参照)。

 遺産分割協議や相続登記、名義変更といった紛争のタネになりやすいことが一切不要になり、相続発生後、権利者が即移転するため、受取人はすぐに財産を利用できるのだ。また、高額な遺言執行費用は不要になり、相続登記費用も大幅軽減が可能だ。

オーナーは借金なしで賃貸物件を建築。 節税対策も有効

 また、オーナーが賃貸物件を建てる場合、ネックになるのが建築費用の借り入れ。しかし、信託の場合は、信託会社が借り入れを行なうため、多額の借入金による負担がないほか、連帯保証人の用意も必要ないため、親族の同意が不要で、不動産の有効活用ができる。委託者が死亡(相続が発生)し、預金口座が凍結されても、借入金の返済は信託会社が行なうため、返済もストップしない。
 「初期費用と別に、建築コストの5~7%は手数料でいただいていますが、なるべく建築コストを抑えることで、ご本人が個人で契約する場合と大きく差が出ないように務めています」(同氏)。

 しかし、税務上はオーナーが借り入れているとみなしてもらえるため、個人で建築する場合と同様、節税対策にもなる。

相続相談の提案パターンの一つとして…

 このように相続対策として万能な印象を受ける不動産信託だが、対象土地が「賃貸収入が見込める土地」であることが条件となるため、地方の過疎地などではなかなか活用は難しいのが実態だ。

 また、相続人のことで紛争を防止するという意味では有効な同システムだが、法定相続人以外の人が遺贈を受ける場合、相続税額が増加する、遺留分減殺請求権(相続人が必ず受け取ることのできる最低限度の相続財産を得る権利)の排除はできないなどの注意点があることも留意しておかなければならない。

 現在の相続ビジネスで重要なのは、いかに早い段階で囲い込みができるのかどうか。顧客の状況次第では不動産信託という手法があるということをスムーズに提案できれば、「あの不動産会社に相談すれば、あらゆる角度の提案をしてくれる」という信頼構築につながるのではないだろうか。(umi)

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