記者の目

2013/7/26

安心・安全な「中古戸建て」の提供へ

リビタが戸建てリノベーション事業をスタート

 「築年数が経過した住宅には建物評価がないためローン借り入れが難しい」「改修規模が大きくなりがちで新築とのコストメリットが出しにくい」、こういった理由で流通している戸建住宅のリノベーションはこれまであまり取り組まれてこなかった。しかし、ついにリノベーションのパイオニアである(株)リビタ(東京都渋谷区、代表取締役:南 佳孝氏)が、「戸建てリノベーション事業」を開始。諸制度を有効に活用することで、安全・安心やそして資産価値を確保しているほか、デザインをシンプルにすることで、コストの圧縮や将来的な可変性にも配慮したプランを実現している。  また、ユーザーの中古戸建てやリノベーションに対する知識向上のためにさまざまな仕掛けも行なっていく。その手法について紹介しよう。

リノベーションによる中古戸建住宅の買取再販ビジネスは、中古住宅流通の活性化や良質なストック形成に寄与するだろう(写真はイメージ)
リノベーションによる中古戸建住宅の買取再販ビジネスは、中古住宅流通の活性化や良質なストック形成に寄与するだろう(写真はイメージ)
ユーザーの中古住宅に抵抗がある理由上位には、間取り、品質、コストが挙がっているが、同ビジネスモデルではすべての問題を解消することが可能(国土交通省資料より)
ユーザーの中古住宅に抵抗がある理由上位には、間取り、品質、コストが挙がっているが、同ビジネスモデルではすべての問題を解消することが可能(国土交通省資料より)
リビタでは、初弾として2棟の戸建てリノベーションに着手。写真はすでに竣工済みの「練馬石神井台の家」の改装前の外観。土地141平方メートル、建物108平方メートル、築23年の木造スレート葺2階建て
リビタでは、初弾として2棟の戸建てリノベーションに着手。写真はすでに竣工済みの「練馬石神井台の家」の改装前の外観。土地141平方メートル、建物108平方メートル、築23年の木造スレート葺2階建て
改装後の外観。外構には外の視線が気にならない木製のルーバーを設置。庭は植栽豊かな緑ある空間に変更した
改装後の外観。外構には外の視線が気にならない木製のルーバーを設置。庭は植栽豊かな緑ある空間に変更した
「練馬石神井台の家」玄関に入ると広がる土間スペース。将来的に居室化するなども可能
「練馬石神井台の家」玄関に入ると広がる土間スペース。将来的に居室化するなども可能
2階のLDKはあえて一続きにすることで、可変性を持たせた。ちなみに現在はユーザーがイメージしやすいようにインテリア・家具も入れているが、すべて取り払われた状態で売却される予定
2階のLDKはあえて一続きにすることで、可変性を持たせた。ちなみに現在はユーザーがイメージしやすいようにインテリア・家具も入れているが、すべて取り払われた状態で売却される予定
2棟目で現在工事中の「世田谷野毛の家」改装前の外観。土地134平方メートル、建物107平方メートル、築26年の木造・鉄筋コンクリート造瓦葺地下1階付き地上2階建て
2棟目で現在工事中の「世田谷野毛の家」改装前の外観。土地134平方メートル、建物107平方メートル、築26年の木造・鉄筋コンクリート造瓦葺地下1階付き地上2階建て
解体後の状態。スケルトンにしたことでスキップフロアの魅力がみえてきたという。リノベーションでは広さとスキップフロアを生かした空間づくりを行なう予定
解体後の状態。スケルトンにしたことでスキップフロアの魅力がみえてきたという。リノベーションでは広さとスキップフロアを生かした空間づくりを行なう予定
スケルトン状態で開催したユーザー向けの見学会。同社では今後、販売時にスケルトン状態で建物の瑕疵や欠損などすべて目で見てもらいながら説明する方針
スケルトン状態で開催したユーザー向けの見学会。同社では今後、販売時にスケルトン状態で建物の瑕疵や欠損などすべて目で見てもらいながら説明する方針
写真は周囲の木が腐食した「世田谷野毛の家」の元風呂場。そのほか、寸断された筋交い、不要な穴など、欠陥部分をすべてオープンにしてどのように修復するのか顧客に説明することで安心感を出していく
写真は周囲の木が腐食した「世田谷野毛の家」の元風呂場。そのほか、寸断された筋交い、不要な穴など、欠陥部分をすべてオープンにしてどのように修復するのか顧客に説明することで安心感を出していく
戸建てリノベーション事業の専用サイト。単なる物件情報サイトではなく、ユーザーの戸建てリノベーションに関する知識向上や住まい方の提案などを発信していく
戸建てリノベーション事業の専用サイト。単なる物件情報サイトではなく、ユーザーの戸建てリノベーションに関する知識向上や住まい方の提案などを発信していく
「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」では、優良な買取再販事業の流通税の負担軽減策を構ずる必要性が指摘された。具体的に支援体制ができることで、同事業モデルの促進が期待される(国土交通省「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」参考資料より)
「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」では、優良な買取再販事業の流通税の負担軽減策を構ずる必要性が指摘された。具体的に支援体制ができることで、同事業モデルの促進が期待される(国土交通省「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」参考資料より)

