記者の目 / 開発・分譲

2014/3/20

湘南のスマートシティ、戸建分譲がついにスタート

初弾販売物件は1期1次登録完売

 神奈川県藤沢市で進んでいるパナソニック(株)の工場跡地約19haの大規模開発「Fujisawa SST(サスティナブル・スマートタウン、以下、藤沢SST)」の戸建住宅街区の販売がいよいよスタートした。パナホーム(株)と三井不動産レジデンシャル(株)が戸建住宅街区を開発し、2月15日に1期1次販売の登録を締め切ったところ、区画によっては倍率が付く人気を集めた。両社の最新の環境技術と開発、コミュニティ形成ノウハウを結集した同プロジェクト。初弾販売物件として絶好のスタートを切ったといえよう。4月にはまちびらきの予定で、2018年の全体完成に向けて開発が加速する。

全棟に太陽光発電システムを搭載し、CO2±ゼロ住宅をそろえた
全棟に太陽光発電システムを搭載し、CO2±ゼロ住宅をそろえた
モデルハウスのリビング、全棟に設置するパナソニック製のテレビは、HEMSのモニターとしても使用する
モデルハウスのリビング、全棟に設置するパナソニック製のテレビは、HEMSのモニターとしても使用する
コミュニティの核となる「コミッティセンター」の建築工事も大詰め。4月にはまちびらきが行なわれる
コミュニティの核となる「コミッティセンター」の建築工事も大詰め。4月にはまちびらきが行なわれる
街区内に風の通り道となる歩道も整備する。随所にこうしたパッシブ設計の考え方を取り入れている
街区内に風の通り道となる歩道も整備する。随所にこうしたパッシブ設計の考え方を取り入れている
約19haという広大な工場跡地の再開発。18年の全体完成に向けて、今後開発が加速する
約19haという広大な工場跡地の再開発。18年の全体完成に向けて、今後開発が加速する

◆約1,000世帯の住戸や各種施設を配置、「100年後も持続可能な街」に

    藤沢SSTは、開発総面積約19haの中に、先進の環境配慮型住宅約600戸に加え、分譲マンション約400戸、福祉・健康・教育の複合施設、商業施設など、さまざまな生活機能を備える。敷地の南側には、幹線道路に沿って太陽光発電パネルを設置。地域の再生可能エネルギー利用率を高めるとともに、敷地全体の電線地中化や「タウンデザインガイドライン」による景観の整備など、「100年後もエコ&スマートなくらしを生む街」をテーマに、持続可能なまちを目指す。

 プロジェクト全体の具体的な数値目標として、まち全体でCO2排出量を1990年比70%削減、生活用水の30%削減、再生可能エネルギー利用率30%以上、非常時のライフライン確保3日間などを掲げる。先進的な設備だけでなく、街区を東西南北に縦断・横断する風の通り道となる路地を設けたり、各建物間の距離を1.6m以上確保して光を取り入れやすくするなどといったパッシブなまちのデザインも取り入れた。今年1月には神奈川県の「環境共生都市づくり事業」の認証も受けている。

 4月のまちびらきを目前に控え、各戸建分譲やまちのコミュニティの核となる集会所「コミッティセンター」の建築工事も大詰め。メインストリートとなる敷地中央の通りの整備も進んでおり、18年の全体完成に向けて開発は今後本格化する。

◆自治会組織をタウンマネジメント会社が支援

 100年後も持続するまちを目指す上で、大きな特徴の一つがタウンマネジメント。住民らで構成する自治会組織「Fujisawa SSTコミッティ」(以下、コミッティ)を4月に創設するのに加え、タウンマネジメント会社・FujisawaSSTマネジメント(株)(以下、TMO)がコミッティの運営をサポートする。コミッティは、共用施設である集会所や自主管理広場、防犯灯、防犯カメラなどを所有資産として維持管理するほか、イベントや行事を企画する。将来的には認可地縁団体として申請して法人格を得る計画。

 TMOはコミッティに「街コーディネーター」を派遣し、コミッティ事務局の日常的な運営業務をサポート。自主ルールとしての「コミュニティデザインガイドライン」の運用支援や、すべての住宅に設置したHEMSを通じて得たエネルギーデータや生活情報も管理する。

