記者の目 / 開発・分譲

2014/4/18

「ブランド立地」をどう料理するか?(9)

三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス上鷺宮」の場合

 本連載は、実に4年ぶりとなる。それだけ、マンションの好立地獲得競争は、ここ数年激化しており、「これはすごい」という土地は少なくなりつつある。そうした中、ようやく耳目に値する好立地が登場した。マンション立地としてはおよそ最高レベルとなる「第一種低層住居専用地域」、しかもその広さ、実に1.8haである。その垂涎立地の魅力を余すところなく活かしてできるマンション、三菱地所レジデンス(株)の「ザ・パークハウス上鷺宮」(東京都中野区、総戸数261戸)を紹介したい。

「ザ・パークハウス上鷺宮」完成予想図。第一種低層住居専用地域では異例ともいえる、敷地面積1.8ha、総戸数261戸という大規模マンションだ
「ザ・パークハウス上鷺宮」完成予想図。第一種低層住居専用地域では異例ともいえる、敷地面積1.8ha、総戸数261戸という大規模マンションだ
周囲は低層の戸建て住宅街のため、圧迫感あるデザインでは溶け込めない。無粋な外廊下もできるだけ見せないように、タイルと木彫のルーバーで覆い隠している。また、建物周囲には、2
周囲は低層の戸建て住宅街のため、圧迫感あるデザインでは溶け込めない。無粋な外廊下もできるだけ見せないように、タイルと木彫のルーバーで覆い隠している。また、建物周囲には、2
500本もの植栽を施している
500本もの植栽を施している
隣接する戸建て住宅街との間に「パブリックガーデン」を設け、緩衝帯とするほか、周辺住民とのコミュニティ空間としても機能させる
隣接する戸建て住宅街との間に「パブリックガーデン」を設け、緩衝帯とするほか、周辺住民とのコミュニティ空間としても機能させる
居住者には、パブリックガーデンとは別に専用のプライベートガーデンを設定。こうしたふんだんな緑化により、空地率は55%に達している。
居住者には、パブリックガーデンとは別に専用のプライベートガーデンを設定。こうしたふんだんな緑化により、空地率は55%に達している。
物件の立体模型。隣棟との距離が充分取られており、地下階(地上1階)にも十分日が注ぎ込む設計。むしろ、地下階のほうが広い専用ポーチを使える特権がある
物件の立体模型。隣棟との距離が充分取られており、地下階(地上1階)にも十分日が注ぎ込む設計。むしろ、地下階のほうが広い専用ポーチを使える特権がある
ハナレ付住戸を想定したモデルルーム。バルコニー部分にあたるポーチと専用庭にあたる専用ポーチの上は大きく開放しており、採光・通風は十分得られる
ハナレ付住戸を想定したモデルルーム。バルコニー部分にあたるポーチと専用庭にあたる専用ポーチの上は大きく開放しており、採光・通風は十分得られる
専用ポーチを挟んで「ハナレ」がある。ハナレは完全に地下部分となっている
専用ポーチを挟んで「ハナレ」がある。ハナレは完全に地下部分となっている

過去16年間で「6%以下」の希少性

 まず、第一種低層住居専用地域が、マンション立地としてどれだけ特殊で貴重かを簡単に説明したい。

 同地域は、用途地域上、最も開発規制が厳しい。建ぺい率は40~60%、容積率も80~150%に抑えられ、原則10mの高さ規制もあるため、基本的には「戸建て住宅街」がメインだ。なにしろ、普通に建設したのでは地上3階建てが限界なのだから、収益性が重要視されるマンション開発にはおよそ不向きである。だが、それ故に採光・通風・騒音面、交通量や治安面など良好な住環境が得られる。

 同地域に建設されるマンションは、非常に数が少ない。民間調査機関によると、1997年~2013年6月に東京23区内で分譲されたマンションは8,192物件。そのうち、同地域内に立地するものは491物件。わずか5.9%だ。しかも、戸建て中心の住宅街となるため、まとまった広さの土地が出てくることはめったにない。当然、開発できるマンションの規模も、それほど大きくはできないということになる。実際、地上3階建て、総戸数数十戸という規模が多い。
 
 そんなわけだから、23区内で同地域に属する場所で、広さ1.8haもの用地(しかもきれいな正形!)が売りに出たとしたら、ディベロッパーにとってはもう垂涎の的である。過去の供給事例は当然1%以下。それが売りに出たのである。

