記者の目 / 開発・分譲

2015/12/14

ここまできた「間取り可変」マンション

キッチンも動かせる!三井不動産レジデンシャルの「イマジエ」

 マンションの歴史は、ユーザーニーズへの対応への歴史でもある。耐久性や快適性など、ほとんどすべてのニーズに対応してきた分譲マンションだが、ただひとつ容易に回答が出せなかったものが、「間取りの可変」だ。オーダーメイドマンションや長期優良住宅など、ごくわずかのマンションでしか実現できなかった「(水回りを含めた)間取りを自由に変える」という夢を、大幅なコストアップをせず「ほぼ実現」したのが、三井不動産レジデンシャル(株)の「imagie(イマジエ)」。第1弾となる「パークホームズ赤羽西」(東京都北区、総戸数160戸)をみた。

「パークホームズ赤羽西」の「イマジエ」モデルルーム。壁から天井までフラットの大空間が一目でわかる
「パークホームズ赤羽西」の「イマジエ」モデルルーム。壁から天井までフラットの大空間が一目でわかる
「パークホームズ赤羽西」完成予想図。「イマジエ」として用意されるのは、通常は売りづらい北西面の住戸
「パークホームズ赤羽西」完成予想図。「イマジエ」として用意されるのは、通常は売りづらい北西面の住戸
「イマジエ」概念図。アウトフレームによるフラットな室内空間、サニタリーゾーンの集約化で大きなスペースを生み出し、それを可動間仕切り収納で自由に仕切る。「コアゾーン」を起点に、キッチンが自由に配置できる
「イマジエ」概念図。アウトフレームによるフラットな室内空間、サニタリーゾーンの集約化で大きなスペースを生み出し、それを可動間仕切り収納で自由に仕切る。「コアゾーン」を起点に、キッチンが自由に配置できる
モデルルームは、SOHO向けにアレンジした間取り。赤い部分が自由に動かせる収納やキッチン。床のフローリングやタイルの増減は自由にできる
モデルルームは、SOHO向けにアレンジした間取り。赤い部分が自由に動かせる収納やキッチン。床のフローリングやタイルの増減は自由にできる
間取りを形作るコンポーネンツである収納は、扉付きやデスク付きまで9種類を用意
間取りを形作るコンポーネンツである収納は、扉付きやデスク付きまで9種類を用意
間取りが変われば照明も変わるため、自由にスポット照明を設置できるよう、電源レールが壁に仕込まれている
間取りが変われば照明も変わるため、自由にスポット照明を設置できるよう、電源レールが壁に仕込まれている
自由に動かせる「イマジエキッチン」。ユニットは2分割でき、ストレートにもアイランドにもL字にも変形する
自由に動かせる「イマジエキッチン」。ユニットは2分割でき、ストレートにもアイランドにもL字にも変形する
「イマジエ」の床に設置される「キッチン接続ポート」。給水管、排水管、電源が備わっており、「イマジエキッチン」は、ここに接続することでキッチンとしての機能を果たすことができる。住戸中央部の「コアゾーン」に3ヵ所設けられており、サニタリースペースを除いた部分の約半分へ自由に配置できる
「イマジエ」の床に設置される「キッチン接続ポート」。給水管、排水管、電源が備わっており、「イマジエキッチン」は、ここに接続することでキッチンとしての機能を果たすことができる。住戸中央部の「コアゾーン」に3ヵ所設けられており、サニタリースペースを除いた部分の約半分へ自由に配置できる
「イマジエキッチン」に備わる、排気ダクト不要の「循環型レンジフード」。油煙や臭気・水蒸気をフードが吸い込み、フィルターを通すことで空気を洗浄、ほとんどの臭いを消し去ることができる
「イマジエキッチン」に備わる、排気ダクト不要の「循環型レンジフード」。油煙や臭気・水蒸気をフードが吸い込み、フィルターを通すことで空気を洗浄、ほとんどの臭いを消し去ることができる
「イマジエ」では、玄関側のサッシも掃出し窓としている。これにより、リビングスペースとして使うなど、間取りのバリエーションを増やすことができる
「イマジエ」では、玄関側のサッシも掃出し窓としている。これにより、リビングスペースとして使うなど、間取りのバリエーションを増やすことができる
「イマジエ」に導入された「ウェルカムポーチ」。玄関前のアルコーブをポーチ状に処理したもので、その広さは11平方メートル。居室と接する2ヵ所のサッシは掃出しサッシとなり、バルコニーのように利用することで、LDKの範囲を拡大することができる
「イマジエ」に導入された「ウェルカムポーチ」。玄関前のアルコーブをポーチ状に処理したもので、その広さは11平方メートル。居室と接する2ヵ所のサッシは掃出しサッシとなり、バルコニーのように利用することで、LDKの範囲を拡大することができる

