記者の目

2015/8/28

「実物で見る」リフォーム ビフォー・アフター

“リフォーム専用”のモデルハウス

 ストック活用の機運が高まると共に、リフォームへの注目度は日増しに高まっている。中古住宅を購入して何らかのリフォームを実施する人は非常に多く、不動産流通会社にとっても、仲介時のリフォーム提案はもはや“常識”といっても差し支えないだろう。しかし、多くのリフォーム会社の営業拠点はショールーム形式であり、実物の住宅をリフォームして施工後のイメージをわきやすくする営業拠点は少ない。  そうした中、ミサワホーム(株)子会社でリフォーム事業を手掛けるミサワホームイング(株)が、横浜市都筑区の総合住宅展示場「ハウスクエア横浜」にリフォーム専用のモデルハウスを開設した。

耐震と制震を兼ねた同社オリジナルの「MGEO-R」の実物大模型は、MM21の展示場から移設した
耐震と制震を兼ねた同社オリジナルの「MGEO-R」の実物大模型は、MM21の展示場から移設した
外壁はリフォームしていないので、室内の一角に外壁・屋根のカラー・建材を展示している
外壁はリフォームしていないので、室内の一角に外壁・屋根のカラー・建材を展示している
3階にはマンションスケルトンリフォームのイメージ展示を行なっている
3階にはマンションスケルトンリフォームのイメージ展示を行なっている
コンクリートはビニールクロスで再現しているが近づいてもクロスとは気づきにくいリアルさ
コンクリートはビニールクロスで再現しているが近づいてもクロスとは気づきにくいリアルさ
建材のセレクトスペースなど、従来のリフォームショールーム的な機能も
建材のセレクトスペースなど、従来のリフォームショールーム的な機能も

「他社のモデルハウス」を借りて改装

 リフォーム専門のモデルハウスと言えば、住友不動産(株)が大阪と愛知で「新築そっくりさん」のモデルハウスを総合展示場に出展している。こちらは、自社が新築住宅事業のために使っていたモデルハウスをリフォームしたもの。中小工務店を含め、リフォームモデルハウスは、こうした“自社施工の住宅を改装”したものがほとんど。そうした中で、ミサワホームイングのモデルハウスは、他社が新築営業に使っていたモデルハウスをリフォームしている。

 モデルハウスを建てた会社が展示場から撤退する際、展示場運営会社が譲り受け、それをミサワがカタログ類も含めて居抜きで借り受けてリフォーム。ミサワにとっては新築費用が抑えられ、撤退する会社にとっては、解体費用や膨大な数のカタログ類の廃棄コストなど、撤退費用を節約できる効率的な仕組みだ。

 同社がこうした手法でリフォーム専用のモデルハウスを出展するのは2度目。5年ほど前に同じみなとみらい21地区の総合住宅展示場に出展したのが最初だ。「最初のモデルハウスはコンセプトを持たせませんでしたが、年間の受注金額は約1億5,000万円と、上々の数字を上げていました。ちょうど減価償却の完了する今年3月のタイミングでこの展示場への出展を打診されたため、MM21のモデルハウスは撤退し、コンセプトを持たせたモデルハウスを新設することにしました」(ミサワホームイング執行役員神奈川支店長・細田剛史氏)。

出展コストは新築の3分の1

 出展コストは、約2,000万円。一般的な新築向けのモデルハウスに比べて約3分の1程度に抑えた。「ポイントを絞ってリフォームしたことに加え、当社の新築モデルハウスの展示物から、防音室の設備やMGEO-Rの実物大模型など、さまざまな展示物を流用できました。また、従前のモデルハウスの出展社がカタログ類もそのまま置いていってくれたので、細かなところでコストを削減できています」(同氏)。

 一般的に、住宅メーカーのリフォーム事業は、自社がかつて建築した住宅のリフォームを中心に手掛けることが多い。しかしミサワグループでは、1980年より自社施工に限定せず、一般の木造住宅のリフォームを手掛けており、住宅メーカーとしては珍しい存在。現在はリフォーム受注高の約半分を自社施工以外の住宅が占めている。こうした背景もあり、自社モデルハウスのリフォームでは、訴求対象がOB顧客に限定されかねず、一般顧客に対するアピールがしにくくなる側面もあることから、他社の木造軸組のモデルハウスを活用しようという考えに至った。

