記者の目 / 開発・分譲

2012/7/27

究極の「防災マンション」

三井不レジ、活況の「武蔵小杉」駅前で発売

 東日本大震災以降、分譲マンションの大きなトレンドの一つとなったのが「防災対策」。安全・安心のマンションに住みたいというユーザーニーズに応えるため、ディベロッパー各社にとっても避けることはできなくなっている。そうしたなか、現時点で考えられる、究極の「防災マンション」が誕生する。三井不動産レジデンシャル(株)の「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」(川崎市中原区、総戸数506戸)がそれ。防災対策に加え、DINKSやシニアに特化した間取り、そして再開発で活況の武蔵小杉のポテンシャルも相まって、一気に300戸を完売する驚きのスタートをみせた。

「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」完成予想図。東急線「武蔵小杉」駅に商業施設を介し直結する利便性がウリ
「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」完成予想図。東急線「武蔵小杉」駅に商業施設を介し直結する利便性がウリ
三井不動産レジデンシャルは、武蔵小杉駅前で高層タワーマンション3棟を建設。まちの姿を一変させた。「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」(08年供給、総戸数643戸)、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」(09年供給、総戸数794戸)に続く最後のタワーマンションが「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」(一番右)
三井不動産レジデンシャルは、武蔵小杉駅前で高層タワーマンション3棟を建設。まちの姿を一変させた。「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」(08年供給、総戸数643戸)、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」(09年供給、総戸数794戸)に続く最後のタワーマンションが「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」(一番右)
最大のウリは、構造、設備、共助と複層的に対策を施した防災対策。すべてのライフラインが寸断しても、1週間はマンション内で生活が送れる
最大のウリは、構造、設備、共助と複層的に対策を施した防災対策。すべてのライフラインが寸断しても、1週間はマンション内で生活が送れる
下水管が壊れると、たとえ水道が復旧してもトイレが使えない。そこで、戸のマンションでは、汚物を特殊なラップで密封処理できるトイレと、マンホールに直接排泄できるトイレも備蓄する
下水管が壊れると、たとえ水道が復旧してもトイレが使えない。そこで、戸のマンションでは、汚物を特殊なラップで密封処理できるトイレと、マンホールに直接排泄できるトイレも備蓄する
住戸は、DINKSやエンプティネストのシニア層をメインターゲットに企画。写真の「フタリズム」は、とくに小世帯向けを意識したプラン
住戸は、DINKSやエンプティネストのシニア層をメインターゲットに企画。写真の「フタリズム」は、とくに小世帯向けを意識したプラン
「フタリズム」の間取り、中央の「マルチルーム」は、3方向が可動式間仕切りで囲まれており、この間仕切りを動かすことで各部屋と自由に分離・独立ができる。これにより、寝室を広げる、リビングを広げる、1部屋増やす、すべて開け放ち友人を招くなどさまざまなシーンに対応する
「フタリズム」の間取り、中央の「マルチルーム」は、3方向が可動式間仕切りで囲まれており、この間仕切りを動かすことで各部屋と自由に分離・独立ができる。これにより、寝室を広げる、リビングを広げる、1部屋増やす、すべて開け放ち友人を招くなどさまざまなシーンに対応する
「フタリズム」の「マルチルーム」。
「フタリズム」の「マルチルーム」。

武蔵小杉駅前再開発の最終章に

 同物件は、「武蔵小杉駅南口地区東街区第一種再開発事業」の一環として開発されるもの。建物は、地上38階建て・制震構造で、同時に地上4階建ての商業施設を建設。同施設を通じ、JR・東急電鉄の「武蔵小杉」駅と直結する。竣工は、2013年11月。
 三井不動産レジデンシャルは、同じ武蔵小杉駅前で「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」(08年供給、総戸数643戸)、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」(09年供給、総戸数794戸)を開発しており、今回の「ザ グランドウイングタワー」が締めくくりとなる。

 武蔵小杉駅周辺は、2000年代中盤から再開発が一気に加速。前記マンションを含め数々のマンションが供給され、駅周辺の商業施設開発、JR横須賀線の新駅開設など、首都圏でも有数の活気を帯びたまちとして注目されている。その武蔵小杉の「駅直結マンション」ともなれば、多少“凡庸”な企画でも売れるだろう、と思われる向きもあるかもしれないが、そうはならないのが、昨今のマンション市場である。

 東日本大震災は、ライフラインの途絶に加え、大きな揺れや、「エレベーターが動かない」というタワーマンション特有の「災害」を露わにした。震災後のパニック状態こそ無くなったが、ユーザー心理に潜在的な恐怖心を植え付けたことは間違いない。
 また、同物件の中心価格帯である5,000万~6,000万円台のマンションを求めるユーザー層が、長引く景気低迷のあおりを受け、購入に慎重であることも確か。つまり、思い切った差別化策は必須ということだ。そこで、同社が着目したのが、「防災」による差別化である。

