記者の目 / その他

2013/7/12

将来的な顧客発掘に向けた新手法

新しい商品・サービスを生み出す施設「住ムフムラボ」、ユーザーに好評価

 4月26日(金)にグランドオープンした大型複合施設「グランフロント大阪」(大阪市北区)。開業後1ヵ月の来場者数は累計約700万人を突破、連日多くの客で賑わっている。そんな「グランフロント大阪」の中核施設「ナレッジキャピタル」(産官学交流施設)内に、積水ハウス(株)が業界初の情報発信・研究開発拠点「SUMUFUMULAB(住ムフムラボ)」を開設した。幅広い世代に、生活や暮らしに興味を持ってもらおうと、新拠点では、さまざまな仕掛けを盛り込んでいる。

「SUMUFUMULAB(住ムフムラボ)」入口
「SUMUFUMULAB(住ムフムラボ)」入口
ゆったりとくつろげるようにソファを設置。「椅子があっていい」、「インテリアがお洒落」など、来場者からも好評
ゆったりとくつろげるようにソファを設置。「椅子があっていい」、「インテリアがお洒落」など、来場者からも好評
「空気」と「眠り」のコーナーでは、化学物質の敏感度や快眠度について判定できるタッチパネルを装備
「空気」と「眠り」のコーナーでは、化学物質の敏感度や快眠度について判定できるタッチパネルを装備
BMI研究を体験できるコーナー。ボールを浮かせてコントロールすることができる(左)。頭に付けているのは、脳の活動を測定するヘッドセット(右)
BMI研究を体験できるコーナー。ボールを浮かせてコントロールすることができる(左)。頭に付けているのは、脳の活動を測定するヘッドセット(右)
子育て世帯の部屋を原寸で再現した展示空間
子育て世帯の部屋を原寸で再現した展示空間
職住一体の仕事場を紹介するコーナー
職住一体の仕事場を紹介するコーナー

今後の住まいの在り方の発見の場

 「グランフロント大阪」の中核施設「ナレッジキャピタル」とは、産官学さまざまな人々が交流し、それぞれが持つ「感性」と「技術」を融合させて、新しい商品やサービスを生み出していく施設。企業と生活者とのコミュニケーション空間をはじめ、会員制交流サロン、レンタル小規模オフィス、貸会議室、多目的劇場など、さまざまな施設が集積している。
 その中で、積水ハウスが運営する「住ムフムラボ」では、ユーザーの住まいに対する価値観や暮らし方が、大きく変化していることを受け、家族のつながり方、子育てのスタイルなど、従来の住宅の概念を超えて、今後の住まいの在り方を生活者(顧客)とともに発見していくことを目指している。

暮らし方の提案や最新技術など展示、五感体験も

 「住ムフムラボ」は、出展規模が約660平方メートル。「かぞくのカタチ」「いごこちのカタチ」「いきかたのカタチ」の3つのゾーンで構成しており、壁面を利用して15のテーマに沿ったアイテムや本などを展示している。営業スタッフは配置せず、来場者がゆったりとくつろげるようにソファを設置、カフェも併設するなど、通常の住宅展示場やショールームよりも気軽に来訪できるようにハードルを低くしている。各コーナーには関連する書籍が置いてあり、自由に閲覧が可能。気に入った本を読みながら休憩することもでき、図書館代わりに利用する人も多いという。

 3つのゾーンのうち、特に印象に残ったのは、五感に関する展示が中心の「いごこちのカタチ」ゾーン。部屋にいながら季節の移ろいを感じられるという、同社提案の「スローリビング」を体感できるコーナーは、来場者から特に人気だという。
 靴を脱ぎ、中に入るとリビング空間となっており、好きなところに腰を掛けて、床材などに直接触れながら自由にくつろぐことができる。窓の外の風景に見立てたスクリーンには、新緑や花火、紅葉など、日本の四季を8つに分けた映像が10分ほど流れ、映像に合わせて、そよ風が吹いたり、暖炉がついたり、リアルな演出も。快適さを五感によって感じられる仕掛けとなっており、“居心地の良さ”を実感できる。
 関係者によると、「どんなにショールームで部材を見せても、床材などの良さは、顧客には伝わりづらかった。しかし、五感で快適さを実感した方は、みなさんその良さを認識されて、『なぜ心地良いのか』、『床材は何が使われているのか』など、自然と住まいについて興味を持ってもらえる」と言う。
 記者も実際に体験してみると、不思議と心が安らぎ、ゆったりとくつろげ、見た目だけでは分からない“居心地の良さ”を実感。おしゃべりに花が咲く人や居眠りしてしまう人など、長居する人が多いというのは納得できた。

 また、「空気」と「眠り」のコーナーでは、同社の住宅の8割が採用する空気環境配慮仕様「エアキス」と、一般住宅において室内の臭いがどれだけ違うのかを比較できるコーナーを設置。実際に臭いを比較した人の中には、一般住宅の臭いについて、「鼻にツンとくるけど、新築の臭いですよね」と言って、化学物質に対してあまり気にしていない人もいたそう。小さい子供は特に、体内への影響を受けやすいため、住まいの空気環境の重要さについてアピールしている。
 さらに、タッチパネル方式で、質問に応えていくと化学物質の敏感度や快眠度について判定するコーナーも設置。これらのデータは蓄積され、同社の今後の住まいづくりに生かされていくという。

 また、脳派で暮らしを操るBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)研究コーナーでは、手を使わずに家電の電源を入れたりドアを開閉するなど、高齢者や手足の不自由な人などに向け、早期の実用化が期待される最新技術を紹介。ヘッドセットを頭に付けて念じると、脳の活動を測定し、ボールを浮かせてコントロールする、BMIシミュレーターを体験できる。子供でも楽しみながら、最新技術について学べ、研究に関心を持ってもらうきっかけづくりになっている。

 なお、ラボ内では、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」という共創プログラム「対話のある家」(有料・予約制)も設置されており、大変な人気コーナーとなっている。完全に光を遮断した暗闇の空間にグループで入り、視覚障害者のサポートのもと、中を探検し、さまざまなシーンを体験するというもの。6月24日まで「初夏バージョン」を開催していたが、チケットは早期完売、8月からは「夏バージョン」が開催される予定。感性を高めて五感を再認識できる施設で、関西では初の長期開催となる。

来場者アンケート、9割が「非常に良い」と好評価

 「住ムフムラボ」の来場者は、ゴールデンウィークまでで3万人、6月末で6万人を超えている。年間来場者は15万人を想定しているため、順調な滑り出しといえよう。「住宅を購入する」、「住宅に興味がある」などの前提がない一般の人でも、気軽に入ることができるため、20歳代~50歳代まで、幅広い層が来場しているという。
 来場者アンケートによると、9割が「非常に良い」と評価、7割が「また来たい」という結果に。特に「居心地が良い」「落ち着く」「雰囲気が気に入った」など、感覚に関わるところに高い評価を得ているという。

 同社代表取締役社長兼COO阿部俊則氏は「営業拠点ではなく、生活や暮らしに興味を持ってもらうことを目指している。家族形態が変化する中、顧客のニーズを把握するための研究活動を行なっていく」と話す。オープン以来、リピーターが増えており、来場者の滞在時間も長くなっている。同社ではそうした人を、ファン化していきたい考え。「住ムフムラボ」は、将来的に顧客を発掘する新しい手法であり、また、これまでの住宅展示場には来なかった、新しい顧客のニーズを把握する手法としても、とても有効だといえる。
 今後、「住ムフムラボ」で発見した住まいの在り方が、同社の商品にどのように生かされていくのか、注目していきたい。(さ)

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