記者の目 / 開発・分譲

2015/8/3

「熟成する家」つくり

住宅業界に一石投じる「Marks house」

 スペック至上主義と低価格競争にはまり、どんどん没個性化が進んでいる住宅業界。そうしたなかで、地元の住宅文化の復権、「地元らしさ」をコンセプトに、超個性的な住まいづくりを目指しているのが、(株)NIKKEI(横浜市中区、代表取締役社長:望月真裕氏)が手掛ける住宅ブランド「Marks house」。メインコンセプトは「熟成する家」。素材感とハンドメイドにこだわって仕立てられた室内空間は唯一無二。コンセプトを体現したショールームをわざわざ作るなど、販売戦略も個性的。ブランドコンセプトが凝縮した第1弾の建売住宅をみた。

「Marks house」のコンセプトを忠実に盛り込んだ建売住宅の第1弾「マークスハウス羽沢」
「Marks house」のコンセプトを忠実に盛り込んだ建売住宅の第1弾「マークスハウス羽沢」
キッチンはスタンダードトレード社のオリジナル。キッチントップには人工大理石、シンクは陶器製。面材は黒く化粧が施された木製。周囲にはホワイトタイルをあしらう
キッチンはスタンダードトレード社のオリジナル。キッチントップには人工大理石、シンクは陶器製。面材は黒く化粧が施された木製。周囲にはホワイトタイルをあしらう
フローリングや居室扉、棚板に至るまで、ナラの無垢材が使われている。定期的な手入れは必要だが、時を経る毎に味わいが増す。住民に家のメンテナンスを楽しんでもらおうという考えだ
フローリングや居室扉、棚板に至るまで、ナラの無垢材が使われている。定期的な手入れは必要だが、時を経る毎に味わいが増す。住民に家のメンテナンスを楽しんでもらおうという考えだ
階段の踏板には、サイザル麻が貼り込まれる。足ざわりがいいだけでなく、滑り止めの効果もある
階段の踏板には、サイザル麻が貼り込まれる。足ざわりがいいだけでなく、滑り止めの効果もある
ドアノブはすべて真鍮製。成人が自然と手を伸ばす高さに取り付けるなど、人間工学を意識している
ドアノブはすべて真鍮製。成人が自然と手を伸ばす高さに取り付けるなど、人間工学を意識している
各住戸に必ず備わるスタンダードトレード社製のソファ。足の無い特注品で、台座はもちろん無垢材。その住戸のもっともウリとなる空間に設置している。「快適な空間に人が集まる」からだ
各住戸に必ず備わるスタンダードトレード社製のソファ。足の無い特注品で、台座はもちろん無垢材。その住戸のもっともウリとなる空間に設置している。「快適な空間に人が集まる」からだ
洗面ボウルと鏡もスタンダードトレードの特注品
洗面ボウルと鏡もスタンダードトレードの特注品
南面の窓は原則小さい。主寝室にバルコニーを設けない住戸もある。主寝室は夫婦のくつろぎ空間であり、薄暗いほうが落ち着くため。むやみに室内を明るくしないのは、家具や素材の劣化を防ぐ目的もある
南面の窓は原則小さい。主寝室にバルコニーを設けない住戸もある。主寝室は夫婦のくつろぎ空間であり、薄暗いほうが落ち着くため。むやみに室内を明るくしないのは、家具や素材の劣化を防ぐ目的もある
窓は小さくても、クローゼットの近くには必ず設置している。衣服に風を通すためだ
窓は小さくても、クローゼットの近くには必ず設置している。衣服に風を通すためだ
2階の各室の床はココア色のカーペット仕上げとし、隣り合う2室の壁にはクローゼットを挟むように配慮している。専有面積に限りがあり壁厚・床厚をさほど確保できない建売住宅での遮音性を高めるための工夫
2階の各室の床はココア色のカーペット仕上げとし、隣り合う2室の壁にはクローゼットを挟むように配慮している。専有面積に限りがあり壁厚・床厚をさほど確保できない建売住宅での遮音性を高めるための工夫
「中庭の家」は、坪庭を作ることで光を取り入れ、視覚的な狭さを解消している
「中庭の家」は、坪庭を作ることで光を取り入れ、視覚的な狭さを解消している
「ルーフテラスの家」は、敷地の一番奥という立地をいかし、視線が気にならないルーフテラスを設け、その前に小部屋を設置。いかにも「昼寝」が気持ちいいような空間としている
「ルーフテラスの家」は、敷地の一番奥という立地をいかし、視線が気にならないルーフテラスを設け、その前に小部屋を設置。いかにも「昼寝」が気持ちいいような空間としている

