記者の目

2015/9/18

コンセプトリノベで賃貸物件を差別化

“料理好きの理想のキッチン”をテーマに

 近年、リノベーション賃貸住宅の供給数は増加。認知度も飛躍的に向上した。リノベーション物件というだけではなかなか差別化が難しい中、事業者はさまざまな工夫をこらしたリノベーションを実施している。その一環として、あえてターゲットを絞ったコンセプトリノベーションの提案も増えてきた。  全国に約49万戸の賃貸管理物件を保有するスターツグループでも、コンセプトリノベーションを強化すると決定。その第1弾として「料理好き単身女性」をターゲットとした部屋を7月に竣工した。同室をモデルルームとして借り上げ、コンセプトリノベのPRを推進している。

“料理好きの理想のキッチン”をテーマに改修した住戸。1DKからワンルームとし、空間をフレキシブルに利用できるように仕上げた
“料理好きの理想のキッチン”をテーマに改修した住戸。1DKからワンルームとし、空間をフレキシブルに利用できるように仕上げた
折りたたみ式のカウンターキッチン。写真はテーブルを広げ、シンクにもフタをした状態。広々使用することができる
折りたたみ式のカウンターキッチン。写真はテーブルを広げ、シンクにもフタをした状態。広々使用することができる
折りたためば限られた空間でも邪魔にならない
折りたためば限られた空間でも邪魔にならない
シンク内も水切り台や収納かごをセットで設置している。好みによって移動や取り外しが可能
シンク内も水切り台や収納かごをセットで設置している。好みによって移動や取り外しが可能
ライティングレールにはリーラーコンセントを設置し、必要なときにコードレスを気にせず利用できる
ライティングレールにはリーラーコンセントを設置し、必要なときにコードレスを気にせず利用できる
上部にあるのが可動式の収納棚。こちらは通常洗面所などに利用されることが多いものだが、あえて居室内で採用した
上部にあるのが可動式の収納棚。こちらは通常洗面所などに利用されることが多いものだが、あえて居室内で採用した

◆料理好きが満足できる空間を徹底研究

 同リノベーションでは「SUUMO」と「クックパッド」の「自宅での調理環境の実態と理想のキッチンに関する調査」(n=4,774)結果を参考にした。同調査ではキッチンに対する不満として「作業スペースがない」「シンクの狭さ」等が上位に。またキッチンを自分好みに変えたいかという問いでは、60%以上が「興味がある」と答えている。

 そこで、料理好きの賃貸ユーザーが考える理想のキッチンプランを練り上げ、管理物件で空きのあった賃貸マンション(千葉県市川市)の1戸をリノベーション。専有面積は35平方メートル、間取りは1DKからワンルームに変更した。
 同プランでは、限られたスペースの中で兼ねられる設備はなるべく集約し、キッチンの使い勝手向上と有効な空間の活用を図った。また、可動式の家具や設備を導入することでキッチンはもちろん、LDK全体をフレキシブルに変化させながら利用できるよう配慮している。

◆フレキシブル性を重視、空間を有効活用

 最大の特徴であるキッチンには、さまざまな工夫を取り入れた。作業スペースを確保できるよう、折りたたみ式のカウンターキッチンをオリジナルで開発。調理スペース、ダイニングテーブルはもちろん、パソコンデスクなどさまざまな用途で利用可能。すべてのテーブル・デスク機能を一ヵ所に集約するという考えだ。さらに折りたためば居室空間を広く、シンクにフタをすればさらに広いテーブルとして利用ができる。

 また、ライティングレールをキッチン上にまで設置し、照明のほか、リーラーコンセントを設置できるようにした。キッチンでは炊飯器やミキサー、コーヒーメーカーなど、使用時に上から電力をとりたいシーンが多いことから、自由な場所に電源が確保できる機能は魅力だ。パソコン等を利用する際にも電源があると便利なうえ、長いコードに悩まされることもない。

 キッチンパネルには磁石がくっつくホーロー製を採用することで、モデルルームでは磁石でくっつけるタイプの収納棚やタオル掛けを設置するなど、壁を傷つけずさまざまな用途に有効活用できるようにした。

 また居室から廊下まで壁にレールを設け、スライドできる吊戸棚を設置。入居者の収納ニーズによって位置を変えることができる。各棚にはハンガーレールがあるため、衣類をかけたり、洗濯物干しにも利用できる。

◆真のユーザーニーズに応える

 リノベーション費用は全体で約230万円、キッチンのみで約90万円。現在、オーナー向けに随時見学会を開催しており、反響は上々だという。「ただ、通常のワンルーム向けのキッチンと比べれば価格が倍ほどしますので、導入に踏み切っていただくにはまだまだご説明が必要。将来的に賃貸住宅は余り、さらに差別化が重要になっていくということをきちんとご理解いただいたうえで、PRを促進していきたいと思います」(スターツアメニティ(株)技術営業部技術営業推進室リノベーション推進・板倉史芳氏)。

 モデルルーム終了後は従前家賃から5,000円程度アップして貸し出していく方針。将来的には同キッチンをコンパクトタイプのワンルームにも積極的に導入していきたい考えだ。

 賃貸住宅の客付けは相変わらず厳しい状況が続いている。だからこそ賃貸住宅には事業者側の発想だけでなく、ユーザーニーズをくみ取った新たな企画が求められている。多様化するユーザーニーズのどこに着目し、賃貸住宅に落とし込むのか、ますます不動産会社の腕が試される時代が到来している。(umi)

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【関連ニュース】
コンセプトリノベ強化、千葉・市川にモデルルーム/スターツグループ(2015/08/10)

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