記者の目

2015/11/20

ゴルフ好きにはたまらない

ゴルファーのための「賃貸マンション」

 「週末はゴルフ三昧で過ごしたい」「自宅にパターやバンカーの練習場があったら、わざわざゴルフ練習場に行かなくてもいいのに」…。こんな願いをかなえてくれる、ゴルファーにとっては夢の賃貸マンションが登場した。それが、(株)クリーク・アンド・リバー社(東京都千代田区、代表取締役社長:井川幸広氏、以下「C&R社」)のアーキテクト・エージェンシーが手掛けた「GOLF LiViNG KOGA」(茨城県古河市、総戸数20戸)だ。最新のゴルフシミュレーターやバンカー・屋内パター練習場などを設置するなど、ゴルフ好きにはたまらない設備を導入している。  新築マンション・アパートが乱立する同市において、新築とは別の付加価値で差別化した同マンションを見学してきた。

サービス付き高齢者住宅をリノベーションした、ゴルファー向け賃貸マンション「GOLF LiViNG KOGA」。外観はゴルフ場のグリーンをイメージして緑色に塗装、補修したのはこの部分のみ
サービス付き高齢者住宅をリノベーションした、ゴルファー向け賃貸マンション「GOLF LiViNG KOGA」。外観はゴルフ場のグリーンをイメージして緑色に塗装、補修したのはこの部分のみ
居室内は床の貼り替え、ドアの塗装、キッチンの交換程度にとどめ、風呂・トイレはそのまま使用することとした
居室内は床の貼り替え、ドアの塗装、キッチンの交換程度にとどめ、風呂・トイレはそのまま使用することとした
スイングフォームや球のスピードをチェックすることができる最新式のゴルフシミュレーター
スイングフォームや球のスピードをチェックすることができる最新式のゴルフシミュレーター
入居者専用のキャディバックロッカーは、住戸分の用意がある
入居者専用のキャディバックロッカーは、住戸分の用意がある
住人が集えるバーカウンター付きのゴルフラウンジ。お酒を片手にゴルフ談議に花を咲かせるもよし、読み放題のゴルフ関連書籍を楽しむもよし
住人が集えるバーカウンター付きのゴルフラウンジ。お酒を片手にゴルフ談議に花を咲かせるもよし、読み放題のゴルフ関連書籍を楽しむもよし
ラウンジに設置している大型TVでは、ゴルフチャンネルやゴルフ中継を満喫できる
ラウンジに設置している大型TVでは、ゴルフチャンネルやゴルフ中継を満喫できる
フラットなものから起伏のあるものまで、さまざまなパター練習場を設置。スコアアップに欠かせないパッティングの練習が毎日できる
フラットなものから起伏のあるものまで、さまざまなパター練習場を設置。スコアアップに欠かせないパッティングの練習が毎日できる
エントランスの脇に設置したバンカー練習場。ゴルフ練習場でもバンカーがあるのはめずらしい
エントランスの脇に設置したバンカー練習場。ゴルフ練習場でもバンカーがあるのはめずらしい
1階南側の部屋の庭には、住人専用の「鳥かご練習場」を設置。自分だけの空間で秘密の練習ができる
1階南側の部屋の庭には、住人専用の「鳥かご練習場」を設置。自分だけの空間で秘密の練習ができる

◆空室だらけのサービス付き高齢者住宅をリノベーション

 同物件は、C&R社が全国賃貸管理ビジネス協会(全管協)と提携し、「建築士と創る賃貸物件3+(ミタス)・プロジェクト」の企画第1弾として発表。そんな折、サービス付き高齢者住宅を管理する全管協会員の管理会社(株)オクスト(茨城県猿島郡、代表取締役社長:小川浩由氏)から「20戸のうち3戸しか埋まっていない。何とかならないか」と相談をもちかけられ、プロジェクトが始動した。

 「ミタス・プロジェクト」は今年6月、オーナー、全管協、C&R社が連携することにより、「入居率アップ」「賃料アップ」「競争力の長期維持」の“3つを満たす”賃貸物件をつくり出すことを目的に立ち上げたもの。C&R社が保有するデータベースの中から、クライアントの要望に見合う建築士を絞りコンペを実施。施工会社もコンペ形式により選定することで、品質の維持・コストの最適化を図る。
 「選ばれた設計士が企画からデザインまでをプロデュースするため、すべてがオーダーメイドとなります。地域特性や立地条件、入居者ニーズを踏まえ、クライアント個々に最適な物件を提供していくことが最大の目的であり、強みでもあります」(C&R社建築事業部ディビジョンマネージャー・日髙浩一氏)。

 昨年12月、コンペ候補者の1人だった一級建築士の須貝重義氏((有)スタジオ・エイチ・プラス担当建築士)が施設を内見に訪れた際、車で1時間圏内に25ヵ所以上のゴルフ場がひしめき合い、周辺にはゴルフショップも多く点在するという立地に着目。ゴルフ環境に最適と判断し、ゴルファーのための賃貸マンションにリノベーションすることを企画・提案したところ、須貝氏の案がコンペを勝ち抜いた。

◆自宅にいながら「シングルプレイヤー」も夢ではない!?

