記者の目 / 開発・分譲

2013/8/16

分譲スマートハウス、セカンドステージへ

三井不レジの最新物件にみる、ハード、ソフトの進化

 スマートハウスが、分譲住宅業界でもトレンドとなって久しい。そんな、分譲スマートハウスの進化は、とどまるところを知らないようだ。省エネ・創エネを実現する住まいのハードはその性能をどんどん向上させ、これらを使ったエネルギーのピークシフトによって昼間まったく電気を購入しない生活も実現できるようになった。一方、ソフトの工夫によりユーザーの省エネ行動を後押ししようという試みも始まった。こうした分譲スマートハウス事情を、三井不動産レジデンシャル(株)の最新分譲住宅で見てみよう。

「パークホームズ品川ザ レジデンス」完成予想図。HEMS搭載は、分譲マンションでは当たり前になってきたが、そのHEMSを使ってスマートハウスの機能を最大限に引き出すためのサービスを提供する
「パークホームズ品川ザ レジデンス」完成予想図。HEMS搭載は、分譲マンションでは当たり前になってきたが、そのHEMSを使ってスマートハウスの機能を最大限に引き出すためのサービスを提供する
「パークホームズ品川ザ レジデンス」に搭載されるHEMS画面。居住者の電力使用量からライフスタイルを推定。ライフスタイルに合わせたさまざまなサービスを配信する。写真では、キッチンの電力使用が多いことから、家庭内での調理が多いと判断。クッキングアイディアや食材の優待サービスが届いている
「パークホームズ品川ザ レジデンス」に搭載されるHEMS画面。居住者の電力使用量からライフスタイルを推定。ライフスタイルに合わせたさまざまなサービスを配信する。写真では、キッチンの電力使用が多いことから、家庭内での調理が多いと判断。クッキングアイディアや食材の優待サービスが届いている
電力需要が多い時間帯のピークシフトを促すため、HEMSを通じて協力を呼び掛ける。ただ呼び掛けるだけでは効果が薄いため、自社の商業施設の優待サービス券などをプレゼントすることで外出を促し、クールシェアにより自然にピークシフトに協力できるよう仕向けるほか、電気料金の割引ポイントもプレゼント。電力が個別契約ではなく、一括受電だから成せるサービスだ
電力需要が多い時間帯のピークシフトを促すため、HEMSを通じて協力を呼び掛ける。ただ呼び掛けるだけでは効果が薄いため、自社の商業施設の優待サービス券などをプレゼントすることで外出を促し、クールシェアにより自然にピークシフトに協力できるよう仕向けるほか、電気料金の割引ポイントもプレゼント。電力が個別契約ではなく、一括受電だから成せるサービスだ
「ファインコート大塚」のまち並み。家庭用燃料電池エネファーム、家庭用蓄電池、HEMSを全戸に標準装備した、全国初の建売分譲スマートハウスプロジェクト
「ファインコート大塚」のまち並み。家庭用燃料電池エネファーム、家庭用蓄電池、HEMSを全戸に標準装備した、全国初の建売分譲スマートハウスプロジェクト
スマート建売住宅のキモとなる、エネファームと蓄電池。手前がエネファーム、奥が蓄電池。エネファームで、給湯用の湯を作るのと同時に発電を行ない、一般家庭の電気代の約6割を賄う。蓄電池には、割安な深夜電力で電気を溜め、昼間に使う。これにより、電気使用量の多い昼間時にはほとんど電力を使わずに済むだけでなく、エネルギーコストを3割以上削減できる
スマート建売住宅のキモとなる、エネファームと蓄電池。手前がエネファーム、奥が蓄電池。エネファームで、給湯用の湯を作るのと同時に発電を行ない、一般家庭の電気代の約6割を賄う。蓄電池には、割安な深夜電力で電気を溜め、昼間に使う。これにより、電気使用量の多い昼間時にはほとんど電力を使わずに済むだけでなく、エネルギーコストを3割以上削減できる
同住宅における、発電と電力使用との相関図。電気料金の安い深夜の電力を蓄電し、エネファームで発電した電力と合わせて、電力需要に合わせ使っている様子がわかる。エネファームと蓄電池だけで電力需要を100%満たしているため、太陽光発電した電力は100%売電に回せる
同住宅における、発電と電力使用との相関図。電気料金の安い深夜の電力を蓄電し、エネファームで発電した電力と合わせて、電力需要に合わせ使っている様子がわかる。エネファームと蓄電池だけで電力需要を100%満たしているため、太陽光発電した電力は100%売電に回せる
太陽光発電はオプションとなる。その理由は、都市型戸建てのため屋根面積が限られることと、エネファームと蓄電池でピークシフトが完結できてしまうため。その代わり、設置した場合は、発電した電気を100%売電に回すことができる。設置を容易にするため、建築時から先行配管を済ませてある
太陽光発電はオプションとなる。その理由は、都市型戸建てのため屋根面積が限られることと、エネファームと蓄電池でピークシフトが完結できてしまうため。その代わり、設置した場合は、発電した電気を100%売電に回すことができる。設置を容易にするため、建築時から先行配管を済ませてある
スマートハウス最大の飛び道具ともいえるのが、このEVパワーステーション。EV(電気自動車)の蓄電池から電気を取り出し、家庭内で使用する。EVのバッテリー容量は膨大で、例えば日産リーフの場合、蓄電池容量は24kWにも及ぶ。これを利用すれば、深夜電力だけで全ての電気代を賄うことも容易。ただし、HEMSによるモニターとコントロールはできない。こちらも、設置のための先行配管を済ませてある
スマートハウス最大の飛び道具ともいえるのが、このEVパワーステーション。EV(電気自動車)の蓄電池から電気を取り出し、家庭内で使用する。EVのバッテリー容量は膨大で、例えば日産リーフの場合、蓄電池容量は24kWにも及ぶ。これを利用すれば、深夜電力だけで全ての電気代を賄うことも容易。ただし、HEMSによるモニターとコントロールはできない。こちらも、設置のための先行配管を済ませてある

