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vol.442 都市型ライブの難題とシンガポールが導き出した「静寂」という回答【シンガポール】

シンガポールを代表するランドマーク、マリーナベイサンズ。その屋上にあるスカイパーク展望台で開催されるユニークなナイトイベント「サイレントディスコ・イン・ザ・スカイ」。ヘッドフォンを装着する静寂クラブだ。入場チケットは完売することも多い。

 人口密度が高く、高層住宅が集積する都市では、イベントと住環境の両立が課題となる。シンガポールでは、その解決策の一つとして「サイレント・ディスコ」が注目されている。

 ヘッドフォンを使うことで周囲への音漏れを抑えながら、参加者は音楽を存分に楽しめる。都市のにぎわいと住環境を両立させる、未来都市らしい発想といえるだろう。特にドレスコードもなく気軽な場所なので、徒歩圏内に住んでいる筆者はビーチサンダルで通っている。

「この方法があったか」世界一静かなクラブが盛り上がる

受付でLED付きヘッドホンを受け取る。3人のDJが異なる音楽を同時にプレイし、参加者は3つのチャンネルから好みのジャンルを選べる

 サイレントディスコとは、会場に大音量のスピーカーを設置せず、参加者が専用ヘッドフォンを通して音楽を楽しむイベントだ。通常3人のDJが、エレクトロからロックまで幅広いジャンルの音楽を同時にプレイし、参加者は好みのチャンネルを自由に切り替えられる。

 ヘッドフォンにはLEDライトが搭載されており、選択したチャンネルごとに赤・青・緑など異なる色に光る。周囲の人がどの音楽を聴いているか一目で分かるため、自然と同じ色の参加者が集まり、一体感が生まれていくのも、このイベントならではの魅力だ。

 マリーナベイ・サンズで開催される最大の魅力は、そのロケーションにある。56階の展望台からは、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイや高層ビル群、沖合に停泊する船舶までを一望できる。ヘッドフォン越しに音楽を楽しみながら、世界有数の都市景観を見渡す体験は、まるで夜空に浮かんで踊っているかのような開放感を味わえる。

ドリンクを片手に夜景を眺める。自然とテクノロジーが共存する都市景観を描き出している。

「クリーンシティ」が生んだ、新しいナイトカルチャー

 実際に参加すると、ヘッドフォンを装着した瞬間、自分だけの音楽空間が広がる。一方、ヘッドフォンを外せば聞こえるのは夜風や笑い声だけ。このオンとオフの切り替えが、従来のクラブにはない心地よい没入感を生み出している。

 また、音量を自由に調整できるため、大音量が苦手な人でも参加しやすく、ヘッドフォンを外せば会話も楽しめる。音楽とコミュニケーションを無理なく両立できることも、多くの人を惹きつける理由だ。

 緑豊かな街づくりと厳しい騒音規制を両立してきたシンガポールでは、「静かに楽しむ」という発想そのものが都市文化へと発展した。サイレント・ディスコは、夜景、音楽、テクノロジー、そして環境への配慮が融合した、未来都市シンガポールを象徴するナイトエンターテインメントといえるだろう。

マリーナベイ・サンズの展望デッキから望むシンガポール中心業務地区(CBD)。高層オフィスが集積する金融街を見下ろしながら、サイレント・ディスコが開催される。

厳しい騒音規制をクリアする未来都市の発想

 人口密度が高く、高層住宅が集積するシンガポールでは、騒音規制も厳しい。大規模な屋外イベントにはさまざまな制約があるが、サイレント・ディスコであれば周囲への音漏れを抑えながら開催できる。

 マリーナベイ・サンズ広報は、「周辺環境への配慮を大切にしながら、シンガポールならではの特別な体験を提供しています」とコメントしている。

 都市の活気と住環境の快適さを両立させるこの取り組みは、持続可能な都市づくりを進めるシンガポールらしい発想だ。

マリーナベイ・サンズ周辺は、世界有数の観光地でありながら、1日中驚くほど静か。緑が多いため常夏でも涼しい風が吹き、小鳥のさえずりが聞こえる。娘はこのエリアからスクールバスで通学している。騒音を抑えた街づくりも、シンガポールの暮らしやすさを支えている。

栗尾モカ(くりお もか)
東京・シンガポールを拠点に活動するライター。JETRO発行「Singapore Style」執筆。現地居住経験をもとに、建築・都市計画・食文化を中心に取材。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito. com/)会員。


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