記者の目 / 開発・分譲

2009/12/18

「ブランド立地」をどう料理するか?(6)

ナイス「ロイヤルタワー鶴見」の場合

 古今東西、マンション建設地として「外れ」がないのが「駅前」である。雨に濡れずに家にたどり着け、生活利便施設も豊富な駅前は、どのディベロッパーも欲しがる「ブランド立地」だ。今回紹介するナイス(株)の「ロイヤルタワー鶴見」(横浜市鶴見区、総戸数301戸)も、「駅前」「タワー」「再開発」という人気要素が揃ったマンション。だが、それ以上に、同社にとって思い入れの深い建設地であり、相当気合いが入った商品だと聞いた。

「ロイヤルタワー鶴見」完成予想図。駅前ロータリーと一体となった街区として、マンション、商業施設・公共施設、ホテルなどが整備される
「ロイヤルタワー鶴見」完成予想図。駅前ロータリーと一体となった街区として、マンション、商業施設・公共施設、ホテルなどが整備される
再開発エリアの空撮CG。JRと京急の線路に挟まれ、電車騒音と振動が心配されるため、敷地外周に防振壁を張り巡らせている
再開発エリアの空撮CG。JRと京急の線路に挟まれ、電車騒音と振動が心配されるため、敷地外周に防振壁を張り巡らせている
鶴見駅東口ロータリーから見た、建設中の「ロイヤルタワー鶴見」。足元には、鶴見区民ホールや商業施設が入る
鶴見駅東口ロータリーから見た、建設中の「ロイヤルタワー鶴見」。足元には、鶴見区民ホールや商業施設が入る
標準仕様モデルルームのリビングダイニング。UR再開発のため、設備機器やグレードはナイスの仕様と異なるものの、それなりのグレード感はある
標準仕様モデルルームのリビングダイニング。UR再開発のため、設備機器やグレードはナイスの仕様と異なるものの、それなりのグレード感はある
建物四方を線路や道路に囲まれるため、騒音をシャットアウトする二重サッシュを採用。単層と複層の組み合わせで、複層(内側)部は樹脂サッシュのため、省エネ効果も期待できる
建物四方を線路や道路に囲まれるため、騒音をシャットアウトする二重サッシュを採用。単層と複層の組み合わせで、複層(内側)部は樹脂サッシュのため、省エネ効果も期待できる
29階以上に設定される「プレミアム・ラグジュアリー」住戸。建具や居室扉などのグレードが上がるほか、浄水器や欧米製のキッチン水栓、天然石のキッチントップなどが採用となる。坪単価にして20万円ほどのアップ
29階以上に設定される「プレミアム・ラグジュアリー」住戸。建具や居室扉などのグレードが上がるほか、浄水器や欧米製のキッチン水栓、天然石のキッチントップなどが採用となる。坪単価にして20万円ほどのアップ
建設地と逆側(総持寺側)の鶴見駅西口ロータリーからみた「ロイヤルタワー鶴見」。取材時(11月中旬)時点で、すでに23階まで立ち上がっていた。写真を見て分かる通り、周辺建物を圧倒する高さ
建設地と逆側(総持寺側)の鶴見駅西口ロータリーからみた「ロイヤルタワー鶴見」。取材時(11月中旬)時点で、すでに23階まで立ち上がっていた。写真を見て分かる通り、周辺建物を圧倒する高さ

再開発で生まれ変わる、同社「創業の地」

 同物件は、JR京浜東北線「鶴見」駅徒歩1分に立地する、地上31階建てのタワーマンション。(独)都市再生機構(UR都市機構)が進めている「鶴見駅東口地区第一種市街地再開発」の一環として建設されるもの。同再開発は、駅前に広がるJR(旧国鉄)操車場跡地を中心とした1.2ha余のエリアに、ホテル・商業施設・高層住宅・保育園などが、駅前広場と一体で整備される。ナイスは07年8月、URによる住宅部分の保留床を取得。商品企画を練り上げ、09年のゴールデンウィーク明けから同社得意先関係者へ事前案内・販売。10月下旬から、一般販売を行なっている。

 得意先に事前案内していることから分かるように、この物件は同社にとって特別な意味を持っている。ご存じない方もおられるだろうが、同社はマンション・戸建の開発事業が主業ではなく、全国の工務店に住宅資材を卸す卸売会社であり、その起源は1950年に創業した市売木材(株)。同社が関東初となる木材市場を開業した場所こそ、国鉄鶴見駅構内、つまり今回再開発されるエリアなのだ。

 同社にとってのまさに「ブランド地」に建設される、記念碑的マンションである。果たして、その思い入れにふさわしい内容を持っているだろうか。

31メートルの高さ規制免除 鶴見区一高いマンション

 駅徒歩1分という一等地、かつ商業施設や駅前広場と一体となった再開発というロケーションは、もちろん同物件のウリである。だが、最大のウリは、鶴見区では唯一となる「超高層タワーマンション」であるという点に集約される。

