記者の目 / 開発・分譲

2014/6/27

「トラのもん」が東京を変える

森ビル「虎ノ門ヒルズ」のインパクト

 不動産業界における2014年上半期の話題を独占するであろうビックプロジェクトが、6月完成した。森ビル(株)が事業参画する超高層複合ビル「虎ノ門ヒルズ」(東京都港区)である。戦後の都市伝説「マッカーサー道路」の生まれ変わりとなる環状2号線(新虎通り)との一体整備、エリア最高層となる52階建てタワー、ハイアットグループの高級ホテル「アンダーズ」の出店など話題には事欠かない。だが、このプロジェクトのインパクトは別にある。虎ノ門に誕生した巨大なランドマークは、東京五輪が開催される2020年に向けた、壮大な都市リニューアルの序章に過ぎない。

「虎ノ門ヒルズ」全景。立体道路制度を活用し、道路の直上を再開発、ビルを建設した。環状2号線は、ビル足元をトンネルで抜け、汐留方面へと向かう
「虎ノ門ヒルズ」全景。立体道路制度を活用し、道路の直上を再開発、ビルを建設した。環状2号線は、ビル足元をトンネルで抜け、汐留方面へと向かう
汐留方面から「虎ノ門ヒルズ」を望む。環状2号線は地下へと潜り、まっすぐ伸びるのは「新虎通り」。歩道部分が大きく採られ、今後日本のシャンゼリゼ通りをめざし、オープンカフェや商店が軒を連ねていく予定
汐留方面から「虎ノ門ヒルズ」を望む。環状2号線は地下へと潜り、まっすぐ伸びるのは「新虎通り」。歩道部分が大きく採られ、今後日本のシャンゼリゼ通りをめざし、オープンカフェや商店が軒を連ねていく予定
「虎ノ門ヒルズ」周辺は、戦後すぐにオフィスビルが建ち並んだ老舗オフィス街。それ故に、背の低い中小ビルが多く、土地の高度利用が進んでこなかった。また、それらのオフィスビルも、スペックが見劣りするようになり、新たな再開発の時を待っている。
「虎ノ門ヒルズ」周辺は、戦後すぐにオフィスビルが建ち並んだ老舗オフィス街。それ故に、背の低い中小ビルが多く、土地の高度利用が進んでこなかった。また、それらのオフィスビルも、スペックが見劣りするようになり、新たな再開発の時を待っている。
オフィスゾーンはすでに満床。1フロア1
オフィスゾーンはすでに満床。1フロア1
000坪と虎ノ門エリアにない広大なオフィス空間を実現。テナントは、外資系企業が半分を占める
000坪と虎ノ門エリアにない広大なオフィス空間を実現。テナントは、外資系企業が半分を占める
賃貸住宅「虎ノ門ヒルズレジデンス」は、超都心部の超高層住宅にふさわしい、豪華なしつらえ。ホテル「アンダース東京」と共用部デザインテイストを共通化。総住戸の半分は販売される予定
賃貸住宅「虎ノ門ヒルズレジデンス」は、超都心部の超高層住宅にふさわしい、豪華なしつらえ。ホテル「アンダース東京」と共用部デザインテイストを共通化。総住戸の半分は販売される予定
47~52階部分は、日本初進出となるハイアット系列の高級ホテル 「アンダーズ 東京」が開業した。客室内は天然木が多用された、オリエンタルな雰囲気。チャペル、スパ、パーティルーム、専属シェフが付くシェフズスタジオなどの付帯施設も超豪華。スイートルームは一泊100万円も納得の超高級ホテルである
47~52階部分は、日本初進出となるハイアット系列の高級ホテル 「アンダーズ 東京」が開業した。客室内は天然木が多用された、オリエンタルな雰囲気。チャペル、スパ、パーティルーム、専属シェフが付くシェフズスタジオなどの付帯施設も超豪華。スイートルームは一泊100万円も納得の超高級ホテルである
森ビルが「虎ノ門ヒルズ」を建設するにあたり、外資系企業を含めた検討者へのプレゼン用に作成した、東京都心部の縮小ジオラマ。オフィスビル程度の建物であれば、完全に再現されている。超高層ビルはずいぶん増えたと感じるが、このジオラマを見る限り、まだまだ少ないと実感できる。同社は、このジオラマを使い、今後東京がどう再開発され、ポテンシャルが上がっていくのかを説明したのだという
森ビルが「虎ノ門ヒルズ」を建設するにあたり、外資系企業を含めた検討者へのプレゼン用に作成した、東京都心部の縮小ジオラマ。オフィスビル程度の建物であれば、完全に再現されている。超高層ビルはずいぶん増えたと感じるが、このジオラマを見る限り、まだまだ少ないと実感できる。同社は、このジオラマを使い、今後東京がどう再開発され、ポテンシャルが上がっていくのかを説明したのだという

