記者の目

2015/6/5

日本初!“6階建て”のモデルハウス

パナホームが東京・新宿の住宅展示場に建設

 総合住宅展示場に出展しているモデルハウスというのは、一般的に2~3階建て。しかし今春、パナホーム(株)が東京・新宿の総合住宅展示場に“6階建て”のモデルハウスを建設して話題を呼んでいる。同社が商業エリアでの建て替え獲得を狙い営業強化を進めている多層階住宅商品「ビューノ」だ。総合展示場に6階建てのモデルハウスを出展するのは「日本初」だという。市場低迷の中で、今春のゴールデンウィークは約450組が来場するなど、滑り出しは上々のようだ。

写真右奥に建つ頭一つ飛び出た建物が今回取材したモデルハウス
写真右奥に建つ頭一つ飛び出た建物が今回取材したモデルハウス
モデルハウス外観。一見すると小ぶりな商業施設のような建物だが、中には店舗・事務所・賃貸・二世帯住宅とあらゆる用途がそろっている
モデルハウス外観。一見すると小ぶりな商業施設のような建物だが、中には店舗・事務所・賃貸・二世帯住宅とあらゆる用途がそろっている
1、2階は店舗・事務所スペース。新たな鉄骨柱を採用したことで、用途に適した大空間をつくることができた
1、2階は店舗・事務所スペース。新たな鉄骨柱を採用したことで、用途に適した大空間をつくることができた
1階テラスの上は2
1階テラスの上は2
700mmのオーバーハング。最大3
700mmのオーバーハング。最大3
000mmにすることも可能だ
000mmにすることも可能だ

◆見た目はインパクト十分

 住宅業界をにぎわせている“6階建てモデルハウス”は、東京・初台にある「東京都新宿展示場」の一角にある。展示場の入口からまっすぐ奥を眺めると、頭1つ上に突き出た建物がある。もともと都市型併用住宅の提案を目的に、各社が3階建て、4階建て住宅を建てている展示場なのだが、その中でも突出した高さだ。総合展示場のモデルハウスはまず“視認性”が大切と言われる。その点で、この「見た目での差別化」は、大きな強みになる。

 同モデルハウスは店舗・事務所・賃貸併用二世帯住宅として設計。1・2階を店舗・事務所、3階を賃貸住宅、4階を親世帯住戸、5・6階に子世帯住戸を設けた。今回新設したモデルハウスの肝となるのは店舗・事務所スペース。

 同モデルハウスのベースとなった新商品「ビューノ プロ」は、200mm角鉄骨柱の厚さを約30%増やし、梁の高さも約20%アップすることで、店舗や事務所の用途で必要な大空間や、最大3,000mmのオーバーハングも可能にした。柱や梁を厚くすることで、コストへの影響も懸念されるが、柱の数が減るので、トータルではそれほど大きなコストや建物重量のアップにはつながらないのだという。「これまでの多層階住宅の実績を分析したところ、店舗・事務所併用のケースが非常に多かった。そのため、新商品のビューノ プロでは、大空間を可能にして店舗・事務所用途に適したプランニングが可能な構造にしている」(同社多層階事業本部都市住宅企画部長・梅山勝敏氏)。

 外観はメンテナンスフリーの高耐久光触媒タイル張り。窓サッシは、住宅用だけでなく、事務所用も採用しているため、住宅というよりも小ぶりな商業ビルといったイメージだ。この事務所向けサッシもラインアップに加えることで、外観の自由度も増した。難点を言えば、住宅用サッシは工場生産時に取り付けて現場搬入できるが、事務所向けは現場施工が必要なので、施工効率が向上するかと言えばそうではない。