マンションの間取りを“住んでから”変える

 マンションの間取り可変――これほどハードルの高いものはない。構造壁を除いた壁はリフォームでその位置をある程度は変えられるが、給排水管の取り回しの制約から、水回りの位置は一度決めたら原則動かせないのが基本だ。

 もちろん、SI(スケルトン・インフィル)構造のオーダーメイドマンションやSIが前提の長期優良住宅であれば水回りも含め自由に間取りを動かせる。しかし、それらは販売価格が高いし、そうしたリフォームコストは数百万円単位で容易に取り組めない。新築マンションでは、購入時のメニュープランが(無料で)間取りを変える最初で最後のチャンス。最近では、可動間仕切りや可動家具などで住みながら間取りを変えられるマンションも増えてきたが、まだまだ少数派。二重床で配管等をいじれたとしても、かかるコストは「気軽にリフォームできる」範疇を超えてくる。つまり「永住志向に合わせた間取りの可変性」について、マンション業界は「100点満点」の回答を持っていないのだ。

 その制約をかなりの部分で解消し、「90点」にまで近づけてきたのが、三井不動産レジデンシャルの「イマジエ」である。なぜ「90点」か、それは動かせる水回りがキッチンだけだから。しかし、マンションにおけるコミュニティの起点となるキッチン(LDK)が自由に動かせれば、間取りの可変ニーズのほとんどを実現できる、と記者は考える。


フラットな室内空間を可動収納で仕切る

 今回、「イマジエ」が設定されたのは、「パークホームズ赤羽西」の北面住戸1ブロック6戸。対象住戸は3面採光で、北側に窓先空間(サービススペース)を持つ(実はこれが重要な役割を果たす)。共用廊下から東側にある縦長のポーチにアプローチする、東西に長い専有面積72平方メートルの住戸だ。

 「イマジエ」の根幹となるのは、梁と柱を住戸外に出したアウトフレーム工法。これ自体は、何ら目新しいモノではない。次に、キッチンを除いた水回り(トイレ・洗面所・浴室)の、住戸北側中央への集約設置。吸排気のダクトは、サービススペース側にレイアウト。これにより、室内にダクトスペースが出ず、2ヵ所のパイプスペース以外、室内には下がり天井も、梁も柱も出ない、フラットな空間ができあがる。通常は段差が付く玄関部分は、ポーチを緩やかなスローブとすることで、段差を解消している。

 重要なツールが、「Kanau Shelf」と名付けられたキャスター付きの可動収納。クローゼットだけでなく、シューズボックス、両側から収納できるダブルシェルフユニット、デスクがついたユニット、キッチンのバックカウンター、建具(居室扉)がついたユニットなど9種類が「基本セット」となっており、追加でも購入できる。これらを組み合わせて、サニタリースペースを除いたフルフラットな大空間を、好きなように仕切ることが可能だ。


室内の半分で動かせるキッチン

 最大の目玉が「imagie kitchen(イマジエキッチン)」だ。同社、(株)長谷工コーポレーション、(株)大塚家具、富士工業販売(株)が共同開発したもので、下部にキャスターが付いており、自由に動かせる(といっても300キロもあるので、それなりに大変だが)。位置が決まれば、耐震マットが張られた足で固定する。同社の社内実験で、震度7にも耐えることを確認している。

