記者の目

2015/1/16

マンション「管理」のこれから

マンション管理業協会が2つの研究成果を発表

 (一社)マンション管理業協会(理事長:山根弘美氏)が、「マンション管理業は“住生活総合サービス業”を目指していくべき」との目標を掲げ、7年が経とうとしている。建物管理はもちろん、マンションに付随する“生活”を総合的にサポートしていこうというものだ。  マンションはストック数が600万戸台に突入、約1,400万人が居住する日本人の一般的な居住形態となっているが、居住者ニーズの多様化により、マンション管理における課題が複雑化しているのも事実。そうした中、同協会はマンション管理業における2つの研究成果を発表した。その内容を紹介するとともに、これからの管理会社や管理組合のあり方について考えてみたい。

「マンション管理業の実態調査」結果報告会の様子。パネルディスカッションでは、フロント業務担当者も参加し、現場の「生」の声を聞くこともできた
「マンション管理業の実態調査」結果報告会の様子。パネルディスカッションでは、フロント業務担当者も参加し、現場の「生」の声を聞くこともできた

◆フロントのモチベーションアップが居住者満足に影響

 まず、同協会・産業政策委員会(委員長:日本ハウズイング(株)代表取締役社長:小佐野 台氏)が2012年11月より有識者と共同で行なってきた「マンション管理業の実態調査」結果を紹介しよう。
 同調査は、マンション居住者の管理へのニーズ、およびその満足度の実態を明らかにすることを目的に実施。供給側(マンション管理会社・フロント業務担当者)にもアンケートを行ない、分析を行なったものだ。需要側の調査対象は、マンション居住者および購入予定者約7,000人、供給側の調査対象は、同協会会員社391社。

 それによると、今後さらなる充実を望むサービスとして「設備の保守点検」(23.2%)、「緊急時の対応」(17.6%)、「清掃業務」(17.1%)の3つが、居住しているマンションの属性を問わず上位に挙がった。また、3つのサービスに関し、さらなる充実を望む居住者は全体の6割近くを占めた。
 一方、マンション管理の知識を豊富に持ち、管理に対して高い関心を持つ居住者ほど、「長期修繕計画の策定・更新」「マンションの資産価値向上に資する提案」「マンションの防災・防犯対策」「居住者間のトラブル解決」など多様なサービスに目が向き、かつ提供されているサービスにも満足していることが分かった。
 これを受け、同協会の山根理事長は「管理の仕事、そして管理会社の存在意義を居住者の方々にもっと知ってもらう努力が必要。そうでなければ、われわれの業務は設備点検や清掃といった基本的なサービスにとどまり、“住生活総合サービス”というレベルには到底及ばない」とコメントしている。

 フロント業務担当者の資質如何で、居住者満足は大きく変わってくる。では、フロントのモチベーションアップには何が必要なのか? 調査によると、「教育訓練の受講」が求められており、その受講内容は「長期修繕計画に関する知識」「マンション管理業務における苦情、トラブルへの対応に関する知識」「コミュニケーション能力を高めるための教育」など。実際、これらの訓練を全体の65.9%が受講していたが、定期的に教育訓練を受けているのは12.3%にとどまり、現場の課題も浮き彫りとなった。

 また、フロント業務担当者に向け「やりがいを感じたことはあるか」と尋ねたところ、96.6%が「ある」と回答。最も多かった回答は、「理事会役員に信頼されていると感じるとき」(89.0%)、以降「理事会役員や居住者から褒められたとき」(74.1%)、「理事会と協力して管理上の課題に取り組み円満に解決したとき」(65.7%)と続いた。
 この結果を受け、現場で働くフロント業務担当者からは「フロントのモチベーション満足が居住者満足につながる『善の循環』という結果に勇気付けられた」「フロントには幅広い業務が求められているため、定期的かつ充実した教育訓練が必要」などの感想が寄せられているという。

 フロント業務担当者の役割が、マンション管理のスムーズな運営にとっていかに重要であるかは言うまでもない。フロントのモチベーションをいかに高め、維持していくか。そのためには、居住者満足の向上につながるような教育訓練の強化がカギとなるだろう。管理会社の役割がますます問われる。


◆マンションごとの「コミュニティポリシー」をつくる

 もう1つは、同協会が2011年から3ヵ年計画で進めていた「住生活総合サービス」確立に向けた学識経験者との共同研究のとりまとめだ。
 研究グループは、筑波大学教授の花里俊廣氏が代表を務め、5人の大学准教授からなるもの。11年度は「居住者ニーズの個別化への対応」を、12年度は「管理組合の意思決定・課題解決能力をどう得るか」を、そして13年度は「管理組合のパートナーとして管理会社が支援できること」をテーマに、多方面から研究を実施。今回のとりまとめでは、3年間の研究成果を各委員が報告した。
 
 それらの中で注目したいのが、「コミュニティポリシーの提案」だ。

 「コミュニティポリシー」とは、マンションごとに居住者自身や管理組合などの行動指針を「宣言文」として明示し、居住者間で共有するというもの。マンションの属性には、都会的、下町的、郊外ファミリー的、複合的…とさまざまなタイプがあるが、こうしたマンションの個性と深く関わることで、愛着というレベルだけでなく、居住者自らのアイデンティティの一部や誇り(プライド)とし、居住者同士の積極的なつながりへと進展させることが理想であるとしている。

 コミュニティポリシーづくりにおいては、管理組合に対する管理会社のサポート体制が成否のカギを握る。
 まずはマンションのコミュニティの現状、特に居住者の意向を把握する必要があるが、ここで管理会社は、例えばアンケート形式の「コミュニティ診断キット」を作成・提供することや、その結果を分析するという支援ができる。また、居住者による「コミュニティ検討委員会」を立ち上げる際には、管理会社のアドバイスやフォローが生きてくる。

 また、「コミュニティポリシー」は、マンション内のコミュニティに関する実施計画のベースとなる。目的や目標が明確であるため、実施計画も立てやすく、組合経費の支出もスムーズに行なえる。
 一方、支援する管理会社からすると、コミュニティサービス業務が明確となり、管理組合に対する新たな提案や情報提供など、より有益なムダのないサービスの提供が可能だ。また、管理組合も管理会社への支援要請が容易となり、互いに「Win-Win」の関係が築けるなど、メリットは多いはずである。

 さらに、コミュニティポリシーをインターネットのホームページなどに公開することによる波及効果も期待できる。これが中古マンションの購入検討者の目にとまれば、購入の際の判断材料となるはず。購入検討者は、目当てのマンションが自らのライフスタイルに合うかどうか判断しやすくなり、適正な中古売買の促進にもつながるのではないだろうか。

 マンションを取り巻く環境が変化し続けている今、そして居住者ニーズが多様化する中で、マンション管理業者に寄せられる期待は大きい。人材育成、世間に対するプレゼンスの向上、居住者満足に向けたサービス拡充…など、課題は山積している。しかし、これを「差別化のチャンス」と捉え前向きに取り組んでいけば、居住者に信頼され、選ばれる管理会社となるに違いない。(I)

***
【関連ニュース】
「住生活総合サービス」展開の方向性について提言/マンション管理業協会(2014/12/15)

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