記者の目

2016/1/26

マンションの資産価値を上げる管理組合の活動

「コミュニティ」「民泊」テーマに情報共有

 昨今、マンションに住まう人たちを取り巻く環境も変化しており、民泊への対応やコミュニティ醸成など、頭を悩ませている管理組合の役員・理事長は多い。そうした中、主に大規模マンションの管理組合役員で構成する「マンション管理組合理事長勉強会」(RJC48※)では不定期で開催している勉強会を通じて、ノウハウの共有を図っている。 ※「理(R)事(J)長(C)」の略。「48」はメンバーが50人程度だったことから語呂合わせで付けた。

約50人の参加者が各マンション管理組合の取り組みに耳を傾けた
約50人の参加者が各マンション管理組合の取り組みに耳を傾けた

◆“孤独”な理事長

 総戸数が数百戸規模になる大規模マンションは一つの“まち”のようなもので、大規模修繕では億単位のお金が動く。したがって、その管理組合の理事長には重い責任と独特のノウハウが必要になるし、管理会社からの連絡も頻繁にやってくる。
 しかし、マンションの管理について勉強しようと思っても誰に聞けばよいのかもわからない“孤独”な環境にあるのが実情。そこで、代表の應田治彦氏がRJC48を5年ほど前に立ち上げ、勉強会やインターネット上での情報交換を通じて、管理組合役員同士が“横のつながり”をつくっていった。不定期で開催している勉強会のほか、普段はインターネットの掲示板で情報交換を行なっており、現在では150のマンション管理組合から約170人が参加している。参加しているマンションの合計戸数は約5万戸。

 1月16日に都内のマンションで行なわれた、「理事会活動の活性化」と「コミュニティの活性化」、「民泊対策」をテーマにしたRJC48の勉強会には約50人の管理組合役員が参加。4人のメンバーが、理事会・コミュニティ活動の活性化、民泊対策について講演。各マンションで行なっている先進的な取り組みを紹介し、参加者が情報共有した。

 講演したのは「白金タワー」(東京都港区)全体管理組合理事長の星野芳昭氏、「東京ベイスクエア・プリズム」(千葉県船橋市)のプリズム管理組合理事長・中原幹郎氏、「ブリリアマーレ有明」(東京都江東区)管理組合法人監事・A氏、「イニシア千住曙町」(東京都足立区)管理組合法人副理事長でRJC48代表の應田治彦氏。
(ブリリアマーレ有明監事の方はマンションを代表する立場ではないとのご本人の希望により、本記事では「A氏」と記載します)

◆理事会の活性化とコミュニティの醸成

 白金タワーの星野氏は、再開発組合の役員がそのまま役員を務めていた竣工初期の管理組合から、管理組合としての経営の確立の変遷を説明。同マンションでは2010年度に管理会社の不祥事が発覚し、管理会社を入れ替え、理事会メンバーも総入れ替えになったのを契機として、さまざまな面で改革が進んだ。同氏も理事・理事長として改革をけん引、管理組合の会合を開く「役員室」の設置や、敷地内全面禁煙などを実行した。また、駐車場の外部委託による管理組合の収入増、「白金タワー」の商標権取得、管理組合による株式運用など、管理組合運営に経営の視点を組み込む取り組みを行なったという。
 さらに12年度には、外部有識者を監事として管理組合に招き入れるという試みも行ない、より客観的で健全な理事会運営に向けた体制を整えた。「外部監事は、企業のガバナンス担当者に依頼しています。住んでいないからこそ、問題を指摘しやすいという側面があります」(星野氏)。

 プリズムの中原氏は管理組合と一体となったマンション自治会の取り組みを紹介した。周辺の開発により同マンションを取り巻く住環境への弊害が懸念されたことから、行政への陳情を目的に、管理組合をベースに自治会を結成。理事会のメンバーがほぼ自治会の役員も兼ねている。
 コミュニティ活動については、全戸配布の会報誌やエントランスに設置したデジタルサイネージにイベントの写真を放映するなど、住民が自然とイベントに参加したくなるように周知を図っている。その結果、イベント運営に携わる住民のボランティアスタッフが05年からの平均で100人を超えており、住民のマンション運営への参加意識が高まったという。

