記者の目

2015/1/6

クリエイティビティがまちを救う(1)

国際都市に求められる「アート・文化」

 まちの活性化において、「クリエイティビティ(創造性)」というキーワードに注目が集まっている。人々のクリエイト力を集約するまたは発揮できる場等をつくることで、人口減少、少子高齢化、単身世帯の増加など、さまざまな社会構造の変化に直面するまちの活性化に結び付ける活動が各地で起きている。また、その方法次第では、必ずしも都心部ではなく、郊外や地方都市などでもその効果が期待できる。  アメリカの都市研究者、ジェイン・ジェイコブズ氏の言葉を借りると「クリエイティビティのない都市は衰退する」。  そこで現在の東京におけるクリエイティビティ都市づくりの実態、外国の取り組み、不動産関連会社が携わっている事例などを2回にわたって紹介しよう。

これからのまちづくりにはクリエイティビティが求められていく(写真はイメージ)
これからのまちづくりにはクリエイティビティが求められていく(写真はイメージ)

◆アーティストの活動拠点不足の「東京」

 森ビル(株)の関係団体(一財)森記念財団都市戦略研究所が先般発表した「世界の都市総合力ランキング 2014」(世界主要40都市の総合力を分野・アクター別に比較して偏差値を算出しているもの)で、東京は前年と変わらず4位だった。五輪開催発表等があり、数値の伸びはあったものの、順位の変動はなかった。

 上位3位(上位からロンドン、ニューヨーク、パリ)との比較で、偏差値が低い要素の一つが「文化・交流」面。このうち文化面では、世界的文化イベント開催件数等の「交流・文化発信力」、劇場・コンサートホール数等の「集客施設」等9項目を調査している。「文化・交流」に関しては、アジア主要都市と比較してもシンガポール(総合力順位5位)の方がはるかに高い。

 中でも低いのが「集客資源」で、その中には「アーティストの創作環境」が含まれている。一方、アーティストへの調査でも、創作環境(スタジオ、アトリエ賃料、広さ)が平均値(偏差値50)に達していない結果に。同内容は2位のニューヨークも比較的低い傾向にあるが、スコアを伸ばし続け、2位との差を開いたロンドンは非常に高い数値を示している。先のシンガポールも近年はスコア上昇率が高く、成長が目覚ましい都市ほど同数値が高い傾向にある。

◆アジア各国でもアートによるまちづくりが活発

 先の紹介でも触れたとおり、アジア各国の都市力アップのスピードが加速している。そういった各国が力を入れているのがアートによるまちの魅力アップの活動だ。

 先般、同研究所と森美術館、アカデミーヒルズは、「Innovative City Forum 2014」を虎ノ門ヒルズで開催。その中のセッションで「アートと都市の新たな関係」をテーマに、タイ、台湾、インドネシアなどで、アートによるまちの活性化事例を紹介。

 例えば、タイ・バンコクでは、役所が入るビルをアートによって装飾することで、住民の憩いの場に変更、役所自体が閉まっている週末でもエントランスなどのスペースを開放することで、見学や観光に訪れる人も多いそうだ。また、インドネシア・ジャカルタではアートの祭典を交通機関や道路等、人々の日常にも導入することで、日常の空虚な時間を楽しめる時間に変える仕掛けを施している。

 森ビル代表取締役社長・辻 慎吾氏も「国際都市といわれるところには、必ず素晴らしいアートシーンがあり、多彩な文化やエンターテイメントがある」と指摘。多様性を受け入れ、24 時間をさまざまに楽しむ要素を備えた都市こそ、世界中から斬新なアイディアや知恵、技術、資本をもった人々が集まり、創造や革新が起こるとしている。「東京が世界一の都市を目指すうえで、こうしたクリエイティビティは欠かせないものであり、アートや文化はそれらを引き出す重要な因子。アートや文化は単なる付加価値ではない。都市に欠かせないものである」(同氏)のだ。

 人口減少、少子高齢、縮小経済、人材不足等に直面する日本のまちが再生するにはこれまでにない発想が求められる。そして、各地でクリエイティビティのあるまちづくりによって地域活性化を図る取り組みが実際にある。

 吉原住宅(有)(福岡市中央区、代表取締役:吉原勝己氏)が保有する「冷泉荘」(福岡市博多区、総戸数17戸)には、本格的なアーティストや起業家といった文化人が集まっている。06年、当時としてはめずらしいDIY可のSOHOビルとしたことで、マスコミにも注目が集まった。結果、入居希望者のみならず地域住民や観光客等さまざまな分野の人から注目を集めるスポットに。
 また、11年8月より開始した北九州市を舞台に産官学民連携で行なわれている「リノベーションスクール」では、リノベーション業界の先駆者をリーダーに全国から生徒が集まり、遊休不動産の活用方法を検討。現在、若いアーティストやクリエイターが集えるコワーキングスペースや小規模なテナント空間といった施設が誕生しており、過疎化しつつあった地域の就業人口を大きく引き上げている。

 そのほかにも各地で新たな取り組みが誕生している。次回で詳細を紹介しよう。(umi)

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