記者の目 / 開発・分譲

2012/6/29

大規模ビル竣工ラッシュでも、満室稼働の中小ビル ~その理由は? <後編>

 中小規模ビルでも、大規模ビルに負けない付加価値づくりに取り組んでいる、野村不動産のPMO事業。  前編に続き、その満室稼働の理由をレポートする。

PMO事業第1号の「PMO日本橋本町」ビル。すでに9棟がいずれも満室で稼働中。
PMO事業第1号の「PMO日本橋本町」ビル。すでに9棟がいずれも満室で稼働中。
「PMOの顔」ともいえる宇佐美副部長。営業第一線で、物件案内から契約までテナント企業のトップと交渉する。入居後もきめ細かな情報収集で、オフィス環境の改善に取り組んでいる(「PMO日本橋本町」ビル1階、セキュリティゲートの前で)
「PMOの顔」ともいえる宇佐美副部長。営業第一線で、物件案内から契約までテナント企業のトップと交渉する。入居後もきめ細かな情報収集で、オフィス環境の改善に取り組んでいる(「PMO日本橋本町」ビル1階、セキュリティゲートの前で)
入居テナントからはオフィス移転で「社員のやる気が出た」「会社の信用が上がった」「いい人材が採れた」など喜びの声も…
入居テナントからはオフィス移転で「社員のやる気が出た」「会社の信用が上がった」「いい人材が採れた」など喜びの声も…
トイレスペースには、ちょっとした小物が入れられるパントリーを設置。女性はもちろん、意外に男性にも評判がいいとか
トイレスペースには、ちょっとした小物が入れられるパントリーを設置。女性はもちろん、意外に男性にも評判がいいとか

営業最前線に「この人あり」

 これまで供給した9棟がすべて満室稼働を維持しているというPMO事業。この事業推進の原動力となってきたとも言える人物が、同社法人カンパニービルディング営業部の宇佐美直子氏である。

 同氏は7年間の住宅販売営業経験の後、法人営業部門へ。以来12年間オフィス営業一筋に実績をあげ、今年4月、副部長に昇進している。
PMO事業立ち上げからテナント誘致担当として営業現場の第一線に立ち、物件案内から契約に至るまで各社の経営トップと交渉してきた。同事業でこれまで成約した企業は延べ63社だが、ほぼすべてのテナントとの交渉に同氏が関わっている。今や「PMOの顔」ともいえる存在。

 「入居を検討される企業の業種、事情はさまざまです。IT関連やメーカー系等のベンチャー企業もあれば、地方の有名老舗の東京出先事務所、外資系企業の拠点、弁護士事務所などなど。業績が伸びて社員数が増え、少し大きなスペースに移りたいという企業もあれば、数ヵ所に分散していたオフィスを1ヵ所に統合したい、新しい事業に打って出たい、セキュリティ等設備の整ったビルに移りたい、クライアントにアクセスのよい場所に移転したい、いい人材を採りたいなど。入居後に、『おかげさまで社員のやる気が出た』『クライアントからの信用力が上がった』『入社希望者が増え、いい人材が来るようになった。採用コストも下がったしね。ありがとう』と御礼を言われると、この事業がお客様のお役に立っていることを実感できて嬉しい」と語る宇佐美氏だが、一方で、満室稼働が続くため、入居待ちの顧客には申し訳ないと、嬉しい悲鳴をあげている。

テナントの声がビルの付加価値をあげるヒントに

 同氏は、1号物件から2号、3号…とビル営業に取り組む中で、テナントから出てくるちょっとした要望や不満等を積極的に吸い上げ、新たなアイディアを提案、ビルの付加価値向上につなげている。
 例えば、1号ビルではオフィスの照明をライン天井にしたが、それでは間仕切りを変える際などに工事が大掛かりになるとわかり、2号ビルからはグリット天井に変えた。
 また、全面ガラス張りの窓は明るく開放的というメリットがある一方、夏には室内が暑くなってしまうため、一日中ブラインドを下げたままのテナントが多いことを知り、すだれ状のルーバーをとりつけた。

 さらに、来年1月に竣工する「PMO日本橋室町」では、ワンフロア当たりの面積が200坪と大きくなるため、これまでワンフロア・ワンテナントを貫いてきたコンセプトも逆に営業上障害になるとの考えから、分割ニーズに対応していく方針に変えるという。また、エントランスのセキュリティゲートも、来客の多いテナントの中にはかえって邪魔だという企業もあるため、テナントの要望によりセキュリティを強化・緩和と二分する取り組みも考案中だ。

「大規模ビルに負けない」ためのテーマは尽きない

 「こうしたアイディアはすべて、元はテナントさんの声なんです。なぜオフィスにこういうものがないのか、なぜこうなっていなくてはいけないのか、というお客さまの声を聞くと、ああなるほど、そういうものがあると便利だなとか、そうなっていると使いやすいなと共感することもある。それを次の企画にとりこんでいるだけです。そもそもテナントさんのニーズに沿うことから始まったビル事業なので、できるだけその姿勢は貫きたい」と宇佐美氏は語る。
 今後は、テナントからの要望が高い「共用スペース」づくりも検討中。テナントに会議やセミナーで活用してもらうほか、テナントに向けたマナー講習会、社員研修会などをビル側が企画して実施していくことも考えているという。
 
 また、「今はテナントさんの耐震や防災に対する関心が高まっています。これからのビルづくりや運営では、いざという時『壊れない』ことも大事ですが、その後『事業を継続できる』ための設備やソフトも充実させていくことも必要です。大規模ビルではすでにそうした対応が進んでいますが、PMOでも取り組んでいきたい」(同氏)と、まだまだ取り組む課題は尽きないようだ。

 「テナントはわが子のよう。だから皆さんがこのビルの中で快適に仕事をし、業績を伸ばしていってもらえるようにするのが私どもの役割だと思っています。そのために、まだまだ提供できるサービス等がいろいろあるのでは」と語る宇佐美氏からは、この事業にかける情熱がひしひしと伝わってくる。
 テナントと同じ目線で、働きやすさ、居心地の良さを常に考え、気づいたことはすぐに実行する。こうした人物の存在もまた、同ビルがテナントを惹きつけて離さない一要因に違いない。

 第10号物件「PMO日本橋室町」は、老舗の「文明堂」との共同運営になり、そこでは文明堂とコラボした町家風「カフェ」を併設するという新しい企画も組み込まれるという。
 また、その後も八重洲、田町(初の港区)、神田、茅場町、そして銀座と、すでに新たなプロジェクト計画が動き出しており、宇佐美氏の活躍の場、そして同社のPMO事業を通じた新たなオフィスビルの付加価値づくりはまだまだ続く。(yn)

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【関連ニュース】
中規模サイズの高付加価値型オフィスビル「PMO 日本橋本町」竣工/野村不動産(2008/7/2)

【関連記事】
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