ライフライン途絶でも1週間生きられる

 同物件の防災プログラムは、「建物構造」「防災設備」「協同共助」の3つで構成されている。
 建物は、タワーマンションでは珍しいベタ基礎(地盤が良好な証拠)で、制震ダンパーにより揺れを抑えるほか、玄関の耐震枠、キッチン収納等の耐震ラッチなどを施す。また、共用部の一部を災害時の「対策本部」として活用できるよう、防災備品や情報通信設備を整えたほか、管理会社が核となり避難訓練や防災セミナーなどを通じ居住者同士のコミュニティを活性化。災害時の協同共助体制を確立していく考えだ。

 これらについては、他社も多かれ少なかれ取り組んでいる。だが、「防災設備」の充実については、さすがにここまでやっているディベロッパーはいないだろうと思わせるほど、レベルが突き抜けている。

 まず、「水」。同物件では、受水槽や雑用水槽、エコキュートなどに1世帯当たり常時“1,000リットル”の水を確保するという。飲料水と生活用水は、約1週間分。トイレ用水は約10日分という備蓄量だ。
 次に「トイレ」。トイレは、汚物を流すための水が確保されているだけでは不十分だ。なぜなら、下水管が損傷している状態では、水が流せない。大震災時、タワーマンションユーザーを困らせたのも、この問題だった。そこで、このマンションは、汚染水を3日間溜められる汚水槽を用意するほか、汚物を完全密封して破棄する簡易トイレを3フロアに一個用意。約3日間利用できる。マンホールに直接設置する非常用トイレも備蓄している。
 最後は「電気」と「エレベーター」。共用部の照明、エレベーター3基、排水ポンプ、雨水給水ポンプ、各住戸の非常用照明(リビングに1灯)に72時間電力を供給する非常用発電機と燃料タンクを設置。さらに太陽光発電と蓄電池により共用部の電力を補うほか、カーシェアリング用の電気自動車や、カセットボンベ式発電機からも電力を供給する。タワーマンションにとって、エレベーターが止まるということは「遭難」に等しい。このリスクから3日間守られるというのは、大きなウリとなろう。

 災害備蓄倉庫にも、工夫が施してある。通常のマンションでは、防災備蓄は、一ヵ所にまとめて行なわれるが、このマンションは「各階」に備蓄倉庫を設置しているのだ。これにより、万が一エレベータが破損して高層フロアに閉じ込められたとしても、下層階にある備蓄倉庫とを往復する恐怖から解放されることになる。
 ここまでくると、もはや「サバイバルマンション」と呼んだほうがいいかもしれない。

都心並み高単価でも300戸を即日完売

 住戸はどうか?

 駅前マンションという利便性を前面に、アクティブシニアや小家族をメインターゲットとして想定。1LDK~4LDK、専有面積は39~112平方メートルまで用意するが、グロス価格を抑える意味もあるのか、主力となるのは60平方メートル台の2LDKだ。

 同物件でも、いまや必須のさまざまなメニュープランを用意しているが、記者が注目したのは、「フタリズム」と名付けられたプラン。これは、専有面積61平方メートルの2LDKをアクティブシニア向けにアレンジしたもの。住戸中央に設けた「マルチルーム」は扉と可変間仕切りでできており、その3つを自在に動かすことで、自由自在に空間を変化させることができる。間仕切りを開放して大きなLDKを楽しんだり、大型のベッドルームを作ったり、3つの居室として独立させたりと、自由自在。個人的にはアクティブシニアというよりはDINKSの多様なライフスタイルに応えるプランに感じた。

 究極の防災対策に隠れて目立たないが、住戸プランも、室内のしつらえも評価できる。

 さて、販売状況である。

 1期の販売価格は、3,300万円台~1億200万円台、最多価格帯5,500万円台、坪単価は約291万円。3月のプレセールス開始から、6月3日の1期登録締め切りまでの総来場組数は2600組を超え、300戸を完売した。ロケーションと作り込みの勝利といえばそれまでだが、坪単価が300万円に迫るマンションがこれだけの勢いで売れるというのは、やはり「防災」はユーザーの重要関心事であるという証左といえよう。

 販売状況はもちろんだが、記者は「武蔵小杉」エリアが、都心3区のタワーマンションと同等のマンション価格になったこと自体にも、いささか驚いている。長く東急沿線に住む記者にとって、武蔵小杉といえば駅前に大きなグラウンドがあり(この跡地に、三井不動産レジデンシャルの「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」が建っている)、その向こうに多摩川を望む工場地帯という殺伐なイメージだ。

 無論、記者の幼少期と比較するのは乱暴だが、再開発初期に販売された前記2つのマンションの坪単価が約230万円だったことを思うと、このまちの成長ぶりがうかがえる。しかも、リーマンショックを乗り越えての評価である。「まちを作る」とはこういうことかと、ディベロッパーの仕事のすごさを改めて認識した。(J)

***

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