◆改修がしやすい木造住宅に特化

 同社の戸建てリノベーション事業は、木造在来工法の戸建住宅を買い取り、同社で改装後、再販するというもの。木造にこだわったのは、鉄筋コンクリート造などと比較して、構造的な検証や改修が容易にできるため。築年数は基本的に不問としている。

 その特徴は、大きく分けて二つ。(1)構造や環境性能面などの「安全性の確保」、(2)シンプルな間取り、恒久的な素材選定やユーザーの“住まいの編集”に対する知識提供による「可変性への対応」だ。
 中古木造戸建てのリノベーションというと、ユーザーにとってまず気になるのが安心・安全面とコスト面。そして物件についての適正な情報。同事業ではこれらの条件を満たすため、さまざまな工夫がなされている。

◆諸制度を有効活用。安心・安全、資産価値の確保を

 まずは、物件の資産価値を確保するため、諸制度を有効活用している点を紹介しよう。

 第一は「耐震基準適合証明書」の取得。これを取得できれば通常建物評価がゼロになる築20年以上の物件であっても、新耐震基準を満たした構造と認められる。ポイントとなるのが、これをリビタが物件買取時に売り主から取得している点。買い主への引き渡し前に同証明書がなければ、買い主が税制の特例措置を受けられないためだ。個人間の取引の場合、引き渡し前に買い主が売り主から同証明書を取得するのは現実的に難しい。今回、買取再販というビジネスモデルを選択した最大の理由はここにあるという。

 このほか、断熱性と気密性も住宅性能表示省エネ等級3程度を確保。既存住宅瑕疵保険の加入、フラット35適合証明書の取得、リノベーション住宅推進協議会規定の「適合リノベーションR5住宅」の取得も行なう。第三者機関によるインスペクションは施工前と後で計2回実施する徹底ぶりだ。
 いずれも税制優遇の対象にする、担保価値を上げてローン借り入れを可能にするなどユーザーメリットを追求した結果だ。

◆可変性高く、低コストと将来性を確保

 工事面では、将来的な加工のしやすさを重視。つくり込み過ぎない、シンプルなハコを提供することで、可変性を高めている。住まい手が自由に空間をつくりあげていける仕様にすることで、将来、家族構成などが変わっても柔軟に対応でき、長く住み続けることが可能となる。素材もなるべく自然界にあるものを選択することで、使うほどに味わいが増し、愛着がわくようにしている。