「立体道路制度」によるウルトラC

 「本当に完成するのかねぇ」――。チャーハン餃子定食を食べつつ、雑草が生い茂る空地を、いつもそう思いながら眺めていた。
 前の弊社事務所は、「新虎通り」予定地のすぐ近くだった。汐留から虎ノ門に向けた道路予定地は大方確保されていたが、依然として立ち退かない地主や店子はたくさんいた。行きつけの中華料理屋も、そのひとつだった。森ビルを始めとした民間企業が「事業協力者」として参画し、「都市再生緊急整備地域」と言われながらも工事は遅々として進まず、もはや永遠に終わらない気がした。

 そんなある日、森ビルが東京都施行の再開発事業の「特定建築者」になると発表された。相前後して、行きつけの中華料理屋は店じまい。そこからが速かった。あっという間に虫食い地が整備され、ビルは日に日に高くなり、きれいな道路が敷かれていた。そして、「虎ノ門ヒルズ」開業である。「民間パワー」の凄まじさを、目の当たりにした。

 都市計画決定から60年以上停滞していた再開発が完成までこぎつけたのは、森ビルと東京都の「官民連携」と、「立体道路制度」の活用というウルトラCだ。

 「虎ノ門ヒルズ」は森ビル単体のビル建設(再開発)ではない。もちろん、道路予定地にビルは所有していたが(かつての本社)、あくまで東京都施行の道路工事のいわば「副産物」。事業協力者として助言をし、特定建築者として都に代わり工事をしたわけだ。

 その官民連携を可能としたのが、1989年に創設された「立体道路制度」だ。それまでは、道路の上下空間に建築物を建設することができなかったが、同制度によってそれが可能となった(=道路占用許可が不要になった)。環状2号線を地下トンネルとしたことで、超高層ビル建設に必要な土地を確保。地上部分(新虎通り)の交通量を減らすことで道路車線を少なくし(それでも幅40mもあるが)、まちを分断されるストレスを減らした。歩道は大きく採られ、様々な商店を誘致しまちに賑わいをもたらすプロジェクト(東京シャンゼリゼ)も始動する。

 単なる道路建設から、超高層ビルを起点にまちを活性化する。森ビルが参画したことで、再開発への理解が急速に高まったのは想像に難くない。同社社長の辻 慎吾氏も「官民一体で道路と建物を整備するこの手法は、全国各地の再開発を加速させるためにも、もっと使っていくべきだ」と力説する。

地上52階、職住近接のランドマーク

 ここからは「虎ノ門ヒルズ」の紹介に入りたいが、すでに開業から時間も経ち、さまざまなメディアにも取り上げられているので、ごく簡単にまとめる。

 総敷地面積は、約1万7,000平方メートル。建物は高さ247m、地上52階地下5階建て、延床面積約24万平方メートルという規模。高さは「東京ミッドタウン」(東京都港区)に次ぐ。1~4階には商業店舗、4・5 階に最大2,000名収容のカンファレンス施設「虎ノ門ヒルズフォーラム」、6~35階がオフィス、37~46階が住宅「虎ノ門ヒルズレジデンス」、47~52階は日本初進出となるハイアット系列の高級ホテル 「アンダーズ 東京」が開業した。

 東日本大震災を経て、BCP機能を大幅に強化。大型の非常用発電機による連続15日間の給電、1,218基の制震装置、複数の無線を組み合わせた非常用通信手段などの高い防災性能を誇る。カンファレンスやロビー、アトリウム等は、非常時に3,600人規模の帰宅困難者を受け入れできるよう、食料や機材の備蓄を行なっている。

 オフィスは、延床面積約9万9,000平方メートル。1フロア1,000坪と虎ノ門エリアにない広大なオフィス空間を実現。IT系企業を中心に、満床での開業となった。外資系企業と日系企業の比率(賃貸床面積ベース)はほぼイーブン。成約賃料は、坪3万円台後半だとか。

