記者の目

2015/4/24

“ローコストメーカー”高級路線への挑戦

アキュラホームが富裕層向け新ブランド

 低・中価格帯の注文住宅で創業以来業績を伸ばし続けてきた(株)アキュラホームが、今年3月、従来の普及価格帯での住宅供給に加えて、“高級住宅路線”の新ブランド「AQレジデンス」を打ち出した。日本の職人技をふんだんに盛り込んだ住宅を供給していく考え。しかし、“ローコストメーカー”としての評価が市場に根付いている同社がそのイメージを覆すのには相当の企業努力が求められる。どうやってイメージを覆すのか、また高級住宅市場にアキュラホームの存在感をどう示すのか、その戦略を取材した。

今回取材したモデルハウス。周囲のモデルハウスとは一線を画す外観は、富裕層に向けたアピールの一環だ
今回取材したモデルハウス。周囲のモデルハウスとは一線を画す外観は、富裕層に向けたアピールの一環だ
玄関ホールの壁にも職人による左官壁を採用した
玄関ホールの壁にも職人による左官壁を採用した
2階の37畳のリビングは、天井高3m。開放的な空間が特徴
2階の37畳のリビングは、天井高3m。開放的な空間が特徴
リビングの大開口からは、季節ごとに表情を変える庭の樹木が楽しめる
リビングの大開口からは、季節ごとに表情を変える庭の樹木が楽しめる
1階の寝室。家具にはこのモデルハウスのために特別に漉いた和紙を張り、壁と天井には手触りの良い布クロスを張った
1階の寝室。家具にはこのモデルハウスのために特別に漉いた和紙を張り、壁と天井には手触りの良い布クロスを張った

随所に職人の技が光るモデルハウス

 同社が高級路線を提案する最初の拠点となる、東京・用賀の総合住宅展示場にあるモデルハウスを訪れた。まず目を引くのがその外観。大きな左官壁で建物の本体が見えない。また、入口は巨大な左官壁の端に小さく開いている、展示場を訪れたユーザーにとっては何ともミステリアスな雰囲気を醸し出す。

 室内に入ると、吹き抜けになった玄関ホールの壁に左官の細工が施されている。2階すべてを使った天井高3m、37畳の大空間LDKでは、大開口の窓から、庭に植えた4本の樹木を眺められる。樹木は常緑樹2本とサクラ、モミジ。季節感を感じられるように、京都の熟練の庭師が枝ぶりも考えて厳選したという。前記した左官壁の高さは6m、ちょうど目隠しになると同時に採光もしっかりとれる高さを計算してデザインされている。この室内外の左官壁も、職人の手によるものだ。

 リビングに鎮座するアイランドキッチンはバックセットの棚を含めてトータルコーディネートをキッチンメーカーに特注。天板には特殊な硬質素材を用いたほか、タッチセンサーで上下動するレンジフード、ノックすると自動で開く大型の食器洗い乾燥機などを埋め込み、全体的にすっきりとしたデザインに仕上がっている。

 1階の寝室は、壁と天井に布クロスを張った。ビニールクロスに比べて高価格で施工も難しく、しかも汚れやすいが、柔らかな起毛の手触りが心地よい布クロスを採用することで、上質感を演出。家具にも和紙職人が特別に漉いた和紙を貼り付けるなど、富裕層の心をくすぐるデザインを追求している。

“ローコスト”のイメージ覆す

 こうした高級路線は、数年来検討を続けていたものだという。「当社は今年で創業35周年です。その35年間の集大成という意気込みで臨んでいます。“高級”と一口に言っても、デザイン性を高めたものは多いですが、当社が提案するのは、熟練の職人による匠の技をアピールできる住宅。35年間で培ってきた住宅販売のノウハウ、人材、職人の人脈を生かして展開していきたい」(同社AQレジデンス推進室室長の鬼澤 将氏)。

