テレビドラマや映画などのロケーション撮影への協力を事業として展開する不動産会社は実は多い。まちを知り尽くし、建物のオーナーとコミュニケーションができ、建物の特徴も把握している不動産会社は、ドラマや映画の製作会社からすると「ロケ場所探し」の非常に頼りになる存在だそうだ。今回は、そうした「ロケ支援」を手掛ける不動産会社に取材した。
◆「アナログな関係」で成り立つ事業
今回取材したのは、西武新宿線「本川越」駅近くに店舗を構える(株)セントラル総合住宅(埼玉県川越市、代表取締役:奥山 寛氏)。同社は売買仲介や賃貸管理などを手掛ける傍ら、テレビドラマや映画、ミュージックビデオの撮影場所を紹介する制作会社向けサービス「ロケ不動産」を展開している。
同社が手掛ける「ロケ不動産」は、自社で管理する賃貸物件や売買物件を、映像作品の撮影スタジオとして制作会社に提供する事業だ。撮影場所を探す制作会社のスタッフはフリーランスが多く、人から人への紹介という極めてアナログなつながりで動いている。一方で不動産業界も、FAXがいまだに現役で活躍するなどアナログな側面が根強く残っている。この両者の「アナログな人間関係」がうまく噛み合ったことが、このビジネスが成立している理由、と奥山氏は語る。
◆「手持ちの物件」を制作会社に紹介
ロケ支援を事業として始めたきっかけは、所有する物件でミュージックビデオの撮影をさせてほしいという相談が舞い込んだこと。話を聞くと、制作スタッフは撮影場所を探すために一般の不動産情報サイトを巡回し、大変な苦労をしているという。話を聞いた奥山氏は、「不動産会社としての情報ネットワークを生かすことで彼らの役に立てるし、所有者に対して不動産の新しい活用を提案できるのでは」と考え、気の合う制作スタッフとタッグを組み、ロケ支援へと本格的に乗り出した。初期の大型案件となった人気ドラマでは、豪邸の撮影場所が必要だったため、豪邸を売却しようとしていたオーナーに話を持ち掛けたところ快く同意。オーナーも撮影場所として役に立つならと売却を取りやめ、数々のロケを成功させた。
具体的な業務内容は、制作会社からのリクエストに対して手持ちの物件や同業者のネットワークから適したものを提案すること。「殺人現場のシーンだから古い建物がいい」「昭和58年築くらいの家はないか」といった要望に対し、「それならあの売り物件が合うかもしれない」とマッチングする。ロケのためにわざわざ新規で物件を探し回ることはせず、その時点での「ありもの」を提供するのが基本スタンスだ。「あくまで本業である不動産業から分岐したものとして行なっているという位置づけ。ロケのために新規物件を探すようになるというのは、本末転倒になると考えています」(奥山氏)。
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◆オーナーや入居者への「気配り」が何より重要
物件が決まれば、オーナーと使用料や原状回復(クロスの張り替え費用など)の条件を調整し、事前のロケハン(下見)に数回同行して案内を行なう。しかし、撮影本番には立ち会うことは少ない。「現場で『この車をどかしてほしい』といった細かな微調整が発生することがありますが、当社が間に入ると伝達ミスでトラブルになりかねない」(同氏)として、当日の現場対応は制作会社と関係者の間で直接やり取りしてもらうよう事前に準備しておく。つまり、不動産会社としての責任範囲を明確に切り分けているのだ。
ロケ支援を円滑に進める上で最も気を遣うのが、関係者や近隣への「気配り」だ。撮影は早朝や深夜に行われることも多いため、機材の搬入音などの騒音トラブルには特に注意を払うように制作会社に要請。事前に担当者自らが菓子折りを持参し、近隣住民へ丁寧に説明に回ることも伝える。
マンションの一室を撮影で使う際などは、入居者への配慮も欠かさない。賃貸マンション全体が撮影現場として使われるようになった際、同社は制作会社に「入居者に迷惑をかけるのだから、スタッフだけでなく全入居者分のロケ弁を用意してほしい」と提案した。住民もお弁当を食べながら撮影の雰囲気を感じられるようにしたことで、不満が出るどころか、マンション全体がイベントのような活気に包まれるようになったという。
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◆不動産業との相乗効果も
このロケ支援事業は、単なる場所貸しの収益にとどまらず、本業である不動産業への相乗効果をもたらしている。第一に新たな顧客開拓で、事前の挨拶回りが、絶好の営業機会になっているという。「『実は今度、近所でこんな撮影がありまして…』と打ち明けることで、一気に距離が縮まります。飛び込み営業よりも圧倒的に歓迎されますし、そこから『実はうちの家について相談がある』と不動産の話題に発展するケースが驚くほど多い」(同氏)。
また、買取物件の長期保有ができるようになることや付加価値の向上効果も大きい。物件を買い取った不動産会社は資金繰りのためなるべく急いで再販することが多い。しかし、同社の場合は転売するまでの期間にロケを受け入れ、その収益で保有のためのコストを賄うことができるため、資金的な余裕が生まれる。「保有を継続して、適切な価格で買ってくれる人が現れるまで待つという強気の戦略も可能になります」(同氏)。さらに、大道具スタッフが立派なウッドデッキを作ってくれたり、古びた部屋を綺麗にリニューアルしてくれたりすることもあり、それがそのまま物件の付加価値として残るケースもあるという。
「もちろん、オーナーとの関係強化にもつながります。ある建物をドラマのセットに使用した際、そのドラマの主演はオーナーの娘さんが大ファンだという俳優さんでした。オーナーと娘さんがとしてロケの現場を訪問して、その俳優さんとも言葉を交わせたそうで、後から『数年ぶりに娘にありがとうと感謝された』と喜んでいましたよ」(同氏)。
◆本業はあくまで「不動産業」
メリットが多いロケ支援だが、奥山氏は「ロケ専用物件」を保有したり、別会社を立ち上げてこの事業だけに特化したりするつもりはないと語る。「大家さんからすれば、不動産会社がロケの仕事ばかりに夢中になっていたら『本業の客付けを真面目にやっていないのではないか』と不信感を持たれてしまいます。あくまで最優先すべきは本業の不動産取引です」(同氏)。同氏自身も、ロケ支援の成功で一時「キラキラした世界に勘違いしそうになった」時期もあったというが、今ではそのスタンスを固く守っている。
本業で扱う物件の中で、ロケに使えるものがあれば提供し、そこで得た収益や人脈を再び本業へと還元していく。この「ブレない姿勢」こそが重要なポイントなのだろう。
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同社のロケ支援で徹底しているのはサービスの品質管理。例えば、スケジュール管理があいまいで急なキャンセルなどのトラブルが起きやすいバラエティ番組の依頼は断ったり、奥山氏が信頼できると感じた制作会社のみと付き合うなどといった具合だ。これらはすべてその建物のオーナーや入居者を最優先して考えているからであり、だからこそ、オーナーも「奥山さんの頼みなら」と快く建物を提供してくれるのだろう。
改めて、まちと建物を知り尽くし、オーナーとも関係を築いている地域密着型の不動産会社ならではの事業だと感じた。(晋)