記者の目

2015/3/20

地場不動産会社が活躍する地域包括ケア

少子高齢化、空き家増時代の新ビジネス

 近年、「スマートウェルネス住宅」(国土交通省)や「地域包括ケアシステム」(厚生労働省)など、高齢者等が住み慣れた地域で在宅を基本としながら、安心安全に生活が継続できるまちづくり政策が打ち出され、全国的に進められている。都市開発を行なう大手不動産会社や福祉法人だけが関連ある話題のように思われがちだが、実は既存のまちや住宅を活用した取り組みにおいては、宅建事業者の役割が重要視されている。高齢者住宅財団が推進する地域包括ケアシステム「地域善隣事業」もその一つだ。  本稿では同事業の内容について紹介していきたい。

各地で進めらている地域包括ケアシステムの構築(写真はイメージ)
各地で進めらている地域包括ケアシステムの構築(写真はイメージ)
地域善隣事業の2本柱。住まいを軸とした取り組みなのが分かる(高齢者住宅財団の資料より、以下同)
地域善隣事業の2本柱。住まいを軸とした取り組みなのが分かる(高齢者住宅財団の資料より、以下同)
不動産関係者が住まいの確保、福祉関係者が住まい方の支援をすることで実現していくモデル
不動産関係者が住まいの確保、福祉関係者が住まい方の支援をすることで実現していくモデル
住宅の活用方法イメージ。集合住宅であれば1戸を、戸建住宅であればリビング等を共用スペースとし、さらに近隣には空き家を活用してつくったコモンハウスを設立し、交流を促進していく
住宅の活用方法イメージ。集合住宅であれば1戸を、戸建住宅であればリビング等を共用スペースとし、さらに近隣には空き家を活用してつくったコモンハウスを設立し、交流を促進していく
基本項目をおさえれば後は地域に合った運営を推進。写真のようにモデル事業でもさまざまなタイプがある
基本項目をおさえれば後は地域に合った運営を推進。写真のようにモデル事業でもさまざまなタイプがある
福岡モデルの事業スキーム
福岡モデルの事業スキーム

◆民間主導の自立型システム

 同事業は、同財団で2011~13年度老人保健健康増進等事業として検討が進められ、そのとりまとめをもとに構築された。事業名の由来は、大正末期から昭和初期、社会・経済状況の変動や都市化の進行により生活困窮者が増加、相談対応などをする民間拠点として設けられた「善隣館」からきている。その考えをもとに、地域の相互扶助を再構築することが事業の基本概念だ。

 低所得・低資産、公共の支援の不足などを理由に地域での居住を継続することが困難またはその恐れのある人を対象とし、そういった人たちができるだけ安定的・継続的に地域生活ができるよう民間主導で支援するもの。公費のみに依存しない自立型のモデルとすることで、各地域で運営主体が当事者意識を持ちながら、柔軟な事業運営を行なっていくことを目指す。

 事業の柱は、住宅の確保と住まい方の支援(表参照)。地域の既存物件(空き家)を活用し、互助の醸成を意識しつつ個人の状況に応じた生活支援サービスを提供する。住まいは防災・安全性を確保したうえで、住宅内に共用スペースを設けるほか、近隣に空き家を活用したコモンハウスを設立するイメージだ。
 事業実施にあたっては、あらかじめ関係者の協力・連携体制(プラットフォーム)の構築を行なって、事業の透明性を確保し、悪質な貧困ビジネスとは差別化。プラットフォーム内では、支援対象者の住まいにふさわしい物件の開拓、物件情報の共有などを実施していく。この流れが基本項目で、細かい点は各地域に合った内容で実施していくことを推奨。支援者だけでなく、関与する事業者が皆win-winの関係になれることを目指している。

 厚生労働省は、同事業モデルをもとに、14年度に「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」として予算化。全国8ヵ所でモデル事業が開始された。15年度も継続して予算化される予定だという。

◆空き家増も、変わらない高齢者入居への抵抗

 同ビジネスにおける住宅の確保では、不動産会社が重要な役割を担う。事業主体は主に、地域に根差した社会福祉法人、医療法人、NPO法人だが、オーナーとの連携、住まいのマッチング、入居者同士や地域との互助の醸成といった役割では、不動産会社に求められている業務は多い。

 しかし、空き家が増えているとはいえ、依然高齢者入居に抵抗がある不動産会社やオーナーは多いようだ。その理由としてあげられるのが、「死亡事故に伴う原状回復や残置物処分等の費用の負担」「居室内での死亡事故発生そのものへの漠然とした不安」「死亡事故後に空室期間が続くことに伴う家賃収入の減少への不安」だ。また、親族などがおらず、連帯保証人が確保できない場合も、大半は入居拒否している実態がある。

◆不動産会社が安心して仲介できるシステムも

 こういった事情を背景に、福岡市のモデル事業では、不動産会社がさまざまな不安を払拭して、安心して仲介できるシステムを構築している。福岡市社会福祉協議会をコーディネーターとして、高齢者の入居に協力する不動産会社(協力店)や生活支援サービス会社、入居者の死後、事務対応や家財処分をするセクター(社会福祉協議会)等によって「プラットフォーム」の構築を行ない、「自社保証方式」をスキームに組み込み、「緊急連絡先」や「保証人」を確保できない高齢者の民間賃貸住宅への円滑入居および入居後の生活支援を行なう。不動産会社は、オーナーに対してプラットフォームを活用した保証人や緊急連絡先等の補完効果を説明し、高齢者の入居に対する協力を得たうえで、入居希望者に対して住宅を紹介する。

 「自社保証方式」とは、これまで外部の家賃保証会社に支払っていた保証料を、プラットフォームの内部にて収受することで、運用資金に充てられるというもの。具体的には、同プラットフォーム内の保証セクターを窓口に不動産会社が保証料を留保することができ、新たな収益源とすることによって、自社内で継続的に運用していくことができる。立替リスクは発生するが、全契約を収益化することが基本であることから、全体からすれば、リスクは1割程度しかなく、収受する保証料の8~9割を収益化することができる。その収益の一部をプラットフォームに寄付することで事業の運営に充てていく。

 例えば、不動産会社が毎月100件の保証契約をし、1契約当たりの保証料が3万円だったとすると、毎月300万円の立替準備金としての収益がもたらされる。仮に、その中から10件の未回収案件がでたとしても、240万円の収益を得ることができるのだ(別途寄付は必要)。

 現在、福岡市社会福祉協議会のほか、(公社)福岡県宅地建物取引業協会や(公社)全日本不動産協会福岡県本部などからなる居住支援協議会がバックアップしながら同モデルの実証実験を進めている。3年間のモデル事業が終了した後、課題等を精査のうえ事業手法を確立する予定だ。その際には入居対象を高齢者だけでなく、その他の住宅困窮者(障がい者世帯、外国人世帯、子育て世帯等)にも拡大する方針だ。

※※※

 地場不動産会社にとって、空き家の増加、超高齢社会の到来、世帯構成の多様化などの社会構造の変化の影響は大きく、無視できない問題になっている。実際、今回紹介した「地域善隣事業」のビジネスモデル構築には、地場不動産会社の意見も積極的に取り入れられており、すでに危機感を持って、高齢者支援に関する取り組みに参入している企業もいるのだ。
 これからの高齢社会では地域包括ケアをはじめ、さまざまな高齢者や地域のニーズをとらえたビジネスが求められる。一見関連のない分野でも常にビジネスチャンスを見い出すことは可能。そういった姿勢が今後は重要になってくるはずだ。(umi)

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