記者の目

2023/7/7

“北伊豆”をバズらせる!(後編)

不動産会社が取り組む地方創生

人口減少、高齢化が著しい沼津の三の浦地域を「北伊豆」と呼んで“バズらせ”、まちおこしをしようと奮闘する不動産会社、太助合同会社(静岡県沼津市、代表社員:小池佑一郎氏)の取り組みを紹介するレポートの後編。「北伊豆」という呼称を浸透させるためにさまざまな取り組みを進める中で、「北伊豆動画プロジェクト」が始動した。

◆北伊豆の魅力を動画で伝えよう

 「北伊豆」という地名を定着させ、その魅力を広く伝えようと取り組みを進める太助は2022年、音声配信SNSで知り合った、吉本興業(株)所属の住みます芸人・富士彦さん、沼津市出身で人気番組を多数手がけるカメラマンの辻 稔氏を“巻き込み”、「北伊豆動画プロジェクト」をスタートさせた。
 富士彦さんに出演を、辻氏に撮影と編集の協力を依頼。プロに頼むためには製作費が必要と、クラウドファンディングにより予算集めを進めた。地元の漁協やひもの組合の協力を得て、リターンとして北伊豆のシラスやひもの等を用意。無事に87万円余を集めることに成功した。この資金を活用し、北伊豆を知ってもらう、北伊豆の魅力を伝えるために2023年4月に開設したのが、YouTubeチャンネル「北伊豆チャンネル」だ。

 立地、自然、食などをPRする内容の動画が複数アップされているが、驚くのがそのクオリティ。芸人である富士彦さんと小池氏の掛け合いは、バラエティ番組のような仕上がり。見れば引き込まれ、北伊豆に行きたいと思わせる力を持つ。

23年4月に開設したYouTube「北伊豆チャンネル」。左は住みます芸人の富士彦さん、右が小池氏
富士彦さんと小池氏が掛け合いをしながら北伊豆の魅力を伝える

 現役の芸人が出演し、プロのカメラマンが撮影・編集を行なうという、資金力のある企業ではないと難しいような取り組みを、「ここを北伊豆にする!」という熱き思いで実現させていることに驚く。

 次々と取り組みを進める太助だが、一社での取り組みには限界もある。“北伊豆”を浸透させるためには、地域の人を巻き込む必要がある。クラウドファンディングも地域の人を巻き込むことを目的としたものだったが、さらに一歩すすめるために動画素材募集企画を実践。個人が撮影した動画を北伊豆PR動画製作委員会のアカウントに送信してもらうことを決め、案内のチラシを新聞折込や学校などに配布すると共に、協力を得られた店舗に案内チラシを貼ってもらっている。

より良い素材動画を集めるために、そして地域の人を巻き込むために、動画素材を広く募集(写真は飲食店に貼ってもらった動画募集チラシ)

こうして地域の人を巻き込みながら、「北伊豆」という名称の定着と、「北伊豆」のPRにつなげようと尽力している。

◆移住希望者とのマッチングも実現

 移住希望者が来ても、紹介できる物件がないのでは本末転倒。空き家がたくさんあるということはもちろん分かっていたが、具体的にどこに何件あるのかは把握できていなかった。そこで、同社は設立後まもなく、メンバー3人で静浦地区を歩いて確認した。すると、なんと約160件もの空き家があることが分かった。危機感を強くした小池氏は、自治会の会合で「自治会ごとに空き家を確認して教えてください。大変な数の空き家がある。このままでは過疎化は止まらない。空き家を教えてもらえれば、僕らが移住したいという人を紹介することができますよ」と空き家状況調査の協力を仰いだ。
 紆余曲折ありながらも空き家をあぶり出し、現在は北伊豆に関心を持つ人とのマッチングを少しずつ手掛けられるようになっている。

店内には北伊豆の物件を掲出。流通物件は少ないため、希望者が来たらオーナーに掛け合うことも

 また、宝島社の「田舎暮らしの本」の編集部に「北伊豆の物件を取材してもらえないか」と連絡。取材が実現した。

「田舎ぐらしの本」(宝島社)に北伊豆の名前で登場

 同社の思いは着実に実を結び始めている。「田舎ぐらしの本」を見た人から同社に問い合わせが入り、掲載物件の購入を即決。移住者獲得につながった。
 「子育ては自然豊かな場所がいい」とネット経由で連絡を受けた方に北伊豆の魅力をPRし物件を紹介したところ、購入が決定。7人の子供を連れて都心から移住してきてくれたという。「過疎のこのエリアに一気に子供が7人も増えたんです」と小池氏は喜びを隠さない。
 子供がいる光景は、まちの人たちを元気にする。「年配の人は『子は宝だ』とよく口にするんです。海岸沿いの場所で遊ぶ子供の姿なんて、もう何年も見ることがなかった。地域の人も喜んでくれている。北伊豆という名前を定着させ、その知名度を生かし、さらに多くの人をこの地に誘引していけたら」(小池氏)

◇    ◇ ◇

 これまで多くの人を取材してきたが、これほどバイタリティにあふれる方々にお会いできることはめったにない。「北伊豆いいところでしょう」「このままだとこの地はダメになる」インタビュー中に繰り返し聞かれた言葉だ。

 現在、過疎地と言っても過言ではない“北伊豆”では、正直、不動産業は成り立たない。物件は安価で流通物件が少ない。小池氏は自動車販売業、大木氏は建築業を経営しながら、太助でまちおこしと不動産仲介の仕事に取り組んでいる。それも、「北伊豆」という地名を定着させ、北伊豆の魅力を広く知ってもらうことで、北伊豆のファンを作り、北伊豆に人を流入させる…。その壮大な目標のために、ひたすら努力する。その根底には、「北伊豆」という地への愛着がある。
 「どうしてそこまで手弁当でがんばれるのか?」との問いに、小池氏は「北伊豆住民の自分が、今やらないと手遅れになる。北伊豆出身ではない木村や富士彦さん、辻さんを巻き込んだ取り組みに対し、地元出身者の自分ががんばらなくてどうする。そんな使命感で取り組んでいる」と熱く語ってくれた。
 こうした思いが、叶わないわけがない。5年後、10年後には、「北伊豆」という地名が広く使われていることを願ってやまない。(NO)

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