記者の目

2014/12/22

地場企業だからできる相続ビジネス

いよいよ2015年1月1日より相続税が増税

 ここ数年、相続税制改正を控え、相続対策セミナー、関連資格取得など、さまざまな“相続ブーム”が起きている状況は改めて説明する必要はないだろう。  こうした“相続ブーム”が起きている中、「今、専門家のつくったブームに安易に乗って、相続相談したばかりに失敗したり苦労するような、『専門家とのトラブル』をかかえるユーザーが増えている」と話すのは、日本初の相続コーディネーターとして1万3,000件以上の相続相談に対処してきた公認不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士である曽根惠子氏だ。

◆増える相続相談トラブル

──相続の専門家といえば、一般的には「弁護士」「税理士」「信託銀行」などを思い浮かべるが…?

曽根氏

 弁護士は法律の専門家で、争いの調停や交渉が主業務。依頼者の代理人として交渉をするため、当然、相手方は“敵”となります。つまり両者の間に入って意見を持ち寄って、妥協点を見つけてくれるわけではないのです。相続は、親子、兄弟姉妹など身近な親族間のことなので、よほどこじれない限り、最初から弁護士は引っ張りださない方がいいといえます。

──では、「税理士」の場合は?

曽根氏

 「信託銀行」の場合は、遺言信託や遺産整理が主業務。生前対策については本業ではなく、費用負担も少なくありません。

 現在、相続税が課税される人は4%程度で、ほとんどの場合は相続税の申告が不要。つまり税理士に頼む必要がない人のほうが多い状況です。それから考えると、税理士であっても申告業務の経験があるとは限らず、誰でも相続に強いかというと、そうとは限らない。

──相続相談を巡るトラブルが増えているのはどういう理由が考えられる?

曽根氏

 一つには、相続対策では、財産の中で占める割合が大きい「不動産」が課題となるケースがほとんどということです。節税も、納税も、不動産で考えることが現実的。しかも、不動産は分けにくく、個々に内容が違って評価が難しいため、不動産のノウハウや実務経験が不可欠なのです。しかし弁護士や税理士の場合、不動産に関する実務経験がなく、不動産の専門家ではないため、活用や組み換えなどの提案が期待できず、うまく節税できないケースも起こり得るのです。

──そこで、不動産の実務に詳しい相続コーディネーターが必要になる?

曽根氏

 管理物件のオーナーや取引のある地主など、相続税の対象となる、不動産を所有する資産家と日頃から付き合いがある地場の不動産会社にとって、ビジネスチャンスといえるでしょう。

 もちろん「相続人同士でもめて、遺産分割協議ができないとき」や、「認知症などで本人の意思能力が低下し、成年後見人として財産管理をする必要がある場合」など、弁護士に頼んだ方がいい場合もあります。税理士や信託銀行も同様です。安易に依頼する前に、誰にどこに何を目的に頼むかという事前の判断が必要になるということです。お客さまに一番近い立場で「専門家のまとめ役」となる相続コーディネーターも必要になってくるのです。

◆地場の不動産会社の活躍の場

──地場の不動産会社が相続コーディネートに向いてると?

曽根氏

 大家さんや地主さん側からみても、相続が発生したとき、自分でその専門家を探すことは簡単ではありません。普段から付き合いがあり、信頼関係のある不動産会社が相続の手続きをサポートしてくれれば、探す必要もなく、安心だといえるのではないでしょうか。しかも、通常は、専門家同士がコミュニケーションを取ることはありませんが、「専門家のまとめ役」が間に入って連携で取り組めば、トータル的な成果を上げることも期待できます。

──地場の不動産会社が相続コーディネートをするに当たり、あらかじめ準備しておくことは?

曽根氏

 相続に携わった実績があり、コミュニケーションの取りやすい専門家との間で、協力を得られる体制をつくる必要があります。相続は、一つひとつがオーダーメイドであり、事情に合わせた提案が求められます。弁護士、税理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士などの専門家の協力は不可欠であり、お客さまの状況に応じて、都度、チームづくりをして協働するようにします。

──相続コーディネートを請け負うポイントは?

曽根氏

 次に「自分が顧客を獲得すること」。自分のお客さまだからこそ、他の専門家にも協力の要請ができ、堂々とまとめ役になれるのです。そのためには相続が発生したときに、相談してもらえる状況を作っておくことが必要です。日頃から付き合いのある大家さんや地主さんに情報発信するなど、相続に取り組む姿勢をアピールしておけば、ビジネスチャンスにつながります。  また、ユーザーは一度相続税の納税を経験すると二次相続では節税したいという気持ちが強くなり、生前対策にも取り組んでもらいやすくなります。そうしたタイミングを生かすことで次のチャンスもつくりやすくなります。

 まず、決断が差し迫る「『相続が発生した』タイミングを生かすこと」。相続税の申告と納税の期限は10ヵ月以内。生前と違って、相続人は期限までに何らかの決断が必要になります。納税は待ったなしのため、納税のための不動産の売却が必要になるなどの可能性が高いのです。

──これからチャレンジする人にアドバイスを

曽根氏

 しかし、長年相続業務に携わってきた経験から言えば、資格や勉強も大切ですが、相続コーディネートの委託を受けることがまず先決です。その実務を仕上げるなかで自分の相続ノウハウやキャリアがつくられていくからです。専門家の協働体制をつくって、まずは実践から。その決意が業務につながります。

 相続を仕事とするための資格取得ブームが起き、相続対策セミナーなどの勉強会も盛んに行なわれています。そうした状況ですので、まず勉強してからと考える方もいらっしゃるかもしれません。

◆ ◆ ◆
 相続は、俗に「争続・争族」といわれることを考えれば、やはり実際、親子・兄弟・親類間の争いに発展し、人間関係を悪化させるケースが多いのだろう。節税、家族の幸せ…何を問題とするか、何を目的とするのか。優先基準が変われば対策も変わり、結果も違ってくる。
 曽根氏は「相続は専門家のものではなく、家族で考え、取り組むもの」という。その“家族”を知っていることを強みに、家族のためのコーディネートに取り組む地域密着型の不動産会社が増えることを願いたい(meo)。

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