 同物件は2002年4月建築、敷地面積2,195.39平方メートル、延床面積1,546.37平方メートル、鉄骨造地上2階建て。各住戸の面積は43.74平方メートル、1階南側に付いている専用庭が約25~39平方メートル。総改修費は6,000万円で、全額オーナーが負担。利回りは25%以上、満室稼働であれば、4年半~5年くらいで事業費を回収できる見込みという。

 建物や居室内の傷みがほとんどなかったため、各居室は床の貼り替え、ドアの塗装、キッチンの交換程度にとどめ、風呂・トイレはそのまま使用することとした。
 「各住戸のドアは、高齢者住宅だった頃の引き戸のまま。賃貸マンションではめずらしい仕様ですが、車椅子が通れるほどの広さなので、大きなキャディバッグも楽に運べます。普通の賃貸マンションでは採用されない造りだと思いますが、ゴルフマンションではメリットにできるんです」(須貝氏)。

 専有部分には極力コストをかけず、共用部分の改修を重点的に実施。「ゴルフ好き」が喜ぶさまざまな設備を随所に散りばめた。
 厨房を撤去し、最新式のゴルフシミュレーターを設置。スイングフォームや球のスピードをチェックすることが可能で、有名ゴルフコースの「セントアンドリュース」を体験することもできる。入居者専用のキャディバッグロッカーも住戸分用意した。
 厨房に隣接する食堂は、住人が集えるバーカウンター付きのゴルフラウンジに。大型TVでゴルフ番組を中継したり、関連書籍も豊富に取り揃えている。

 車椅子が楽に通れる広々とした共用廊下には、本格的なパターコーナーを数ヵ所に設置。フラットなものから起伏のあるものまでさまざまで、スコアアップに最も重要なパッティングの練習が毎日できる。
 また、エントランス脇にはバンカー練習場を備えたほか、1階南側の部屋の庭には、住人専用の「鳥かご練習場」も設置した。

◆「ゴルフ」が生み出すコミュニティ

 同物件がある古河市の人口は約14万5,000人。大手自動車メーカーの工場や関連企業の誘致により、3年ほど前から新築マンション・アパートが乱立しているが、供給過多状態で入居率は芳しくないという。「ゴルフ好き」に特化し、新築とは別の付加価値で差別化した同マンションは、市内はもとより、館林市、羽生市、加須市などの周辺の市や、東京都内から週末のみセカンドハウスとして利用するユーザーの入居も視野に入れている。
 
 「趣味(ゴルフ)のコミュニティはつながりが深い」と話す須貝氏は、老若男女を問わず、さまざまな世代に「ゴルフ」を軸としたコミュニケーションを楽しんでもらいたい考えだ。

 10月23日の竣工後から入居者を募集しているが、「ゴルフマンション」の噂をいち早く聞きつけた2名が、竣工前に入居を即決したという。「うち1人はゴルフショップの店長で、住人のシャフト交換を無料で行なってくれると言っています。新商品の紹介もしてくれるそうで、入居者同士のいいコミュニティづくりの中心的存在となることを期待しています」(須貝氏)。

◆打ちっぱなしに夢中で、内見時間は通常の3倍

 賃料は、5万9,000~7万2,000円+設備使用料(1万円)と、周辺相場に比べて少し高めだが、反響は上々という。
 「内見に訪れた方は、まずシミュレーターでの打ちっぱなしに夢中になりますね。内見は、通常より3倍くらいの時間がかかります(笑)。年内に満室を目指したいです」と、地元管理会社(株)オクストPM事業部部長の渡邉昌英氏は話す。

 クリーク・アンド・リバー社は、コンセプトマンションのシリーズ化を検討しており、菜園や山登り、バイクなどの遊び・趣味をテーマとしたマンションを計画中。現在は関東エリアが中心だが、ゆくゆくは地方都市にも進出したい考えだ。

 ゴルフ好きの人に囲まれ、教えてくれる人もたくさんいるため、初心者でもさぞかし上達が早いだろう。ゴルファーの第一関門である「100切り」をするのも、そう遠くないかもしれない。記者も、一度はやめたゴルフだが、こんなマンションに住むのなら、また始めてもいいかな…と思ってみたり。

 趣味でつながる者同士の間では、利害を超えた信頼関係ができ、これまでとは違う新しいコミュニティを形づくることができるのではないだろうか。 
 地元管理会社が、地域の特性や豊富な入居者データを提供、それをもとにC&R社がアテンドした建築士が企画・設計し、オーナーに価値ある賃貸物件を提供するという「ミタス・プロジェクト」は、空室対策の新たなビジネスモデルとなるのか。同マンションのこれからと、第2弾、第3弾にも注目したい。(I)

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【関連ニュース】
茨城・古河に高齢者向け住宅をリノベしたゴルフ賃貸マンション/クリーク・アンド・リバー社(2015/10/28)

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