記者の目

2016/4/25

築50年木造空き家の活路

“創業の場”としてリノベーション

 空き家問題が深刻化している。中でも、築年数が経過した木造戸建ては、例え都内であっても手付かずになっているケースも多い。  今回紹介する2つの物件も駅近であるにもかかわらず、老朽化等が原因で、空き家状態だった。そういった空き家を単なる住宅としてリノベーションするだけでなく、新たな事業の場として活用することで、物件の有効活用はもちろん、地域の賑わいにもつなげている。そこには不動産会社として、きめ細やかなコンサルティング、事業費負担軽減などの工夫がある。

築52年の木造空き家をカフェ+住宅に改装。周囲も築古物件が多い中、同店舗がオープンすることでエリア活性化が見込める
築52年の木造空き家をカフェ+住宅に改装。周囲も築古物件が多い中、同店舗がオープンすることでエリア活性化が見込める
従前の外観。空き家状態が続いていた
従前の外観。空き家状態が続いていた
1階のコーヒー専門店部分。「店舗併用住宅」の規定面積に収めた
1階のコーヒー専門店部分。「店舗併用住宅」の規定面積に収めた
2階の住宅はシンプルな内装。柱などに旧材を使用して味わいを出している
2階の住宅はシンプルな内装。柱などに旧材を使用して味わいを出している
従前の内装。壁は腐食が進み、シロアリも発生するなど、大幅な改装を必要とした
従前の内装。壁は腐食が進み、シロアリも発生するなど、大幅な改装を必要とした
駅前商店街の一角にある築47年の店舗併用住宅をカフェ+旅館に改装。とんかつ屋時代の看板はあえて残している
駅前商店街の一角にある築47年の店舗併用住宅をカフェ+旅館に改装。とんかつ屋時代の看板はあえて残している
1階は多世代に訴求効果のある手芸がテーマの「ミシンカフェ」に。宿泊者はもちろん、地域の憩いの場となっている
1階は多世代に訴求効果のある手芸がテーマの「ミシンカフェ」に。宿泊者はもちろん、地域の憩いの場となっている
2階は既存の内装を生かしながら旅館にした
2階は既存の内装を生かしながら旅館にした

◆物件探しからリノベまでワンストップ対応。 店舗併用住宅に改修で低コスト起業を支援

 1つ目の事例は、東京都世田谷区の小田急線「経堂」駅徒歩1分に立地。敷地面積約145平方メートル。延床面積約101平方メートルで、築52年の木造2階建て。前オーナーが住居として利用していたが、ここ数年は空き家状態だった。それを個人オーナーが取得し、1階をコーヒー専門店、2階を住宅としてリノベーション。4月に竣工した。

 元々リノベーション物件に興味があったオーナーは、コーヒー専門店としての起業を目的とした物件探しをしていたが、希望に沿った物件がなかなか見つからず、リノベーション事業で定評のある(株)リビタ(東京都渋谷区、代表取締役:都村智史氏)に改めて相談した。
 リビタでは、物件探しから引き渡しまで、専属担当者がワンストップでサポートすることで、顧客に合った物件の掘り起こし、建物の検査、リノベーションプランの策定など、顧客ごとにオーダーメイドで手掛けている。

 今回、同社担当者はコーヒー専門店の都内分布の独自調査を実施。その結果、コーヒー専門店が集中するエリアからは外れるものの、物件取得価格が抑えられ、駅から近い木造戸建住宅を提案。老朽化によるシロアリや腐食の発生、隣家との境界問題など、課題の多い物件ではあったが、改修費用約3,000万円(解体費用含む)を含めても予算内で収まること、駅から1分という抜群の立地であることなどから、今回の案件に適していると判断した。そのほか、「店舗併用住宅」とすることで、低金利の住宅ローンを利用できるように配慮している。

 結果、低予算で理想の店舗を構えられたと、オーナーから高い満足を得られた。また、周囲も老朽化した物件が多く、寂れた印象が拭えない中、今後同店がオープンすることでエリアの活性化につながる期待が高まる。

◆オーナーの費用負担はゼロ。 店舗併用住宅を「旅館+カフェ」で再生

 2事例目は、東京都豊島区の西武池袋線「椎名町」駅徒歩約4分、駅前商店街の一角に立地する、築47年の2階建て木造戸建住宅をカフェと旅館に改装した物件。敷地面積78.46平方メートル。建物面積111.78平方メートル。1階は元とんかつ屋で、20年前に閉店後は住居として利用されていたが、1年前からは空き家状態となっていた。

 同物件が豊島区の「リノベーションスクール」で再生対象となったことをきっかけに、スクールに参加していたリノベーション関係の有志で、まちづくり会社を設立。オーナーより物件を借り上げ、優先株式による同事業賛同者による出資、豊島区と日本政策金融公庫等による新規開業融資を利用して事業費用を出資した。オーナーの金銭的負担はなく、事業開始から2年間はほぼフリーレントで同社に貸し出す。運営もまちづくり会社で行なっていく。

 1階はスケルトン状態から一新して、「ミシンカフェ」に改装。2階は、廊下増設や水回りの刷新以外はほぼ既存の内装を活用して旅館にした。建物全体では、耐震補強、腐食部分の改修などを行なったものの、近隣住民を巻き込んだ壁塗りワークショップの開催などで費用はかなり抑えたようだ。
 宿泊施設の料金(定価)は、二人利用で個室が1室1万4,000~1万8,000円(一人利用でいずれも1万円前後)、ドミトリーが3,800円。

 同物件では3月の開業に先駆け、2月よりプレオープンを実施。カフェは地域の人でにぎわい、旅館も訪日外国人はもちろん、ビジネスユーザーからの反響も高かったという。遠方に住んでおり、物件活用に悩んでいたオーナーも地域に貢献できると喜んでいる。

◆増え続ける空き家を有効ストックに転換。 適切な再生プランでビジネスチャンスに

 現在、国においてもさまざまな空き家対策が進められているが、不動産会社がかかわれる案件の一つとして、“創業の場”としての空き家活用提案は注目できるのではないだろうか。新事業が生まれれば、エリアの活性化やイメージ向上にもつながり、不動産需要の高まりも期待できるだろう。

 今回紹介した事例のように、リノベーションも含めたワンストップ提案や他業種や行政と連携した体制の構築、オーナーの事業費負担軽減といった策を講じることで、不動産会社としての提案の幅は確実に広がるはずだ。今後も増え続けるといわれる空き家。これらを「有効ストック」としたビジネスはまだまだ可能性があるのは間違いない。(umi)

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