地元の家具工房とコラボ。横浜の住宅文化復権目指す

 「Marks house」を手掛けるNIKKEIは、2006年の創業以来、横浜市を中心に総合不動産業を展開する会社。主力の仲介業は「横浜スタイル」のブランドネームで展開し、社長の望月氏も横浜育ちで、「横浜」に対する思い入れは強い。そこで、新たに住宅事業(建売、注文住宅、マンションリノベーション)を立ち上げるにあたり思い描いたのが「横浜らしい住まい」「横浜の住宅文化の復権」だった。

 「明治以来、横浜の住まいは、西洋文化を巧みに取り入れながら、日本人らしい手作り感にあふれたものでした。こうした手作りの工房が、横浜にはまだ存在します。しかし、今世の中に溢れる住まいは、どれも同じようなデザインのものばかり。価格ばかりが重視され、20~30年もすれば古びてしまう。当社は、こうした住まいとは正反対の、時間が経つほどに味わいの出る住まい、横浜ならではの面白い住まい、熟成する住まいを、世の中に発信したかった」と望月社長は語る。「Marks house」のMarksは、「横浜のランドマーク」という意味が込められている。

 同ブランドの立ち上げに際し手を組んだのが、手作り家具等を手掛ける地元横浜のクラフトショップである「スタンダードトレード」。同社の商品は、時間が経つほどに味わいを増す素材、手触り肌触りのやさしい素材、そして人間工学に基づいた商品設計が特徴。この同社の商品とデザインを全面的に採用して、すべての住宅商品(建売、注文住宅、リノベーション)を統一イメージで展開していく。

「時を経るごとに味わいを増す」内装

 最大の特長は、内外装を彩る部材の多くが「時を経るごとに味わいを増していく」という特性を持っている点だ。
 フローリングや建具の面材、棚板などには、無垢のナラを使っている。無垢材というだけで手触り足ざわりはいいが、ナラは人の手の脂や日照により、表面が飴色に変化していくという特性がある。「ワックスをかけるなど定期的なメンテナンスをしていく必要がありますが、家を手入れしていくことで愛着も沸くようになります」(望月社長)。ドアノブ類は、真鍮製をおごる。こちらも、使えば使うほど渋みが増してくる。階段の踏板には「サイザル麻」が貼り込まれる。裸足で歩いたときの足ざわりがいいだけでなく、滑り止めにも効果を発揮する。
 
 キッチンや洗面は、スタンダードトレード社のハンドメイド品。キッチントップには人工大理石、シンクは陶器製。面材は黒く化粧を施した無垢材、周囲にはホワイトタイルをあしらう。洗面台もハンドメイド。無垢の木枠で囲んだ大ぶりの鏡に、オリジナルの洗面ボウルというシンプルな造り。柔らかい光を放つ船舶用照明も、リビングや玄関に設置している。第1弾の建売住宅には、リビングにオリジナルのソファも備わる。

 もうひとつの特長は、人間工学に基づいた機能的なデザインが貫かれている点。ドアハンドルの位置や高さはもちろん、照明スイッチやコンセントの位置も「暗闇で手を伸ばした高さ」や「掃除機をかけるときのコンセントの高さ」「ドアを開ける時一番力が入りやすい高さ」など計算して配置している。

