記者の目 / ハウジング

2014/6/2

GW商戦に復活かけた注文住宅市場

力の入った戸建商品で需要を喚起

 市況回復へのターニングポイントといわれていた今年のゴールデンウィーク(GW)商戦。1年で最も集客が期待できるこの時期、1年間の市場を占うともいわれ、住宅メーカー各社も営業に力が入る。とくに今年は、「駆け込み後の反動減が予想以上に長引いている」との声が相次いでいただけに集客や受注動向が注目されていた。各社とも自信の新商品を投入し、受注回復へのきっかけを掴もうとしていた。各社の新商品と、GW商戦の状況をレポートする。

GW期間中の住宅展示場には家族連れが多く訪れていた
GW期間中の住宅展示場には家族連れが多く訪れていた
普段の住宅展示場ではあまり見られない「満車」状態の駐車場
普段の住宅展示場ではあまり見られない「満車」状態の駐車場
セキスイハイムのV2H住宅商品の外観。個別対応が多い分野で、商品投入はめずらしい。電気自動車を住宅の蓄電池として利用する
セキスイハイムのV2H住宅商品の外観。個別対応が多い分野で、商品投入はめずらしい。電気自動車を住宅の蓄電池として利用する
旭化成ホームズが開発したオイルダンパー式の制震装置「サイレス」は、3階建て以上の重量鉄骨住宅の制震化を実現する
旭化成ホームズが開発したオイルダンパー式の制震装置「サイレス」は、3階建て以上の重量鉄骨住宅の制震化を実現する

【反動減、予想を超え長期化】

 今春行なわれた、住宅メーカー各社の2014年3月期決算説明会で目立ったのは「予想以上に(駆け込み反動減からの)市況回復に時間がかかっている」という声。昨年10月ごろは、業界全体で年明けには受注も回復するだろうという憶測が広がっていた。しかし、ふたを開けてみれば、半年経った今でも市場の低迷がまだ続いている。そうした状況で突入したGW商戦を紹介する前に、各社がGW商戦をにらんで投入した新商品とともに、住宅商品トレンドをおさらいしておきたい。

 今期の新商品は近年のトレンドである「環境」と「地震」への対応力をさらにアップしたのが特徴だ。中でも、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を活用する、10kW超の太陽光発電システムを搭載した住宅は、いま最も熱い商品開発競争が繰り広げられている。

【戸建てに10kW超の太陽光発電、各社が商品開発】

 先鞭をつけたのはパナホーム(株)だろう。13年4月に「エコ・コルディス」を発売し、1年で1,157棟を受注。代表取締役社長の藤井康照氏も「単一商品で年間1,000棟超えはかつて当社が体験したことがないほど。反動減の厳しさをこの商品が下支えしてくれた」(4月末の決算説明会で)というほどのヒット商品となった。太陽光発電パネルを屋根に載せるのではなく、屋根自体を大容量の太陽光パネルでつくってしまうという発想の転換が成功を導いた。
 
 その後、ミサワホーム(株)、積水化学工業(株)住宅カンパニー(セキスイハイム)が相次ぎ商品化。今春もトヨタホーム(株)、住友不動産(株)などが大容量太陽光発電の新商品を発売した。ミサワはコストダウンにより、10kW超の太陽光発電を搭載しても坪単価50万円台前半からという低価格帯の商品を投入し、受注を取り込みにかかる。大和ハウス工業(株)、積水ハウス(株)なども、標準採用ではないが10kW超の太陽光発電搭載が可能な住宅商品を発売している。
 
 セキスイハイムが今春発売した「グランツーユー・ブィ トゥ ハイム」。住宅用蓄電池よりも大容量の蓄電量を持つ電気自動車を蓄電池として使う「V to H(V2H)」の発想は、震災後に注目された考え方だ。各社、個別対応はしている場合が多く、商品として本格的な拡販を図る例は少ない。
 電気自動車と太陽光発電を搭載した住宅を連携するパワーコンディショナを標準装備。電気自動車、太陽光発電、系統電源という3つの電源を使えるようになる。V2H住宅としては業界で初めて、停電時に太陽光で発電した電力を電気自動車に充電できる機能を備えた。

 一方、災害への対応強化では、旭化成ホームズ(株)が、高層ビルなどの制震装置として使われるオイルダンパーを装備した制震装置を開発。小さな揺れから大地震まで幅広い大きさの地震の揺れを吸収できるのが特徴だ。これまでは重量鉄骨2階建ては制震構造だったが、3階建て以上の住宅も制震構造にできるようにした。従来、コストが壁となってオイルダンパー付きの制震装置は普及していなかった。戸建て用に改良しコストダウンしたことで標準搭載を可能にした。

 積水ハウスも、住宅用の液状化対策工法を開発。ビルなどの地盤改良工法を小規模な住宅用にアレンジし、小規模な住宅用工事でも現実的な工事費で対応できるようにした。

【総合住宅展示場はイベントで集客すれど……】

 これら、力の入った商品ラインアップで各社が臨んだGW商戦。果たして現場の手ごたえは。筆者は神奈川県内の総合住宅展示場のいくつかを訪れた。

 筆者が訪れた日は子供向けのイベントを開催しており、家族連れが多く来場していた。これは毎年のGWと似た状況だ。また、普段がらがらの駐車場が満車になっていて、ある展示場では入庫待ちの車もいるなど、パッと見たところ好調な集客に見えた。

 ただ、モデルハウスの営業マンに話を聞くと、「イベントの時は、人が来てにぎやかにはなりますが、展示場に来場した人がモデルハウスに足を踏み入れてくれるかと言えばそうではありません。人は多いですけど、接客する数は多くないですよ」という声が上がった。
 余談になるが、展示場運営会社の集客イベントの定番はもう何年も「ヒーローショー」「お笑い芸人ライブ」など。こうしたイベントを訪れるのは、ファミリー層ではあるが、本格的な住宅購入検討者ではない場合が多い。展示場にとって「テナント」である住宅メーカーからは不評ばかりが聞こえるが、改善する兆しはみえない。

【集客は一昨年並み、歩留まりは上々?】

 GW期間中の集客状況について、住宅メーカー各社にヒアリングしたところ、「現場の感触は『イマイチ』という声が多いようです。まだ市況回復には時間がかかりそう」「様子見ムードはまだ続いている」などいったネガティブなムードが広がる。一方で、旭化成ホームズ(株)の池田英輔社長は「期間中の来場は、前期のおおむね2割減程度。前々年並みの状況だ。決して悪い数値ではない」と、駆け込みが発生する前の市場に戻ってきたとする。この「前々年並み」という数値は、積水ハウスやミサワホームといった他の住宅メーカーでもほぼ同様の傾向となっている。

 実際の現場の反応では、「モデルハウスに来ていただいたお客さまは、本気度が高い方が少なくありません。着座率は悪くないと思います」「集客の減少幅に比べて、着座数の減少幅は少なく、歩留まりが上がっている」という声が多い。新商品への反響についても「制震システムについて説明すると、関心を持って聞いていただける」(旭化成ホームズ)、「大容量太陽光発電への関心は高い。イニシャルコストが上がっても、ライフサイクルコストを落としたいという需要は根強いようです」(ミサワホーム)と、ポジティブな声が目立つ。

 実際、展示場の各社モデルハウスを見学すると、顧客が机に座って商談している場面に出くわすことは多く、消費税率10%を見越した需要の「第一陣」が動き始めたという見方をしてもいいのかもしれない。(晋)

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