長谷工初の大規模建売団地「野田 桜の里」をみる
マンション施工ナンバー1の実績を誇る(株)長谷工コーポレーション。用地取得から商品企画・販売・管理まで、大規模マンションプロジェクトの「プロ」である。ところが、意外なことに、大規模な建売住宅団地を手がけたことは、これまで一度もないという。そんな長谷工が、初めて大規模建売団地の企画・販売に着手した。「野田 桜の里 四季のまち」(千葉県野田市)である。マンショントップ企業が作る「戸建てのまち」とはどんなものか?現地に行ってみた。
足かけ25年、長谷工初、最長・最大のプロジェクト
同プロジェクトは、東武野田線「清水公園」駅から徒歩21分に立地する、総開発面積52ヘクタール、建売計画戸数417戸を中心に、商業施設、マンションなどで構成する複合開発だ。同社はこれまで、大規模マンションと併せての小規模建売団地を建設・販売した経験はあるが、これほど大規模の建売団地は初めてとなる。また、同社自身が事業主となる建売団地開発も初。なお、販売は戸建団地の販売ノウハウが豊富な野村不動産アーバンネット(株)に委託。モデルルームを使ったマンション販売では右に出るもののない(株)長谷工アーベストも、戸建販売については少々自信がなかったようだ。
計画地は、江戸川河川敷に隣接。従前は、典型的な農村地帯であり、宅地化の進展により、1980年代中盤から土地区画整理事業の実施が計画されていた。「野田市座生特定土地区画整理事業」として計画決定されたのが91年で、同社が、組合から一括業務代行委託を受けたのが93年。それから15年余の時間を経て、インフラ整備と換地指定が行なわれ、06年秋ようやく換地が完了し、住宅の建設に漕ぎ着けた。足かけ25年弱という、同社としては最長スパンのプロジェクトである。
さくら名所100選の「清水公園」に隣接
最寄り駅名にもなっている「清水公園」は、広さ23ヘクタール。かつては、キッコーマン創業者一族の茂木家が基礎を作った庭園で、さくら名所100選に選ばているほか、四季折々の緑が楽しめる、千葉県屈指の自然公園。同開発地は、この清水公園に隣接しており、環境面では最高のロケーションである。
しかし、この清水公園があるがために、現状では駅へのアクセスが遠回りとなっている(もちろん、公園の中の曲がりくねった道を通る事はできる。散策にはもってこいだが、とてもじゃないが通勤には使えない)。現在、公園下をトンネルで貫いて一直線で結ぶ道路工事が行なわれており、早ければ07年度中に完成。アクセスが大幅に改善される。また、隣駅の「七光台」へのシャトルバス運行も決定している。
一方、都心へのアクセスラインとなる東武野田線は、このエリア周辺では単線となる準ローカル線だが、昼間でも10分間隔のダイアが維持されており、使いやすい。また、「流山おおたかの森」駅で接続するつくばエクスプレスにより、都心へのアクセス時間短縮と、イメージアップがなされたという。
敷地はスーパー堤防の上 ランドスケープにも力
区画整理地は、国と組合により「スーパー堤防」として整備され、フラットで強固な地盤への改良と河川災害対策がなされている。スーパー堤防上での大規模マンション建設はよくあるケースだが、大規模建売団地の開発では珍しい。スーパー堤防は、たとえ河川が氾濫しても、堤防そのものは決壊することなく、建物への浸水はあっても、流されることはない。もちろん地盤も長期間かけ改良されているが、それを気にかけるユーザーのため、「桜の里」では、モデルルームで地歴情報システムによる開示を行なっている。
地主への土地還元率を高めるため(減歩率で表される)、こうした区画整理事業ではインフラに特徴のないケースが多いが、「桜の里」では、ランドスケープの全体監修を、愛知万博などを手がけてきた戸田芳樹氏(戸田芳樹風景計画代表)に依頼。インフラ・建物あわせた景観のトータルデザインを行なっている。
清水公園との景観の統一を目的とした野田市の地区計画に沿っているだけでなく、独自の景観ガイドラインを策定し、建物外壁の色、オープン外構などに統一性を持たせている。また、敷地内道路は、わざと緩やかなカーブを持たせており、これにより景観にリズムを生ませるほか、ボンエルフ、クルドザックといった手法の導入で、車の通り抜けを規制し、子供やお年寄りに安全な街づくりをめざしている。
基本となるインフラにたっぷりとコストがかかっている点では、この団地は、まさしく「買い」である。