 鶴見区には、「高さ31メートル以上の建築物を許可しない」という、建築規制が存在する。今回の再開発は、この規制が特認で免除され、建ぺい率が70%から90%に、容積率が400%から500%へ拡大された。その結果、高さ100m超、地上31階建てという鶴見区にはこれまで存在しなかった高さのマンションが実現することとなり、9階住戸ですら「視界を遮る建物が存在しない」という、同区のマンションでは味わえない眺望が味わえる。

 しかも、北側は鶴見駅ロータリー、東側は京浜急行「京急鶴見」駅、南側と西側はJR線路と曹洞宗大本山「総持寺」の緑が広がっており、将来的に同等の高層建築物が建つ心配もない。中層階以上ともなれば、総持寺の緑、富士山や丹沢の山並み、みなとみらい地区、ベイブリッジに横浜港とさまざまな借景が楽しめる。この眺望こそが、同マンションの資産性を担保するのだ。

コストがかかった建物 「UR再開発」故の縛りも

 建物は、竹中工務店(株)施工。同社独自の制震構造を採用するほか、再開発エリア全体の基礎外周部を取り囲んだ防振装置、スケルトン・インフィル設計、電車騒音に配慮した複層・樹脂・二重サッシュの導入など、安全・快適の実現にふんだんにコストをかけている。ダブルオートロック(高層階はトリプル)、24時間有人管理、シャッター付き駐車場など、安全面への取り組みも申し分ない。
 また、ソフト面では、「ゴミ回収サービス」が目を引く。週5日間、係員が玄関前のごみを回収してくれるというもので、各住戸へのディスポーザ設置と吹き抜けに開放する外廊下マンション(臭気がこもらない)ゆえに実現したといえる。

 住戸は、1LDK~4LDK、専有面積50~115平方メートル。タワーマンションならではの、ワイドスパン・スクエアな間取りがウリだ。設備仕様も、ディスポーザ、全熱交換式24時間換気、エコジョーズ+TES床暖房など、収納や建具のグレード感を含め、同社の標準仕様を上回るものとなっている。29階以上のプレミアム住戸は、建具・収納面材がピアノ塗装となるほか、カートリッジ式浄水器、グローエ社の混合水栓、人工大理石のキッチントップなどが付加される。

 ただ、不満もないわけではない。メニュープランやオプションが非常に限定されている点だ。
 通常、青田売りのマンションの場合、契約時に申し込んだオプションは、竣工・引渡し時には施工が済んでいる。しかし、このマンションはオプションそのものが少なく、一部のオプションは「引渡し後」から施工される。また、同社のマンションは、各種面材やフローリング、建具のノブまで自由に組み合わせできるオーダーシステムがウリだが、このマンションでは3種類の決まったパターンからしか選べない。

 なぜか。それは、このマンションがUR再開発の一環として建設されるためだ。同社は、「URが竹中工務店に発注したマンションを買い取り、販売する」ため、建物のカラーやデザイン、間取りや設備仕様も基本的にはURが決め、(引渡しまで)容易に変更ができないのだ。

 とはいえ、同社の記念碑的マンションである。それなりのグレードと使い勝手、センスがなければ完売もままならない。UR・竹中工務店には、間取りや設備仕様について「相当」注文をつけたそうだ。

坪単価290万円も出足は好調

 さて、価格である。
 今夏までに、71戸が関係者向けに販売済み。現在、第1期83戸の販売が行なわれている。販売価格は3,880万円~1億6,200万円。最多価格帯は6,000万円台。優先住戸を含めた坪単価は、290万円。同区はもちろん、横浜みなとみらいエリアや都心湾岸エリアのタワーマンションを凌駕する高単価だ。

 駅徒歩1分という好立地、再開発物件、唯一無二の高さを誇るタワーマンションとはいえこの高価格となったのは、事業参画時期とUR再開発事業であるというハンディもある。自社の記念碑的マンションを安売りしたくないという想いもあるだろう。だが、記者の心配をよそに、出足は上々のようだ。

 「1期83戸については、すでに60戸強のお申し込みをいただいています。モデルルーム来場者は1,000組を超え、問合せも2,000件を超えました。高層部の高額住戸は50歳代の地元富裕層が中心となりますが、反響は30代から60代までまんべんなくあります」と、現場を任されている同社住宅事業本部首都圏営業部課長・樋口英俊氏は自信を見せる。通常売りづらい北西側住戸も、総持寺を眼下に収めるという好ロケーションから、南側と遜色ない売れ行きだという。

 おそらく同駅ではもう出ることがないであろう駅前タワーとその眺望という魅力を、 キャッシュリッチな地元ユーザーに対し、丹念に伝えていくことがカギだろう。大事に売っていってほしい。(J)

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【シリーズ記事一覧】
「ブランド立地」をどう料理するか?(1)
「ブランド立地」をどう料理するか?(2)
「ブランド立地」をどう料理するか?(3)
「ブランド立地」をどう料理するか?(4)
「ブランド立地」をどう料理するか?(5)

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