価格競争に巻き込まれない建売住宅

 同社は「Marks house」のコンセプトを忠実に盛り込んだ建売住宅の第1弾「マークスハウス羽沢」を、横浜市神奈川区で開発。5月に販売を開始した。

 同物件は、JR「横浜」駅からバス21分、バス停徒歩2分に立地する、全4戸の建売住宅。駅へのアクセスに難があるため「建物の魅力で売る」という「Marks house」のコンセプトにマッチするものとして、第1弾物件として選ばれた。
 
 建物は、いずれも2×4工法の3LDK(専有面積74~106平方メートル)。外壁もすべて、内装のカラーリングと同系のライトブラウンの吹付塗装としており、街区全体でも世界観を統一している。

 内装は、「Marks house」のブランドイメージであるナラ材のフローリングと建具、真鍮製のドアノブ、サイザル麻の階段踏床、漆喰塗りの壁、タイル貼りのオリジナル洗面台、木製オリジナルキッチン、船舶用ランプなどを共通採用。また、2階の各室の床はココア色のカーペット仕上げとし、隣り合う2室の壁にはクローゼットを挟むように配慮している。これは、専有面積に限りがあり壁厚・床厚をさほど確保できない建売住宅での遮音性を高めるための工夫だ。外構は、芝とツタを植え込んだだけのシンプルな造りだ。
 
 各住戸は、ブランドイメージを統一しつつ、「LDKの家」「中庭の家」「ルーフテラスの家」「土間テラスの家」と違ったコンセプトを持たせている。

 「LDKの家」は、家族に居心地の良いLDKを目指した間取り。全4戸中、もっとも南面に位置するにもかかわらず、南側は小窓だけとし、その代り敷地内方向の東向きに大型のサッシを配し、日差しと外からの視線をさえぎり、ゆったりと過ごせるLDKとしている。
 同じような工夫を盛り込んでいるのが「中庭の家」で、こちらも南面の主寝室の南側に窓がない。窓がないばかりか、バルコニーもないという、一般的な建売住宅のセオリーを無視している。「主寝室は、夫婦が落ち着ける空間である」という考えからくるもので、日差しは東面の小窓からだけ入る。昼間も薄暗いが逆にのんびりくつろげる空間としている。そのかわり、1階には中庭を介し充分な陽が入る。こうした「あえて窓を設けない」戦略は、前面道路や隣住戸との距離が充分に採れない建売住宅で、プライバシーと快適性を高めるための工夫でもある。

 「ここぞ」という売りの空間を絞り込み、そこへの快適性にこだわっているのもおもしろい。「ルーフテラスの家」は、敷地の一番奥という立地をいかし、視線が気にならないルーフテラスを設け、その前に小部屋を設置。いかにも「昼寝」が気持ちいいような空間としている。「土間テラスの家」は、趣味空間として屋根つき・コンクリート打ち放しの土間テラスを設置。ソファはあえてその土間テラスに向け配置している。

 販売価格は、3,980万~4,480万円。ロケーションを考えるとやや高めの値付けだが、独自の間取りや部材の採用で、周辺のミニ戸建てとの価格競争に巻き込まれないポジションを狙っている。

建売・注文・リノベでイメージ統一

 同社は、建売住宅をブランドイメージの牽引役と位置付け、新たに立ち上げた分譲事業部により年間30戸全戸をコンスタントに供給していく。併行して、建売住宅と同じ部材を使ったリノベーションを、500万円・800万円の定額制2本立てで展開。フルオーダーの注文住宅と合わせ、やはり年間30戸前後を手掛けていく方針だ。

 また、プロモーションにあたっては、横浜・外人墓地の目の前に、分譲事業部オフィスを兼ねた常設ショールームを設置。キッチンやフローリング、カーペット、クロスなど、実際に住戸で使われるアイテムを展示。ブランドコンセプトをユーザーにアピールしていく。

 住宅業界は、常に激しい価格競争が行なわれている。設備機器の進化も激しい。流行のデザインもすぐ模倣され、差別化にならない。こうした環境下では、家づくりのコンセプトから、他社には真似できないポリシーを持つ事が必要になる。横浜に根付く同社が作り上げた、横浜ならではの家が、横浜市民にどのように評価されるのか。そして、どう熟成していくのか。注目していきたい(J)

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