◆年間100戸程度の供給で、街の多世代化をサポート

 個別の戸建分譲プロジェクトもスタートした。2月に初弾として、パナホームの「パナホームスマートシティFujisawa SST」34区画、三井不動産レジデンシャルの「ファインコートFujisawa SST」28区画を販売開始。いずれも、全棟CO2±0住宅という分譲プロジェクトだ。登録前の事前来場では、約1,000組を集めた。

 パナホームの販売担当者は「当社の戸建分譲については、34区画に対して全区画で登録・申し込みをいただき、倍率が付き抽選となる区画もあった」と人気ぶりを語る。パナホームスマートシティは30歳代の来場が4~5割を占めたが、申し込みは30~60歳代に分散した。

 多様な世代構成でまちがスタートするのは、持続可能なまちを目指す同プロジェクトにとって好都合。来年度の分譲計画についても、「当社と三井不動産レジデンシャルの2社を合わせて年間100戸程度の供給を予定している」という。一気に販売するのではなく、小規模をコンスタントに供給することで、「まちの多世代化」を進め、持続可能なまちの形成を実現する。

 第一期建売分譲として、「パナホームスマートシティ Fujisawa SST」は、敷地面積125.01~149.57平方メートル、延床面積101.82~119.97平方メートル。販売価格は5,398万~6,490万円。「ファインコート Fujisawa SST」は、敷地面積125.05~135.17平方メートル、延床面積98.36~113.51平方メートル。販売価格は5,020万~6,490万円。いずれも、周辺相場からすれば500万~1,000万円ほど高価格だが、倍率が付くほどの人気を集めたのは、消費増税前の旺盛な住宅取得需要に加えて、まちのポテンシャルが評価された結果といえよう。

 約1,000世帯・居住人口約3,000人というビッグプロジェクトのスケールメリットや、地域のランドマークだった工場跡地の再開発という地元からの注目度の高さなども人気を集めた理由。前出の販売担当者は「藤沢SSTの開発コンセプトをご理解いただくことで、来場時には関心が高くなかったお客さまにも強い関心を持っていただけた」と語る。

 パナホームが建てる住宅は、ほぼ全棟が同社の住宅商品「カサート・テラ」。環境性能の高さが特徴で、太陽光パネルを多く載せられる切妻屋根を主に採用している。同分譲では太陽光発電システム4.8kW(一部除く)、蓄電池4.65kWh、HEMS、さらには太陽光発電と蓄電池のエネルギーを最適制御する創蓄連携システムも組み込む。

◆災害対策も万全、地震不安を払しょく

 藤沢SSTは、JRなど「藤沢」駅からバス5分、JR「辻堂」駅徒歩23分の東海道線南側のエリアに所在する。実はこの東海道線南側エリアの不動産市場は、東日本大震災後、ユーザーの津波懸念などから深刻なダメージを受けた。一時期、「まったく売れない」「土地を仕入れ値の半額で売却した」という不動産会社からの嘆きが聞こえていた地域である。駅から特別に近いわけでもなく、環境やタウンマネジメントといったメリットはあるものの、ここまでの人気を集めるのは、大きな壁だったと言えるだろう。

 前述した戸建分譲プロジェクトでは、地震をはじめとした災害対策にも万全を期した。海岸から2kmで海抜9mと、津波の心配は少ない土地ではあるものの、地盤の液状化対策を施し、建物についてもパナホームでは本来の耐震構造に替え、より揺れを低減する制震構造を採用した。また、今後開発する分譲マンションは広域避難所としても機能。何重もの対策によって購入者の安心を確保している。前出の販売担当者は「この地域は、地震に対する感度が高い地域。懸念を払しょくすることは非常に大切になる」と語る。

◆総合力の高いまちづくり

 地域のランドマークであった工場の跡地開発ということで、注目を集めていたこともあり、藤沢SSTにかかる地元の期待は大きい。
 先端の技術を集めるだけではなく、きめ細かな災害対策、しっかりとしたタウンマネジメントの仕組みをつくりあげていることなど、総合力の高いまちを目指す藤沢SST。全国的にスマートシティ・スマートタウンプロジェクトが進められている中、同プロジェクトは「お手本」になりそうだ。(晋)


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【関連ニュース】
藤沢の大規模スマートシティ、戸建街区の販売開始/パナホーム、三井不レジ(2014/02/14)

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