「ペット」「耐震」「マンション」の3コンセプト

 モデルハウスは3階建て。外観については外壁の塗り直しなどはしておらず、ほぼ従前のままとなっている。1・2階は同社の「ルルム」ブランドで展開する戸建てリフォーム、3階ではマンションの定額制リフォーム「マルム」を提案。

 リフォームに特化した展示場と言えば、全面改装を見せがちだが、全面改装の需要は実は少ない。同社でも300件に1件程度で、ほとんどのユーザーはポイントを絞り込んでリフォームするという。そのため同モデルハウスは、より実際のリフォーム工事に近い展示を見られるように仕立てた。1、2階の戸建てリフォームのスペースのプランニングで特に訴求したのは、「ペット対応」と「耐震化」。いずれも、現在のリフォーム市場で需要の多いコンセプトだ。

 「ペット対応」では、玄関脇には土間と直接つながるペット共生ルームを設置した。フローリングを滑りにくくする樹脂コーティングや、足洗い場などを展示して、ペット愛好家にアピールする。「ペットのためにリフォームという要望は、意外と多いのです」(同氏)。

 「耐震化」では、スペース内に耐震コーナーを設け、ミサワホームの在来木造住宅用耐震・制震パネル「MGEO-R」の実物を展示。横浜市は耐震工事の補助金が他の地域に比べて大きいこともあり、耐震リフォーム需要は強く、同社でも積極提案している。2階には、外装の展示コーナーを設置。外装はリフォームしていないものの、屋根や外壁の建材サンプルやカラーサンプルを展示している。

 一方、3階では、マンションのスケルトンリフォームを想定。横浜はこの展示場のある港北ニュータウンをはじめとして、マンションの多いエリア。今後、マンションリフォームの需要はさらに高まると予測し、戸建てのモデルハウスでありながら、マンションを想定したリフォームを提案している。

 面白い試みは、床・壁・天井を取り除いたスケルトン状態の一角の展示だ。とはいえ、あくまでモデルハウスは木造。コンクリートの構造体に模したクロスを張り、マンションのスケルトンのように見せている。近づかなければクロスだとはわからない「だまし絵」のような展示で、ユーザーが驚くことも多いそうだ。「スケルトンリフォームといっても、お客さまはどのような状態になるのかが分かりません」(同氏)として、スケルトン状態を模した展示を行なうことで、リフォームに関する基礎知識を付けてもらうのが狙い。

仲介客連れた不動産会社からの紹介にも期待

 5月にオープンし、当初1ヵ月だけで129組の記名客を集め、その後も順調な来場状況。ミサワのOB顧客だけでなく、他社住宅に住むエンドユーザーも多数来場したているのだという。「この展示場に出展しているモデルハウスの中でも、記名は最多でした。リピーターも多く、上々の滑り出しと言えるでしょう」(同氏)と、リフォームに対する注目度の高さもうかがえる。

 今後は、中古住宅を購入した30歳代の一次取得層に、リフォームする際の参考にしてもらえるよう、ミサワホームの提携不動産会社ネットワーク「ミサワMRD」の会員店をはじめとした地域の不動産会社や、提携する大手流通会社向けに見学会を行なうなど、集客の幅を広げていく。

 「ローコストで建てた住宅に高いコストをかけてリフォームするよりも、いっそのこと建て替えてた方がいいという考え方もありますので、当社としては、ミサワホームの新築との同時提案など、さまざまなアプローチをしていきたい」(同氏)。

※※※

 リフォームはショールーム形式での営業が多く、ユーザーが「実物」を見られる機会は少ない。他社の木造軸組モデルハウスをリフォームして展示するという試みは、よりユーザーの想定するリフォームに近いかたちの実例を見せられるという側面からも貴重な場となろう。エンドユーザーだけでなく、不動産会社にとってもリフォーム後の住宅のイメージを仲介客に見せることで、“仲介+リフォーム”の提案にも有効に使えそうだ。

 新築需要が漸減していく中で、住宅展示場でのモデルハウスのあり方も問われている。今後、リフォームがより一層注目されていくのは想像に難くなく、こうした新築モデルハウスを再利用したリフォーム提案は、新たなビジネスモデルの一環になるかもしれない。(晋)


***
【関連ニュース】
戸建てとマンションのリフォーム体験できる展示場をオープン/ミサワホーム(2015/06/25)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。