 もちろん、位置を動かしただけでは、キッチンは使えない。水とお湯を使うための給水、使い終わった水の排水、調理をするためのコンロ、煙を逃がすレンジフードなどの問題が残る。「イマジエ」の床には「キッチン接続ポート」が設置されている。ポートには、給水管、排水管、電源が備わっており、「イマジエキッチン」は、ここに接続することでキッチンとしての機能を果たすことができる。

 ポートは、住戸中央部の「コアゾーン」に3ヵ所設けられており、サニタリースペースを除いた面積の約半分へ自由に配置できる。2分割できるため、ストレート型、アイランド型にも変形。また、ポートは増設が可能なため、理論上は部屋のどこにでも持っていくことが可能となる。
 「移動は、給排水管の取り付け取り外しが伴うため、さすがに入居者様個人で行なうのは難しいですが、工賃は10万円以下で十分対応できます」と、同物件の販売を担当する「パークホームズ赤羽西レジデンシャルサロン」副所長の安達史将氏は話す。

 この「イマジエキッチン」の立役者が、「循環式レンジフード」である。キッチンの可変にとって、給排水以上の難敵は「排気」だ。レンジフードがなければ調理に伴う臭気や油は室内に広がる。従来型のレンジフードでは、設置場所に合わせダクトを這わせる必要があり、それを収めるスペースは天井高を下げなければならない。循環式レンジフードは、油煙や臭気・水蒸気をフードが吸い込み、フィルターを通すことで空気を洗浄、ほとんどの臭いを消し去ることができる(ただし、その構造上、IHクッキングヒーターだけの対応となる)。

玄関側もバルコニーとして使える

 「Kanau Shelf」や「イマジエキッチン」のインパクトに隠れてあまり目立たないが、同物件に同時に導入された「ウェルカムポーチ」も面白い。玄関前のアルコーブをポーチ状に処理したもので、その広さは11平方メートル。居室と接する2ヵ所のサッシは掃出しサッシとなり、玄関と合わせ完全バリアフリーとなる。通常のマンションでは、玄関周りの居室は(廊下に接するため)ほとんどは腰窓で、個室としての利用が前提となるが、「イマジエ」ではポーチ側が独立していることから、バルコニーのように利用することで、LDKの範囲を拡大することができる。

 また、「イマジエ」の居室側面には、自在に照明コンセントを増減できる「ライティングレール」が埋め込まれており、間取りの可変に合わせた照明配置ができる。照明スイッチも一ヵ所に集中配置し、16パターンを記憶できるなど、空間設計に合わせ自由な照明パターンを楽しめるようにもしている。

 「イマジエ」は、キッチンや収納の可動対応でそれなりのコストはかかっているが、北側住戸での設定となることから、販売価格が他の住戸より不自然に高くなることはない。わずか6戸の設定ということもあり反響は上々で、「明確なライフスタイルを描いている来場者には、高い評価をいただいている」(安達氏)という。

 しかし、いざ「間取りを自由にしていいですよ」と言われても、初めてマンションを買うユーザーが理想の間取りを描くのは難しい。そこで同社は、7つのライフスタイルをもとにした間取りプランを提示している(いずれも、標準価格で組み立て可能)。もちろん、その通りにする必要はないし、失敗だなと思ったらいくらでも変えられる。

 マンションを手にした瞬間しか与えられなかった「間取りが変えられるチャンス(メニュープラン)」を、マンションに住む限りいつでも可能にした「イマジエ」の意義は大きい。一般的なファミリーマンションの可能性は、また大きく前進したのである。

※記者追記

 この記事を書いた直後、同社マンションでの「杭不正問題」が発生しました。記事化の見送りも考えました。もちろん、売主としての同社の責任は重いですが、業界をリードする商品企画と開発能力は、今回の事件とは別に評価すべきと考え、あえて記事をリリースしました(J)


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【関連ニュース】
間取りの自由度大幅に高める可変システムを開発/三井不動産レジデンシャル(2015/09/08)

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