記者の目

2016/6/24

ペット保険最大手が提案する「どうぶつ共生」

進化する「ペット共生賃貸住宅」

 現在、日本全国で2,200万~2,300万頭の犬・猫がペットとして飼育されている。約3件に1件の家庭がペットを飼っている計算だ。賃貸住宅においても、「ペット可」物件は人気が高い。そうした中、ペット保険最大手のアニコム損害保険(株)が賃貸住宅の運営に乗り出した。同社はペット保険の国内シェア60%を誇る、いわば“ペットのプロ”。契約内容やサービスなど、ペット可賃貸物件の運用の参考になりそうだ。

「アニコフローラ高円寺」の外観。1階エントランス前に足洗い場を設けるなど、ペット対応を充実させている
「アニコフローラ高円寺」の外観。1階エントランス前に足洗い場を設けるなど、ペット対応を充実させている

◆ペット飼育のノウハウ生かした資産運用

 「ペット可賃貸住宅」自体は、もはや珍しいものではない。多くの住宅メーカーが「ペット共生」を謳う賃貸住宅を商品化しており、物件の差別化策として高い人気を誇る。ただ一方で、現状の「ペット可」物件の多くは、ハード面の工夫に終始しているものも多く、契約内容やサービスを含めて動物を飼うことのサポートにまで配慮されているかどうかといえば、そうした物件は決して多くない。

 そうした中で、ペット損保の国内シェア約6割を持つ同社が賃貸住宅の運用に参入した。保険料の運用手法の多様化が目的のひとつだ。ある大手保険会社が「日本一の大家」と言われるように、保険会社の不動産運用は一般的。ただ、同社はこれまで不動産への現物投資は行なっていなかったので、保険会社による不動産投資としては後発組になる。そのため、ペット保険で成長してきた同社の特色を生かし、動物の飼育を重視した不動産運用を行なっていくこととした。

 ペットの世界にも人間と同様に高齢化の波が訪れ、生活習慣病ともいえる病気になるペットも増えてきており、同社による保険金支払いも増えていることも背景にある。「お客さまからお預かりする保険料を簡単に引き上げる訳にもいきません。そこで、どうやって保険事故を減らしていくか。ペットと人が一緒に生活する基本の場である“住宅”に着目しました。ペットの食事や運動ももちろん重要ですが、住宅を通じて、適切な情報を提供していくことで、動物も人も幸せになるペットライフを提案でき、ひいては予防や保険事故の減少に繋げていけると考えました」(アニコムホールディングス(株)経営企画部部長=取材時=現取締役・亀井達彦氏)。

◆東京・高円寺に初物件

 3月に竣工した「アニコフローラ高円寺」(東京都杉並区、総戸数15戸)は、売りに出ていた完成間近のシングル向け新築賃貸集合住宅を同社が取得し、ペット飼育に適した設備・仕様・サービスを導入した。「“どうぶつ共生”賃貸住宅」を謳い、動物について知り尽くすペット保険大手ならではのサービスを導入している。

 東京メトロ丸ノ内線「新高円寺」駅より徒歩4分、JR中央線「高円寺」駅より徒歩9分の閑静な住宅街に建つ。幹線道路から一本入った立地で、周囲は戸建住宅だけでなく賃貸住宅も非常に多く、新築とはいえ一般的な賃貸住宅とは一線を画した差別化策が求められる地域だ。敷地面積は約50坪、延床面積は約100坪、鉄骨造4階建て。専有面積は21~24平方メートルのシングル向け。賃料は1K・21平方メートルの住戸で約9万円。

 ハード面は、ペットが滑りにくいフローリングコーティング剤の塗布、足洗い場の設置、コンセント高さの調整など、一般的な「ペット共生」賃貸住宅に求められる設備・仕様を網羅。「完成前の物件を取得したことから、ペット対応の仕様にするのは限界がありました。しかし今後、ノウハウが蓄積されて開発物件にも着手できれば、ハード面の仕様も突き詰めることができると思います」(同氏)と意欲を見せる。

◆あらゆる種類の動物に対応可能

 ペット保険最大手のノウハウが生きたのはサービスなどソフト面。同社のコールセンターにペットの飼育相談ができるほか、同社内の獣医師による訪問健診の申し込みや、近隣病院との連携もできる。同社内の豊富な獣医師団のほか、全国で6,000件もの動物病院と提携している同社だからこそ、あらゆる種類の動物に対応できる体制を組めている。同社には、獣医師の有資格者が約100人所属しており、コールセンターで受けた相談を獣医師に専門的な内容まで確実に伝えられるなど動物病院との連携もスムーズにできる。

 契約面では、入居時に同物件が「ペット共生マンション」であることを明文化し、入居者に確認を求める。多くのペット可賃貸は「ペットを飼ってもいい」が、「ペットを飼うことを“前提”」としてはおらず、犬の吠え声などがトラブルになるケースが少なくない。つまり、ペットを飼う・飼わないにかかわらず、「この物件には動物が多く住んでいるので、それを不服とするのは趣旨に合致しない」ということを、入居時に伝えるわけだ。

◆人間1人に対して中型犬2頭が飼える

 入居人数は1人。飼えるペットは、犬ならば中型犬2頭までと、20平方メートル台の1Kという住戸の面積と間取りを考えると異例の対応だ。「大型犬も入居可にしたかったのですが、十分な広さを確保できない場合、動物側もストレスを抱えてしまいますから、今回は中型犬までにしました。ほかの動物では、猛禽類も飼えるのが特徴です。当社のペット保険は、猛禽類であるフクロウも対象ですし、最近はフクロウを飼う方も増えています」(同氏)。

 15戸のうち半数は同社の社宅として使用し、残りの入居者を新規募集した。「初の賃貸住宅運用ですので、半分を社宅とすることで、リスクを減らしました。ただ、新規募集分は非常に早く満室となりましたので、今後は、社宅分とのバランスを考慮していきたいです」(同氏)

◆「獣医メディカルビル」の構想も

 今後は、入居者向けに定期的なしつけ相談や健康相談といったイベントを仕掛けていくほか、さまざまな動物病院が入居する動物版メディカルビルの開発なども構想しているという。「人間であれば、細かな診療科目がありますが、獣医療は全科診療となっています。動物病院にも外科や内科といった診療科目があれば、獣医療の高度化にもつながり、もっとペットのために役立つはずです。人とペットが共存し、両者が幸せになることが重要であり、当社でも不動産運用を通じてそうした環境づくりに寄与していきたいと考えています」(同氏)。

※※※

 もはや家族の一員であるペット。その健康と生活改善のために住環境を整えようという需要は今後も確実に強まっていくだろう。住戸の仕様や共用設備など、ハード面を整えた賃貸住宅は増えており、住宅メーカーや部材メーカーも、ペット対応設備を強くオーナーに訴求している。ただ、ペットの健康管理などソフトの面にまで“ペット対応”を落とし込めている物件は一部大手メーカーが展開しているぐらいで、全体でみると少ない。そうした中で、同社の取り組みは「動物と人」という側面から見た新たな賃貸住宅や商業・事業施設づくりの参考になりそうだ。(晋)

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