ハードル高い分譲住宅のスマートハウス

 本題に入る前に、改めて、スマートハウスの定義を確認したい。これにはさまざまな解釈があるのだが、一般的には太陽光発電や家庭用燃料電池、エコキュート、エコジョーズ、さらには蓄電池と、さまざまな省エネ・創エネ機器を導入し、それらをHEMS(Home Energy Management System)でコントロールすることで、エネルギー消費を最適化、省エネ、省CO2、光熱費の削減を実現できる家といったところか。ただ最近は、「HEMSが付いていればスマートハウス」と、その定義がさらにあいまいになりつつある。

 さて、フルスペックのハードが盛り込まれる請負戸建商品と対照的に、分譲住宅ではコスト等の制約や、不特定多数に訴求するという性格もあり、先進的なスマートハウスは、数えるほどしかないのが現状だ。

 そうした中で、先鋭的なスマートハウスを送り出し、ディベロッパーの矜持を見せているのが、三井不動産レジデンシャルだ。そのスマートハウスとは、分譲マンション「パークホームズ品川ザ レジデンス」(東京都港区、総戸数209戸)と、建売住宅「ファインコート大塚」(東京都豊島区、総戸数21戸)。前者はソフト、後者はハードにおいて、現在の分譲住宅スマートハウスのトップランナーと言って差し支えない。順に紹介していこう。

省エネすれば優待券!。居住者の関心を惹くHEMS

 「パークホームズ品川ザ レジデンス」は、JR線「品川」駅徒歩11分の倉庫跡地に建設される、地上16階建ての分譲マンション。敷地の3方が運河に面した立地特性や、帆船をモチーフにしたデザインなどのウリもあるが、今回はスマートマンションの特性だけ説明したい。

 同物件は、経済産業省の「スマートマンション導入加速化推進事業」の採択プロジェクトとして、全戸にHEMSを導入し、家庭内エネルギーの見える化やエアコンの遠隔操作、電力需要ピーク情報を受けたエアコンの温度自動制御などを図るほか、マンション共用部にMEMS(Mansion Energy Management System)を導入。共用部の電気使用をコントロールする。これだけなら、他のスマートマンションでも、ほぼ当たり前の取り組みである。同物件のキモは、HEMSを通じて、ユーザーの省エネ行動をさらに後押しするサービスにある。

 これまでHEMSは、エネルギー消費の見える化と電力供給のピークを知らせるのが主たる機能だった。それらのデータを示すことで、ユーザーの省エネ行動の動機付けを期待したわけだが、同社はそれでは弱いと考えた。なぜなら、『居住者がHEMSモニターを見なければ、いくらデータを伝えても意味がない』からだ。

 そこで同社は、HEMSを通じて居住者のライフスタイルを分析。居住者の生活シーンに合わせ、自社グループの住宅居住者向けメンバーシップサービスの中から優待サービスを提供することで、HEMSへの関心を惹くという仕組みを作り上げた。