 「アンダーズ東京」は、総客室数164室。客室面積は50平方メートル台が中心で、スイートルームが125平方メートルと210平方メートルの2室。付帯設備として、チャペル、スパ、パーティルーム、専属シェフが付くシェフズスタジオなどを用意。客室・共用部とも、ウォールナットなどの自然木を多用、和のしつらえをベースにオリエンタルかつ落ち着いた雰囲気が漂う。バスルームは日本流だ。宿泊料金は、4万~6万円台が中心。スイートルームは最高100万円と、フラッグシップの名に恥じない価格設定となっている。

 「虎ノ門ヒルズレジデンス」は、総戸数172戸、1~3ベッドルーム、専有面積45~240平方メートル。アンダーズ東京同様の共用部デザインを施し、ルームサービスやランドリーサービスなどのホテルサービスも利用できる。賃料は、月額47万~251万円。約半分の住戸は分譲も検討しているというが、大々的に販売はせず、希望者へクローズドでの販売となる。

 建物計画がリーマンショック後に進んでいたからかも知れないが、オフィス、商業施設、ホテル、住宅も、誤解を恐れず言えば「地味」にまとまっている。規模も違うが、きらびやかな雰囲気の六本木ヒルズや東京ミッドタウンとは好対照である。

虎ノ門を「国際新都心」へ

 「虎ノ門ヒルズ」開業のインパクトは、2つの側面から語ることができる。

 まず、東京でも最も古いオフィス街のひとつに位置付けられる虎ノ門・新橋エリアの再開発の呼び水になるということだ。同エリアは戦後間もなく再開発が進み、最新鋭のオフィスビルが林立した。しかし、戦後60年が経過し、それらのビルは規模・スペックに於いて、もはや見劣りしている。IT系や外資系などのトレンド企業は、ハイスペックなビルを求め、六本木や赤坂、汐留へと流れる。「虎ノ門ヒルズ」の威容が目立つのも、逆に周りのビルが低いということだ。

 森ビル自体も、「ナンバービル」と呼ばれる再開発オフィスビルを、虎ノ門・新橋エリアに多数所有しており、その多くは、築30年を超えている。「ナンバービル自体、再開発で作り上げてきたもの。これから、これらの再・再開発に着手する」(辻社長)。すでに、「虎ノ門ヒルズ」に隣接する「10森ビル」と「9森ビル」周辺の再開発が動き出した。

 もう一つの側面は、すでに再開発が先行している赤坂・六本木と連携した、港区全域の「国際新都心」へのリニューアルだ。日本に拠点を持つ外資系企業は約3,100社と言われており、そのうち760社が、港区に本社を構えている。72の国が大使館を置き、月額賃料30万円以上の賃貸ストックが1万7,000戸に達する(いずれも森ビル調査)。港区とはすごいまちだったのである。

 だが、シンガポールや香港、上海などに代表されるアジア各国の都市と比べ、東京がグローバルビジネスに秀でた都市だとは言えない。スペックの整ったビルストックや、外資系のエクゼクティブを満足させる住宅ストック、商業施設等は圧倒的に不足しているからだ。2020年には、東京オリンピックも控えている。そのため、国も東京都も、国際的に評価される都市を目指し、東京の大改造を急いでいる。港区エリアはその筆頭であり、虎ノ門ヒルズはその起爆剤でもある。開業式典に多忙な安倍首相や舛添知事が列席したのも、その期待の表れといえよう。

 森ビルも本気だ。むこう10年間にわたり、1兆円を投資。虎ノ門、六本木など港区内の10ヵ所で、約22haにおよぶ再開発に着手する。新たに開発されるビルの総床面積は220万平方メートル。住宅3,000戸を供給。自社の高級レジデンスストックを倍増させる。

 「国家戦略特区、東京五輪が決まり、最大かつ最後のチャンスが到来した。 スピード感をもって都市再生を進める絶好の機会。虎ノ門ヒルズを起爆剤として、このエリアを中心に、ヒト・モノ・カネの集まる真の国際新都心として再生していきたい」と、辻社長の鼻息は荒い。

 といったことを考えながら「虎ノ門ヒルズ」を歩くと、まったく違った景色が見えてくることだろう。

 最後に。本コラムのタイトルがなぜ「トラのもん」とカタカナ、ひらがな、なのか?それは、「虎ノ門ヒルズ」のイメージキャラクター「トラのもん」から。一見すればすぐ、世界的に有名なあの「猫型ロボット」がモチーフだとわかる(もちろん、プロダクションとの共同制作)。

 あの猫型ロボットは、未来からのびた少年の未来を変えるためやってきた。「トラのもん」は、未来から虎ノ門、東京を変えるためやってきた。どちらも、楽しそうである(笑)。(J)

***
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