記者の目

2013/11/1

賃貸管理の現場で働く女性のホンネ

男社会の不動産業界でどう働く?

 「女性の社会進出」が当たり前となった現在、多くの会社でイキイキと働く女性が増えてきた。しかし、不動産業界はまだまだ「男社会」の名残りがあるのも事実。周囲からの理解や協力を得ることができず、「結婚」「出産」「育児」というライフステージの転機に、泣く泣く退職していく女性も少なくない。  そうした中、日頃から「賃貸管理業に携わる女性の地位向上」のために注力している(公財)日本賃貸住宅管理協会レディース委員会の会員が北九州で一堂に会し、経営者・スタッフ、それぞれの立場から“ホンネ”を打ち明けた。その様子をレポートする。

北は北海道から南は九州・福岡まで、総勢24名が集結。「女性活用」についての“ホンネ”を話し合った
北は北海道から南は九州・福岡まで、総勢24名が集結。「女性活用」についての“ホンネ”を話し合った
「賃貸管理業の仕事は女性の天職」と日頃から話している北澤レディース委員長
「賃貸管理業の仕事は女性の天職」と日頃から話している北澤レディース委員長
「結婚、出産しても女性が長く働き続けることのできる仕組みをつくりたい」と話す濱村社長
「結婚、出産しても女性が長く働き続けることのできる仕組みをつくりたい」と話す濱村社長
参加者一人ひとりが、職場の現状や悩みについて発表し合った
参加者一人ひとりが、職場の現状や悩みについて発表し合った

◆女性が働き続けやすい職場とは?

 まずは、北澤艶子レディース委員長の挨拶から。
 「『管理業』という仕事は、細やかな気配りのできる女性に向いている。こんなに素晴らしい仕事に就いている私たちは、本当に幸せ」と話す。北澤商事(株)創業から57年、男社会の中、第一線で活躍してきた北澤氏の言葉には重みがある。

 メインスピーカーは、開催地・北九州市で創業40周年を迎える(株)不動産中央情報センター代表取締役社長の濱村美和氏。先代社長の下で修業をしていたスタッフ時代、結婚を理由に退職していく先輩・後輩スタッフを見ていて、常々「もったいない」と感じていたという濱村氏。2007年の社長就任と同時に、同社の約半数を占める女性スタッフのさらなる活躍を応援する目的で、2つのプロジェクトに着手した。
 「ひまわりA10」と「キラ☆キラ女子向上委員会」だ。

 「ひまわりA10」とは、「アクション」「アクティブ」「アグレッシブル」「明るく」「熱く」「安心・安全」「愛情豊かに」「新たな発見」「アイディア」「アットホーム」の10個の「A」からなる。
 08年8月に同社からメンバーを選出。その後2年間にわたり、経営トップ参加のもと、育児・介護休業規程の確立、女性社員の感性を業務に活かせる仕組みづくり、働き続けやすい職場づくりに注力した。

 「社内での支援制度が確立したことや、子育てしながら働くということへの認識が深まり、定着したことで、女性の離職率が低くなったことが大きい」と、同社到津店賃貸管理グループサブリーダーの豊田美保氏はプロジェクトの成果について話す。

◆“ながら仕事”が得意な女性は基礎能力が高い

 一方、「キラ☆キラ女子向上委員会」は、13年4月より活動をスタートしたばかり。その目的は、女性のリーダーや管理職を育成すること。「ひまわりA10」の取り組みを足掛かりに、ステップアップさせたものだ。

 「受身の姿勢ではなく、自ら『参加したい!』と手を挙げたスタッフをメンバーに迎えたかった」と濱村氏。同社女性スタッフ77名のうち、チャレンジ精神果敢な8名が名乗りをあげた。メンバーは、日々向上心を持って、仕事はもちろん、プライベートもキラキラ輝く女性を目指し、現在、キャリアアップ研修や賃貸管理実務研修、経理研修のほか、茶道やウォーキングにも励んでいるという。

 「この活動が、他の女性スタッフだけでなく、男性スタッフにもいい影響を与え、社内活性化、女性スタッフの活躍の場を広げることへとつながっていけば」(同社黒崎店賃貸管理グループサブリーダー・村松歩美氏)。

 そして現在、同社では法人事業部の部長に女性を登用するなど、女性管理職は7名、全管理職の24%を占めるまでになっている。これは、男社会の中にあって健闘している数字と言えるのではないだろうか。
 また、年に1回、パート社員から正社員への転換希望を受け付けており、パート社員から正社員を経て管理職に昇進した実績もあるそう。ライフプランに合わせた多様な働き方も支援することで、働く女性スタッフの意欲向上につながっているという。

◆女性にやさしい会社、そうでない会社…

 今回の情報交換会は、北は北海道から南は九州・福岡まで、総勢24名が参加。その一人ひとりが意見を述べたのだが、管理職からこんな意見も出た。

●(株)すまいるコンシェル(岐阜県多治見市)代表取締役・加藤 友紀子氏
 当社には育児真っただ中のスタッフが複数います。彼女たちに、「働く楽しさを教えたい」「管理職を任せたい」と思っているのですが、実は彼女たちは必ずしも「上を目指す」ことを望んでいるわけではありません。「仕事はここまで、家庭もアフターファイブも大事だし、これ以上の仕事は任されたくない」というスタッフがいることも確か。自分の考えを押しつけてはいけませんね。

●ディランド山京リース(株)(京都府宇治市)取締役管理部長・岡嶋 緑氏
 管理部署にいる女性スタッフ12名は、チームワーク良く頑張ってくれています。つくづく、滞納督促やクレーム対応など、管理の仕事は女性に向いていると実感するのですが、目下の悩み事は、女性スタッフに「欲がない」「上を目指す気持ちが少ない」こと。もっと欲を出してほしいのだけれど…。

 「自分の力を試したい」「もっとキャリアアップを目指したい」と思っていても、それが叶わない状況で仕事をしている女性も少なくないだろう。だが、せっかくチャンスを与えてもらえる状況にあるのなら、そのチャンスを最大限に活かすほうが断然いい。

 また、「まだまだ男尊女卑の傾向が強い」「時短で早く帰られると困るとこぼす上司がいる」といった意見も。女性にやさしい会社、そうでない会社、さまざまだ。
 「仕事を辞めたいから結婚するという若い女性も少なくない」「産休・育休制度があることすら知らない」など、少々後ろ向きな意見もあった。

 まだまだ男社会の不動産業界。今回の会合で、管理の現場には、やる気にあふれる女性もいれば、「責任が重くなるのはイヤ」「仕事はほどほどに」と割り切った女性もいることが分かった。
 しかし、「キラ☆キラ女子向上委員会」のメンバーが活動について発表している姿を見ていて、「本当にイキイキ、キラキラしていてうらやましい」と感じた記者は、やはりやる気にあふれる女性を応援したい。そして、少しでも近付きたいと思う。(I)

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