三井不動産他「パークコート神宮前」の場合
東京・神宮前。日本有数のトレンド発信地である原宿・表参道を間近にしながら、明治神宮や代々木公園など、豊かな緑に囲まれたこのまちにマンションができるとしたら、「とんでもない価格」になろうことは誰しもが想像できる。ところが、この神宮前に一般的な会社員でも十分手が届くマンションが誕生するのだ。 三井不動産(株)と東電不動産(株)による「パークコート神宮前」(東京都渋谷区、総戸数385戸)がそれ。坪単価が何と318万円。果たして、この驚きの価格はどのように実現したのだろうか?







PFI事業で誕生する定借マンション
計画地は、東京メトロ千代田線「明治神宮前」駅徒歩6分に位置する、総面積約1万9,000平方メートルの土地。東郷神社の豊かな緑に接し、東側を商業ビルが林立する明治通りと接するこの土地は、池田侯爵邸の跡地で、その後東京都が保有しさまざまな用途で使われてきた。
そんな絶好のロケーション、都も売却などするわけがない。
実は、このマンションは、民間企業主体で進めるPFI事業「神宮前一丁目民活再生プロジェクト」の再開発の一環として誕生する。
05年9月、東京都の一般競争入札で、東電不動産・三井不動産ら5社のコンソーシアムが同プロジェクトの事業者に決定。(株)原宿の杜守(SPC)を設立し、事業全体を推進している。同SPCは、都との間で、期間52年(建設期間2年間を含む)の定期借地契約を締結。同マンションのほか、地上10階建ての商業・オフィスビル、警察施設を一体的に整備。同マンションの販売と商業・オフィスビルの運営を行なっていく。マンションとオフィスビルは、52年の借地期間満了後に取り壊され、更地返還される。
つまりは、このPFI事業の「副産物」(どちらを副産物とするかは意見が分かれるところだが)として開発されること、そして定期借地権マンションであること、この2点が「垂涎の立地」に「一般サラリーマンでも手が届く」マンションができる理由である。
建築家・隈 研吾氏を起用 空や緑との調和をめざす
開発にあたっては、周辺の緑との調和を考え、屋上・壁面緑化も含めプロジェクト全体で約7,000平方メートルの緑を確保。敷地を東西に縦断する140mにわたる遊歩道も整備する。
明治通り沿いには警察施設と商業ビルを配置し、「パークコート神宮前」は道路から一歩奥まったエリアに配置される。
同マンションは、地上16階建てのタワー棟と地上9階建ての低層棟の2棟で構成される。建物デザイン監修は、日本を代表する建築家・隈 研吾氏。ガラスや木立をイメージしたアルミルーバー等を多用し、ガラスやアルミ部分に空の青さや周囲の緑を映しこむことで、周辺環境と調和するデザインをめざしている。
住戸は、あらゆるニーズに対応できるよう、専有面積37~169平方メートルまで用意。タワー棟は、高さ2,300mmのコーナーサッシュによるガラスウォールが外観上の特徴であり、同時に室内の開放感を演出している。
また、通常150mm程度でも幅広と呼ばれるフローリングは、その倍の300mmの特注品を採用しており、細かく途切れない木目が美しい。サッシュは省エネ性の高いLow-Eガラス、建具類はピアノ塗装を施したものや、突き板調の重厚感あるものを使っており、水回りも同社のマンションとしてはかなりグレードが高い。(ハイエンドユーザー向けブランドのパークコートだから当たり前だが)「(50年しかもたない)定借だから」といった考えはまるで見られない。
お勧めは、モデルルームとしても用意される、隈氏がデザインを手がけた「隈モデル」とでもいうべき住戸。外観デザインに通じるシンプルなディテールが特徴で、色遣いもおとなしく端正だ。
キッチンはオールステンレス。居室や廊下の随所に、間接照明によるやわらかな光の演出を施している。また、リビングや各居室を樹木のチップを押し固めたMDFと呼ばれる新素材を使ったスライディングウォール(普通の木より温かみのある雰囲気)で仕切り、開放感とプライバシーを両立した提案をしている。
同マンションは1年前に着工しており、「セレクトプラン」(オプション)では選べない。用意されるのは、専有面積105平方メートルの2LDKで40戸。まさに、早い者勝ちだ。
サラリーマンでも手が届く!平均坪単価は318万円
さて、価格である。
まず、この立地で所有権分譲だった場合。平成以降供給された比較物件がないので比べようがないが、周辺エリアの相場や立地のポテンシャルを考えれば、平均坪単価は500万円台中盤から後半にはなるだろう。それが、このマンションは、驚くことなかれ「318万円」である。専有面積37平方メートルの住戸は、なんと2,600万円台から用意されている。
最多価格帯は、4,000万円・5,000万円台。70平方メートル台のファミリータイプなら7,000万円台となりそうだ。この価格設定があったから、同社マンションのフラッグシップブランドである「パークマンション」ではなく「パークコート」と名付けられたのであろう。
もちろん、定期借地権マンションだから、賞味期限は50年である。さらに地代が1平方メートルあたり月額4,000円ほどかかる。これをざっくり坪単価に乗せれば100万円。それでも、所有権より坪あたり100万円以上安く、50年間の住まいを手に入れることができるのだ。馬鹿高い土地固定資産税も支払わないでいい。
あくまでも「所有」にこだわるのであれば選択外だが、人生そんなに長くはない。記者がいま購入したら、更地返還するのは90歳である。そんな先の心配などせず、50年間のアーバンライフを満喫したい。
反響も上々だ。10月上旬から行なわれている会員優先の案内・販売では、11月下旬までに1,500組を集め、135戸の販売を終えている。投資用としても魅力的だが、住んでみたい、と正直に思えるマンションだった。(J)
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