 入札の末、見事入手したのが三菱地所レジデンス。「事業費における土地代と建築費の比率がほぼ同じ」とは関係者の弁。マンションの土地代比率は、都心部になればなるほど高くなるが、それでも3~4割が限界。5割はさすがに異例だ。それだけ“頑張って”も、入手したかった土地ということだ。

マンションそのものを「まち並み」に

 同物件が建設されるのは、西武池袋線「富士見台」駅徒歩4分に広がる、広さ約1.8haの成形地だ。もともとは企業社宅跡地で、同社は13年5月に取得した。第一種低層住居専用地域は、環境は抜群だが繁華街でもある駅からのアクセスに難がある場所が多い。ここは駅まで徒歩4分とアクセスも良い。富士見台は普通電車しか止まらないが、東京メトロ副都心線と東急東横線との乗り入れにより、都心アクセス性が一気に高まったことが追い風となろう。

 元社宅ということもあり、敷地はきれいな長方形。この広大なカンバスに、同社はどういう画(ランドプラン)を描いたのか?

 これだけの広さの敷地である。周囲から隔絶した城郭のようなマンションにすれば、周辺住民の猛反発を受けるだろうし、何より景観がまち並みから浮いてしまい、入居者の不興も買うことになる。周囲のまち並みに溶け込み、適度に開放感がなければならない。そこで、同社がテーマに掲げたのが「低層レジデンス街」。

 建物そのものがまち並みを形成するように、街路に面した外廊下部分はタイルと木彫のルーバーで覆い込み、まち並みとの調和を図った。住戸バルコニーも、ガラスやアルミの手すりではなく、黒色のロートアルミを採用。周囲の景観から浮き上がらないよう配慮している。
 空地率は55%確保し、建物周囲を中心に2,400本もの植栽も施した。また、入居者専用のプライベートガーデンとは別に、オープンスペースとしてのパブリックガーデンも設け、周辺住宅街との緩衝帯、コミュニティ空間としている。

地下空間を活かした「離れ」の提案

 建物は3棟構成。高さ制限をかわしながらできる限りの容積を消化するため、地上3階地下1階建て。地下1階部分も、バルコニーに当たるテラス部分と、専用庭にあたる専用テラスが大きく開放しており、日照の不安はない。東西に長い敷地のため、南面住戸比率も約9割。低層マンションながら、天井高も2,480mm確保している。

 住戸は、2LDK~4LDK、専有面積62~108平方メートル。板状型マンションはプランの工夫がしづらいが、同物件は玄関脇を吹き抜けとすることで採光・通風とプライバシーの向上を図ったり、吹き抜けを設けない棟では、その奥行きを活かしてアルコーブ内にサイクルポートを設けている。
 プランで特筆すべきは、1階住戸の7戸に設定された「ハナレ」。専用テラスを挟んで向かいに離れを設けたもの。サッシュ側の土間(約2.5畳)とサービスルーム(5.8畳~10.7畳)で構成されており、趣味室等に活用できる。完全な地下部分のため、書斎等にはもってこいだろう。
 また、パーティルーム、キッズルーム、ゲストルーム、ライブラリー、コンシェルジュ、カーシェア、24時間ゴミ出し、カフェサービスなど、低層マンションでは異例なほど共用施設とサービスが充実しているのは、大規模ならではの特権だ。

 さて、価格はどうか。専有面積70平方メートル台の3LDKで6,000万円台、坪単価約280万円と、準近郊マンションとしてはかなりのお値段。とはいえ、抜群の住環境、駅へのアクセス、建物のグレード感等を考えると、昨今のマンション上げ相場下では妥当な金額ともいえる。

 ユーザーもちゃんとわかっており、昨秋からのプレセールスで3,000件以上の反響が集まっている。中でも、従前の社員寮時代住んでいたユーザーからの反響が多いそうで、この立地が住宅地としていかに優れているかを示す証左でもあろう。

◆   ◆   ◆

 都心部におけるマンション用地発掘は、今後ますます困難になってくる。ディベロッパーにとっても、用地の取得という第一ハードルを乗り越えたうえで、ユーザーが納得する価格設定、値段に見合った商品企画というさらに高いハードルを越える必要がある。それを乗り越えたマンションが、いずれは「ヴィンテージマンション」の称号を得る資格を持つことになるのだろう。(J)

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