 イニシア千住曙町の應田氏は、「管理組合の運営では、理事会のガバナンスがもっとも大切」という。前記したように、マンション管理組合の理事長はすべての責任を負うことになるため、負担が多い。その解決策として、同マンションでは管理組合を法人化して副理事長にも代表権を付与。理事長は緊急かつ重要な直轄案件のみに対応すればいい体制をつくった。
 また、同マンションの管理組合理事については「コミュニティイベントの参加者に声を掛けて次期の理事に立候補してもらっています」という。さらに法人化に伴って、1年任期の輪番制だったのを、2年任期の半数改選に切り替えたことで、スムーズな理事会運営を実現するとともに、役員報酬の設定なども行なった。マンション管理士に引き継ぎマニュアルの作成を依頼したり、専門知識が要求される営繕委員を外注するなどといった取り組みも実施した。

◆民泊対策に各組合が知恵絞る

 現在、注目を浴びている民泊問題。分譲マンション管理組合にとっては、住民の平穏な生活やセキュリティが危険にさらされる可能性があるため、大きな問題だ。今回の勉強会では、管理規約で民泊禁止を明言して話題を集めた「ブリリアマーレ有明」の管理組合も取り組みを紹介。「民泊は、マンションを管理組合側からすると悪夢でしかありません。平穏な環境の破壊、セキュリティの懸念、区分所有の管理費で賄っている共用施設を部外者が“フリーライド”することなど。そもそも分譲マンションは不特定多数のゲストを受け入れる構造にはなっていません」(A氏)と語る。

 同マンションの公式ブログで、民泊を禁止することを公表したところ、多くの媒体で取り上げられ、民泊と分譲マンションが相いれないものだという認識が広がったことも大きかったという。「現在は規約によって禁止していますが、今後棟内で民泊が発生した場合のために、マンション内の民泊発生が共同体の不利益であるという広報を徹底することが大切だと考えます」(A氏)

◆近隣管理組合、管理会社と連携

 また、白金タワーでは、管理組合の役員が民泊のマッチングサイトを定期的にチェック。近隣物件も含めて募集住戸があった場合に、当該マンションの管理組合に注意を促す。「近隣のマンション管理組合や、それらの管理会社とも連携することで、民泊を防いでいる」(星野氏)。

 プリズムにおいては、自宅(専有部)の空き部屋を民泊で活用することについては自由だが、ゲストルームなど共用施設の使用については規約で禁止した。「規約を破った場合、特別利用料金として50万円を求めている。また、民泊宿泊者が共用施設を利用した場合については不法侵入者とみなして警察に通報することも辞さない態度を取っている」(中原氏)。

 應田氏は、「区分所有法には『規約に別の定めがなければ』という文言が多数登場します。つまり、規約が優先されるということです。要は、“ペット不可”の規約が可能なのと同じこと。ただし、ブロックするのであれば、管理規約に条文を書き加えるべきです」と話し、同マンションの管理規約改正案を例文として示した。

◆資産価値の維持・向上のために

 こうした取り組みに共通するのはマンションの資産価値を住民が自ら守るという姿勢。ブリリアマーレ有明では、以前管理組合主催で仲介会社向けに同マンションの豪華な共用施設の見学会を行なった。「資産価値を上げるには、出る人を減らし、住みたい人を増やすのが大切。購入希望者に紹介する仲介マンは実際に共用施設を体験したことがないまま、当マンションを紹介している。体験したことがないものを紹介しても説明は上滑りする。そこで、最大の特徴であるプールやスパといった共用施設の見学会を開催して、より理解を深めてもらうことが重要だと考えました」(A氏)。
 應田氏も「こうした“自分のマンションにしかないもの”を理解し、それを外部に売り込んでいく」ことは、マンションの資産価値向上に向けて大切な管理組合の役割だと語る。

◆管理組合の重要性がますます高まる

 長年使われている言い回しだが、「マンションは管理を買え」という格言があるほど、管理が分譲マンションの資産価値を左右する。その旗振り役・司令塔となるマンション管理組合の役割は非常に大きい。建物が老朽化し、管理組合が機能不全に陥ったマンションも少なくないと言われるなか、こうした“勉強する管理組合”が増え、マンションの居住環境が整備されていくことは中古流通市場の活性化という側面から見ても十分有意義だ。(晋)

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