記者の目

2014/11/21

広島土砂災害、不動産業界はどう動いたか

被災者向けに空き家情報6,000戸提供

 今年8月、広島市内を襲った豪雨。広島駅から車で20分ほどの静かなまちであった安佐南区と安佐北区の住宅街を、突然の土石流が飲み込んだ。380ヵ所でがけ崩れが起き、死者74人、家屋の全半壊361棟という大きな被害を生んだ。不動産業界団体では、こうした災害に備え、各都道府県と災害協定を結んでおり、自治体からの要請に基づき民間賃貸住宅の借り上げに関する情報提供や、入居手続きといった業務を行なっている。広島土砂災害での業界の支援体制についてレポートした。

土砂に巻き込まれた自動車の残骸が威力のすさまじさを物語る
土砂に巻き込まれた自動車の残骸が威力のすさまじさを物語る
土砂により1階部分が流されてしまった住宅。道を一本隔てた地区(写真奥)は、無事であるなど、局地的な被害が見られた
土砂により1階部分が流されてしまった住宅。道を一本隔てた地区(写真奥)は、無事であるなど、局地的な被害が見られた

地方自治体と災害協定を締結

 不動産業界団体では、自然災害によって住宅の被害があった場合に備え、地方自治体と災害協定を締結している場合が多い。例えば、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会では、各都道府県宅建協会が各都道府県と災害発生後の応急仮設住宅(民間賃貸の借上等含む)の入居に関して協定を結んでおり、災害時には宅建協会が空き家情報の提供や入居手続きを担うボランティアの派遣といった支援を行なう。

 今回の広島土砂災害でも各自治体との災害協定に基づき、(公社)広島県宅地建物取引業協会、(公社)全日本不動産協会広島県本部と、(公財)日本賃貸住宅管理協会の関連団体である(公社)全国賃貸住宅経営者協会連合会(ちんたい協)の3団体が、仮住まいのための情報提供・契約業務を行なった。

 発生当初は行政現場の混乱もあり、広島県から各団体に災害協定に基づく民間賃貸住宅の物件情報提供の要請があったのは豪雨から6日後の8月25日。各団体に対して、「即入居可」「2年程度入居」「家賃(共益費込)10万円以下」「広島市内および府中町、海田町、廿日市市に立地」「バス、トイレ、キッチン完備」「1981年以降建築」といった条件の賃貸住宅情報の提供が求められた。

集まった情報は約6,000戸

 要請を受け、各団体は空き家情報の収集を急いだ。家主や管理会社経営者で構成するちんたい協は、運営する「安心ちんたい検索サイト」から、家主の了解を得た民間賃貸住宅の空き室情報を吸い上げてリスト化。借上住宅の候補として、広島市の災害対策本部に提供した。広島宅協・全日広島も物件情報を会員から収集し、行政に提供した。広島市によると、約6,000戸の空き家情報が集まったという。

 その後、3団体合同で9月4、5日に広島市内5ヵ所で行なった民間の借上賃貸住宅の一次募集には、143世帯が来場。申し込みがあったのは76世帯だった。その後、再度の募集・受付を行ない、10月1日からは当面の随時募集というかたちで、各団体が指定した38店舗で募集を継続している。11月7日時点では81世帯が民間の賃貸住宅に入居した。

被災した賃貸住宅の借り上げ賃料支払を継続した企業も

 一方、民間企業では、入居者の救済はもちろん、被災した賃貸住宅のオーナーを支援する動きがある。ある大手企業では、一括借り上げしていた賃貸住宅の1階が土砂で埋まり、入居できる状態ではなくなったが、オーナーにサブリース賃料を支払い続けることにした。オーナーにとっては、入居者がいない状態になってもローンの支払いは続く。そうした厳しい状況に陥ったオーナーを救済するためのものだ。

 通常は、入居できなくなった物件は借り上げている会社に家賃が入らなくなるため、サブリース契約は打ち切り、オーナーへの賃料支払も打ち切る契約になっている。しかし同企業は、自然災害による被害であることも鑑みて、“個別対応”として賃料支払を継続することにしたのだという。

情報過多、災害後の地価下落など、課題も山積

 こうした、業界団体・民間企業がさまざまな支援を行なっていたが、課題もある。

 一つは、迅速な支援体制の構築だ。今回、民間賃貸住宅の借り上げの申し込み受付がはじまったのは9月4、5日が最初。当初は現場が混乱していたとはいえ、土砂災害の発生から2週間、団体への情報提供要請からも1週間以上経過している。ある団体関係者は「2週間も経っていれば、動ける人はすでに別の賃貸住宅を契約して移り住んでいる。その人たちに対しては補助がない」と語る。こうした声が上がっていたが、広島市は11月11日に、自力および善意の申し出によって民間住宅に避難している被災者への支援策を発表。10月30日時点で、民間住宅に自己負担で入居している場合は、住宅確保に係る自己負担軽減策として、義援金30万円を配分することにした。ただし、8月の災害発生から約3ヵ月もの時間が空いてしまったことは、今後への教訓とすべきだろう。

 また、「団体が提供した情報に加えて、民間の所有者が申し出た賃貸住宅、公営住宅もあり、災害の規模に比して、提供する情報量が多すぎたという側面もある。多いのに越したことはないが、かえって現場が煩雑になる。そのため、申し込みのキャンセルが出るなど、緊急を要する事態なのに、情報過多になって避難者を迷わせてしまった感は否めない」という見方もあった。大規模な災害という、被害の全体像がつかみにくいなかではあったものの、適切な情報量という側面でも課題が残ったと言える。

 周辺の不動産への影響を懸念する声も。現地を視察した日管協会長の末永照雄氏は、「今後、この地域やこうした地形の地域に住みたいという人は大幅に減る可能性がある」と懸念を示した。人が住まなくなれば、地価は大幅に下がり、土地や賃貸住宅の持ち主が損害を被る。

 日本全国にある地震への懸念、台風などによる水害と、それに伴う土砂災害など、近年の日本列島は毎年何らかの災害が発生している。行政による民間賃貸住宅の借り上げやスピード感のある業界の対応など、過去の災害から学ぶべきところは学んで実行したという印象はある。それでも、上記したような迅速な対応や適切な情報量の提供といった部分では課題も残った。課題解決に向け、行政と不動産業界との連携は不可欠。災害対策の準備について、もっと緊密な情報交換を求めたい。(晋)

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