 また、シンプルな改装は、コスト圧縮にもつながるという。販売価格は同等の新築物件と比較して、1,000万円ほど安くなるよう設定。さらに、中古住宅のメリットの一つが面積の広さだが、新築建売の売れ筋商品は土地・建物ともに面積が圧縮傾向にある中、同等もしくは低い予算で広い面積の住宅を購入できる点は同社では訴求ポイントにつながると考えている。

 そして、コストを抑える工夫として、分離発注や積算システム、エリア別のチーム体制を構築。購入検討時からあらかじめパートナー体制を築いている調査会社、設計者、施工者と動いていくことで、物件の問題点の早期発見・解決を行ない、事業工程の短縮化を図る。住宅設計者とは別に統括設計者を立てることで、第三者の立場から構造・断熱構造の検討ができる体制にした。

◆嗜好性の強い高所得者層がターゲット

 対象物件は、東京・神奈川の20~30年前に分譲開発された開発地内など、住宅地として条件が整った立地のものとしている。土地は30坪以上で、坪単価100万円程度。販売価格は5,000~7,000万円を想定している。当該エリアの想定ターゲットから商品の価格・デザインをイメージして選定するのはもちろん、“特徴の色濃く出る”物件に注目していくという。例えば、吹き抜けやロフトなど空間のおもしろさも積極的に評価していく方針。
 実際、現在着工中の「世田谷野毛の家」(東京都世田谷区)では、スキップフロアが特徴となっており、そのつくりを生かした内装デザインに仕上げる予定だ。

 ターゲットは5,000万円後半~8,000万円超を予算としたやや高所得者層をイメージ。これまで供給してきたリノベーションマンションの顧客層を踏まえている。

◆専用サイトオープン。“住まいを編集する手法”を提供

 同事業では、戸建住宅の構造をあらわしにして、床・壁・天井だけのシンプルな空間を提供し、アレンジは入居者に委ねるというスタンス。「完成形を渡すのではなく、居住者が編集する余地を残すことで、物件を住み継ぐ意識が生まれます」(同社プロジェクトマネジメント部シニアコンサルタント・吉實 健太郎氏)。

 その手法を専用サイト「HOWS Renovation Lab.」(http://www.hows-renovation.com)やワークショップなどを通じて提供していく。具体的には戸建てリノベに必要な基礎知識、住まいづくりのアイディアなどの発信、住宅づくりに役立つツールの紹介など。「同事業を通じて、中古住宅に住む魅力や楽しさを知っていただくことがねらいです」(同氏)。ユーザーリテラシーを高めることで、将来的には買取再販にとどまらず、個人間取引における中古戸建て+リノベーションの斡旋にも事業を広げていきたい考えだ。

◆空き家問題、居住者と住宅のミスマッチの解消にも

 現在、東京の中古戸建ての取引量はマンションの5分の1程度、しかもその割合は減少傾向にある((財)東日本不動産流通機構資料より)。一方、国内の空き家数は757万戸に上り、そのうち22.8%を木造戸建住宅が占める。その問題の中心が地方の長期不在や取り壊し予定等の空き家だが、実は都市部における「まだ使える空き家」の活用も課題になっている。
 居住者と住宅面積のミスマッチ解消も課題だ。「平成20年住宅・土地統計調査」(総務省)によると、持ち家層の4人以上世帯の29%が100平方メートル未満、65歳以上の単身者および夫婦の57%は100平方メートル以上となっている。これは本来広い住宅に住みたいファミリー層が広い住宅に住むことができず、広さの必要ない高齢者が広い住宅のまま暮らしていることを表している。

 同ビジネスモデルが軌道に乗れば、こういった問題解消はもちろん、中古住宅流通活性化に寄与することだろう。先般、国土交通省より発表された「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」にも、「一定の質の向上を伴うリフォーム事業を実施する買取再販事業者について、当該業者が不動産を取得する際の流通税軽減等」が検討項目に挙がっていることから、このビジネスモデルが促進されるよう行政側のバックアップ体制がいち早く構築されることも期待したいところだ。(umi)

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