 おそらく今回のプロジェクトで最大の難関は顧客の掘り起こし。高額帯の注文住宅を求めるユーザーに、低・中価格の住宅で実績を残してきた同社に“高級住宅”というイメージを持つ人は少ないだろう。同社によれば、過去10年の同社受注のうち、受注高3,000万円以上の比率が全受注の5%にとどまっているのがその証左。そのイメージをどう覆し、来場・受注につなげられるかがカギになる。

 「ユーザーの約4割が、アキュラホームはローコスト系の住宅メーカーだという印象をお持ちです。したがって、新たなブランドとして訴求する必要があり、“AQレジデンス”を立ち上げました。オープンから約2週間で40組ほどのお客さまが来場されましたが、もともとアキュラホームのことをご存じだった方は、このモデルハウスのつくりに驚かれます。次回アポ率も20%と、低くはありません」(同氏)。取材中にも、リピート客が来場していた。

 集客戦略を考えるに当たり、プロジェクト発足当初から同氏は、これまでに同社で高級住宅を建築した施主を10件以上訪問。平均受注価格1億5,000万円という高額の住宅を新築した顧客の生の声を聞きとることで、富裕層の購入行動や嗜好を分析した。「住宅を購入するに当たり、まずは住宅展示場を訪れて、展示場を歩きながら気になったモデルハウスに飛び込むお客さまが多かったのです。そのため、外観に際立った特徴を出しました」(同氏)。

「見慣れたアレ」がない

 モデルハウスの“見せ方”にも工夫がある。キッチンや収納、左官壁などに、一般的なモデルハウスにある設備紹介用の説明板や自社商品のカタログなどが一切ないこと。また、モデルハウスの入口に必ずと言っていいほどある立て看板も設置していない。同氏に理由を聞くと「当モデルハウスは、ターゲットとする富裕層の方に“家を楽しむ”ことに専念していただくために設計しました。そのため、カタログなども置いていません」という。

 つまりは、営業スタッフのトーク力も試される。「当社の分析によると、ターゲットとしている富裕層は目が肥えており、目に適ったものの“うんちく”を聞くのも話すのも好き。営業マンが、職人技や当社のこだわりのポイントを説明することで、お客さまとの会話を弾ませるきっかけになります」(同氏)。

「いいもの=売れる」ではない

 しかし、いくら商品がよくても、それだけでは売れないのが注文住宅だ。同氏は「いいものだからといって、売れるとは限りません。お金をかければいくらでも豪華にできるし、特殊なオーダーにも対応できます。あくまでお客さまがこだわるポイントを叶えつつ、適正な価格を提案することが重要なのです」と語る。

 そこで強みになるのが、同社の“コストダウン”のノウハウ。同社は1円単位のコストダウンを全社的に推進しており、その強みを生かしていく。「当社の積算と購買のノウハウを生かしていきます。プレカットのような工業化と、工業化できない職人の技術のベストミックスによる適正価格での高級住宅を提案したい。お客さまがこだわっているポイントにきちんとお金をかけ、そうでないところはグレードを下げずにコストダウンできるような提案をしていきたいと考えています」(同氏)。

 他社であれば7,000万円程度のグレードの住宅を同社では4,800万円程度で請け負えると意気込む。おおむね、受注価格4,000万~6,000万円を想定している。「年収層にはあまりこだわっていません。こだわるポイントお金をかけるという考え方を持つお客さまのご要望を叶えていきたい」(同氏)。

 受注目標は初年度20棟、3年後には関西や東海にも進出し、受注100棟を目指す。

※※※

 職人技の施工体制の確保、ユーザーがモデルハウスのような外観を望んだ場合の周囲のまち並みとのバランスといった課題はあるものの、積算・購買ノウハウを生かしたコストダウンによる“適正価格での住宅供給”という同社が長年訴求している軸はぶれていない。住宅業界では現在、各メーカーが富裕層の攻略を進める中、“ローコスト”のイメージが強い同社は存在感を示せるか。(晋)

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【関連ニュース】
・新ブランド立ち上げ、高級住宅市場に参入/アキュラホーム(2015/03/24)

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