◆中身は正統派

 建物内は奇をてらわず、いたってオーソドックスなしつらえ。インパクトの強い外観と落ち着いた室内のギャップは来場客からの評価もいいという。

 1階は「ビューノカフェ」として、接客や来場者がくつろぐスペースになっている。木質感のある内装壁はシックな色合いで落ち着きの空間だ。オーバーハングを活用して屋外テラスも設けた。2階は同社の多層階専門店舗「ビューノプラザ」としている。鉄骨柱や梁の実物カットモデルなどを展示したショールームスペースとして使用する。

 3階以上は住戸。3階は賃貸住宅とし、2戸の住戸を配している。同社の女性向け賃貸「ラシーネ」の仕様でプランニングし、カラフルな壁紙や玄関に設置したブーツを着脱時用の折り畳み椅子など、女性が好む設備・仕様を導入した。

 4階は床面積100平方メートル超の親世帯用住戸。広い空間を単なる大空間として提案するのではなく、間仕切り家具等の配置によって使い勝手と室内のゆるやかなつながりを両立させた。オーバーハングを生かした広いバルコニーでのガーデニングもアクセントになっている。

◆圧巻の最上階バルコニー

 5、6階は子世帯用住戸。5階に居室や浴室・トイレを集約し、最上階である6階はフロア全体をLDKとした。「ペントハウス的な生活を楽しめる空間を目指した」(同社)という35畳の大空間は、全面的にシックな色合いでビンテージ感のある木質内装材を使い、高級感あふれるつくりに。室内に段差を設けることで、単に広いだけではなく、ゆるやかな空間の分割も提案する。

 ここでは、パナソニック(株)のオーディオブランド「テクニクス」とのコラボレーションによる音響効果実験も実施している。同ブランドでは、住まいの音響空間設計の需要取り込みを視野に研究を進めており、今回のモデルハウスでの実証実験はその一環。室内のどこでも同じように高音質の音楽が聴ける空間づくりを目指している。

 圧巻はバルコニーから見る都心の風景。他のモデルハウスよりも一段高い場所からオペラシティや西新宿のオフィス街を一望する視線の高さは、迫力十分。窓を開ければ室内に心地よい風も通り抜ける。

◆“なんでもアリ”の提案力

 上記したように、二世帯・賃貸・店舗という要素をすべて盛り込んだ「なんでもアリ」の複合用途を提案するモデルハウスだ。もちろん、階層を増やせばさまざまな提案が可能になる。賃貸・店舗・事務所・二世帯と、住宅メーカーとしての総合的な提案力が問われることになる。

 都市部の商店などでは多層階住宅への建て替えが増加中と言われており、国土交通省の建設着工統計によれば、14年度は東京23区だけ1万戸以上が3~5階建ての多層階となっている。事実、商店を続けながら老朽化した建物を建て替え、家賃収入も確保したいというユーザーからの引き合いは強い。

 同社はこの4月に多層階住宅専門部署として「多層階事業本部」を設置。東京・神奈川を中心に14年度は760棟を受注し、都内では7階建て住宅も受注した。15年度については、850棟、受注高294億円を目標に据え、東京都内や横浜・ランドマークタワーに新店舗も開設。今後は関西・中部への進出も視野に商店街等の建て替え需要の取り込みを図る。

※※※
 住宅市場全般の低迷が長引き、本格的な需要減少市場の到来もささやかれてきた。専用住宅の受注は各社とも低調で、受注高は伸びていても受注棟数は減り続けている。そうした中で、都市部の建て替え需要の取り込みは市場低迷の打開策として、各社が力を入れる。

 4~5月の大型連休は、周辺部では閑古鳥の鳴く住宅展示場があったが、同社の新宿モデルハウスには約450組が訪れ、都市部での建て替え・土地活用需要の底堅さを思わせた。4月に限れば多層階住宅の受注高は前年同月比30%増と好調。工業化住宅では考えられなかった階層の住宅で、同社が苦戦を打破できるか注目したい。(晋)

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【関連ニュース】
多層階住宅の販売を強化。東京・新宿に6階建てモデルハウス/パナホーム(2015/05/12)

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