 たとえば、キッチンの使用電力が少ない住戸は、「外食が多いのでは?」と仮定し、レストランの優待券をHEMS経由でプレゼントする。逆に、使用電力が多い住戸は「自宅で調理するライフスタイル」と仮定し、食材やキッチン用品の優待を紹介するといった具合だ。エアコンをシーズンで初めて使用すればフィルター洗浄サービスを、初めて暖房を入れれば鍋の食材や冬物衣料の優待を行なう等、季節に応じた動機付けも行なう。また、電力需要のピークカットを促すため、ピークカットに貢献した場合に商業施設の優待や電気料金の割引ポイントをプレゼントする等もしていく。

 電力消費量だけで居住者のライフスタイルをどこまで想定できるかは疑問があるものの、HEMSを最大限活用するには、ハードの進化だけでなく、居住者の進化も重要であり、動機付けの手法として、今後も注目してみたい。

エネファーム+蓄電池でピークシフト最大活用

 一方、「ファインコート大塚」は、JR山手線「大塚」駅徒歩11分の東京ガス社宅跡地で進められてきたプロジェクト。スマートハウスの3要素である「創エネ」「蓄エネ」「エネルギーマネジメント」を満たすため、家庭用燃料電池エネファーム、家庭用蓄電池、HEMSを全戸に標準装備した、全国初の建売分譲スマートハウスプロジェクトだ。

 ハウスメーカーが建てる請負型の戸建住宅では、上記の要件を満たすものは少なくないが、建売住宅それも都市型戸建てでこれらを実現するには、かなりの制約がある。まず、これら設備の導入には、多額のコストが掛かる。国や自治体からの補助金もあるのだが、それらを考慮しても、光熱費の削減分で初期投資を回収するのは難しい。また、土地価格が高く総額の張る都市型戸建てでは、建物価格はなるべく低く抑えたいのが本音だ。

 イニシャルコストとのバランスを取りながら、環境負荷やエネルギーコストの最適化を図るための設備機器の選択も難しい。郊外の大型建売住宅であれば、導入コストのこなれてきた太陽光発電を使い、電気代を稼ぐことができる。しかし、都市型戸建ての屋根面積では、充分な売電量が得られない。そこで、「狭小の都市型戸建てで、スマートハウスの要件をどうすれば満たすことができるか、約1年かけ建物仕様を検討してきた」(同社地域開発事業部開発室主管の村山 靖氏)と言う。

 そこで、同社が編み出した解は、「電力ピークシフト」を最大限に活用し、高コストの設備機器の「モトを取る」パフォーマンスを得るという手法。家庭用燃料電池エネファームは、給湯用の湯を作るのと同時に発電を行ない、一般家庭の電気代の約6割を賄うことができる。蓄電池には深夜電力を使い電気を溜める。エネファームを必要に応じて稼働させながら、蓄電池から電気を使うことで、昼間時にほとんど系統電力を購入しないで済む。

 また、屋根面積に限界があるものの、同住宅には太陽光発電も載せられる(1.48~3.70kW)。エネファームと蓄電池で家庭内使用電力はほぼ100%賄える(深夜帯を除く)ため、太陽光発電による電力は、ほとんど売電できる。すぐに導入できるよう、先行配管も済ませてある。
 これらの設備機器の組み合わせで、同じ建物面積(100平方メートル)の住宅の年間ランニングコストが約27万円(ガス代10万円、電気代17万円)であるのに対し、同住宅では約18万円(ガス代12万円、電気代6万円)にダウン。太陽光発電を導入すれば、さらに年間約10万円の売電が見込める。HEMSでエネルギー消費量をモニターし、電気使用量に気を配れば、さらなる省エネも期待できる。

 “飛び道具”もある。EV(電気自動車)パワーステーション。EVのバッテリーから電気を取り出し、家庭で使うための装置だ。日産リーフの場合、バッテリー容量は24kWと、同住宅の定置型蓄電池の3.5倍もある。このEVのバッテリーを深夜電力で充電し、昼間利用すればエネファームの稼働時間や定置型蓄電池からの給電が抑えられ、さらに光熱費は下がる。こちらについても、導入のための先行配管が済んでいる。

 同住宅、最多販売価格帯は6,800万円台と決して安くはないが、太陽光発電やEVパワーステーションのオプションをフルに導入した場合、200万円近い補助金が出るほか、団地内に自然の環境を取り込み快適性を高めるパッシブデザインなど、光熱費を限りなく使わない生活を実現できるパフォーマンスを考えれば、まずまず魅力的かもしれない。

 以上、ハードとソフトに分け、最新スマートハウス事情を見てみた。どちらも、次なるステージに向け、進化(深化)の伸びしろは大きそうだ。(J)

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