長谷工らしい「マンション並み」の商品企画
では、建物はどうか。同団地には、コンペで選ばれた(株)細田工務店、西武建設(株)、東急建設(株)、ブライドホーム(株)の4社が参加しており、すべてツーバイフォー工法の住宅となっている。各社の個性は生かす一方で、商品企画については長谷工がコントロールしている。外観デザインは、名建築家・ライトの建築様式を模した「ユーソニアンF.L」、「レッチワース(英国田園都市風)」、「コンテンポラリー」、「オーセンティック」の4つを用意。景観ガイドラインに沿って、色彩も街の緑と対を成すベージュ系と白系にまとめている。屋根の形状等、外観は「3戸として同じものが並ばないようにしている」のだそうだ。
住戸は、3LDK~5LDK、敷地面積165~237平方メートル、専有面積112~130平方メートル。オール電化、もしくは「エコジョーズ」による省エネ仕様だ。
また長谷工ならではの、いかにも「マンションらしい」設備機器を満載している。たとえば、キッチン周りでは、小さなスパイスラックやパンドリー、静音シンク、ソフトクロージャーなど、従来ではコスト面の厳しさから、建売では採用が難しい設備もきめ細かく導入。浴室にはミストサウナを装備した。収納についても、クローゼット奥の「隠し収納」や可動棚、階段の奥まできっちり使った多目的収納など、さまざまな工夫を凝らしている。
一方、建売住宅ならではの「広さ」をいかし、DENやミセスコーナー、リビングのベンチスペースといった「プラス1スペース」を提案しているのも斬新だった。
また、全戸にホームセキュリティを導入。1階開口部はシャッターを装備したうえ、防犯ガラスも入れるなど、こちらもマンション並みの防犯仕様となっている。
「管理」もマンション並み 生活支援サービスも提供
マンションと建売住宅で大きく異なるのは「管理」である。建売住宅の場合、建物そのものは居住者が管理するのは当然であり、団地型住宅であっても、「街」そのものが管理されるケースは、稀である。
長谷工は、管理にも「マンション」の手法を使用している。(株)長谷工コミュニティが、団地組合から委託を受け、コミュニティと生活支援サービスを提供するのだ。
その拠点となるのが、広さ約500平方メートルの「タウンセンター」。内部には、居住者が自由に利用できるホール、生活用品を販売するショップ、キッズルーム、キッチン付きのパーティルームを設置し、充実した付帯設備を整えた。管理スタッフも常駐しており、共用施設の予約、宅配便取次ぎ、シルバーサポート、ホームヘルパー、24時間クリーニング受付といった生活支援サービス、まち中の清掃などを提供する。
また、警備会社のセキュリティステーションを設置。まち中を昼夜問わず巡回する。長谷工が手がける総戸数200戸以上の物件には、炊き出し用「かまどベンチ」、組み立て式簡易トイレ、非常用飲料水生成システムといった「防災設備」が備わるが、「桜の里」もこれらをセンターに設置している。
これらの管理サービスを受けるため、居住者は団地組合に対し、管理費4,000円、警備費2,600円、シャトルバス利用料1,000円などを負担する。その利便性を考慮すれば、決して高くはないはずだ。
年間100戸を着実に販売 街の商品価値を上げる
販売は、今春から本格的にスタート。販売価格は、2,840万円~4,250万円。最多価格帯は、3,300万円台と、周辺建売よりはやや高めの設定だが、内容の充実度を考えれば高いとは思えない。現在の売れ行きは、スロースタートではあるが、地元の野田市や春日部市などのほかに、東京や神奈川からも反響があるという。
「ほかの建売住宅とは違い、この桜の里はまちを作り、その価値を上げていくことに意義があり、テーマを高いところに置いている。年間100戸前後を着実に販売していく予定。今後は、商業施設の整備も行ない、まちの機能を高め、ニーズを見極めたうえでマンションの建設も検討していく」(長谷工コーポレーション都市再生部門・桜の里プロジェクト・山崎豊部長)
近年、本格的な建売団地はどんどん少なくなっている。とくに、インフラの整った土地区画整理事業となると、さらに希少価値がある。都心へのアクセスについては少々難があるが、郊外の大規模団地はとにかくまち並みが美しい。長谷工の持つマンションノウハウと、建売団地の持つ整ったまち並みのコラボレーションがユーザーにどれだけ支持を受けるか、期待したい(J)