記者の目 / 開発・分譲

2009/1/28

「ブランド立地」をどう料理するか?(5)

総合地所他「なんばGMT」の場合

 大阪・難波、俗に「ミナミ」と呼ばれる、大阪の商業エリアの中心地だ。その難波に「住む」というのは、関西住民にとってはなかなかの贅沢であり、しかも、その住まいが今後のミナミを牽引する再開発エリアにあるとなれば、さらに魅力は増す。総合地所(株)、南海電気鉄道(株)など4社JVで開発される「なんばグランドマスターズタワー(GMT)」(大阪市浪速区、総戸数321戸)は、そうしたプレミアムな立地を最大限に活用した超高層マンションだ。

「なんばグランドマスターズタワー」完成予想図。バルコニーの手すりをほぼ全部ガラスとすることで、シャープな印象を出している
「なんばグランドマスターズタワー」完成予想図。バルコニーの手すりをほぼ全部ガラスとすることで、シャープな印象を出している
「なんばGMT」建設地。すでに、隣接する歩道が拡幅されている。写真奥方向が南で、高速道路と低層の倉庫以外、高層建築物はない。写真では分かりづらいが、左奥のほうに「通天閣」が見える
「なんばGMT」建設地。すでに、隣接する歩道が拡幅されている。写真奥方向が南で、高速道路と低層の倉庫以外、高層建築物はない。写真では分かりづらいが、左奥のほうに「通天閣」が見える
「なんばGMT」のモデルルームからみた、再開発エリア。左に「ヤマダ電機」。中央に「なんばパークス」。写真奥左側の高層マンションは、同じ総合地所が分譲した「なんばタワーレジデンス」。その奥がオフィスビル「パークスタワー」
「なんばGMT」のモデルルームからみた、再開発エリア。左に「ヤマダ電機」。中央に「なんばパークス」。写真奥左側の高層マンションは、同じ総合地所が分譲した「なんばタワーレジデンス」。その奥がオフィスビル「パークスタワー」
専有面積60平方メートルの2LDKの間取り。全部屋がバルコニーに面したワイドスパンを実現。廊下面積が少なく、使いやすい間取りだ
専有面積60平方メートルの2LDKの間取り。全部屋がバルコニーに面したワイドスパンを実現。廊下面積が少なく、使いやすい間取りだ
モデルルーム室内。「デュアル・フレーム・システム」により、小梁の出ないすっきりとした室内。ワイドスパンのため、面積以上の開放感がある
モデルルーム室内。「デュアル・フレーム・システム」により、小梁の出ないすっきりとした室内。ワイドスパンのため、面積以上の開放感がある
上層階に設定されるハイグレード住戸。面材等のグレードアップがなされるほか、階高が上がることで二重床となる
上層階に設定されるハイグレード住戸。面材等のグレードアップがなされるほか、階高が上がることで二重床となる

南海「難波」駅隣接の大規模再開発エリア

 同物件が所在するのは、総面積約14.5haに及ぶ大規模再開発「大阪難波土地区画整理事業」エリア。

 南海鉄道のターミナル「難波」駅に寄り添うように広がる南北に細長いこのエリアは、かつての大阪球場跡地。1995年の事業認可から13年を経て、すでに大規模複合商業施設「なんばパークス」やオフィスビル「パークスタワー」、ヤマダ電機「LABI1」などが完成。週末には10万人が訪れる、一大商業ゾーンとなっている。

 同物件は、このエリアの最南端に位置。難波駅までは「なんばパークス」を通り抜け9分。最も近い最寄り駅は、市営地下鉄御堂筋線「大国町」駅で、徒歩5分。建設地南側は低層の倉庫(区画整理事業地外)と阪神高速の高架があるものの、日照の妨げになるものはなく、眺望が開ける。北側も、クボタ(株)の本社ビルはあるものの、手前に再開発地を臨みながら、大阪「キタ」のビジネス街が一望でき、夜景の美しさは抜群だ。
 ただし、クボタ所有の建設地北側の敷地は、地区計画上、マンションと同等の高層建築が可能であり、前面眺望が将来的に保証できないのがウィークポイント。

 もっとも、それを差し引いても、ミナミ随一の商業エリア内という立地は、最大のウリだ。同エリアでは、過去に「なんばパークス」に隣接した「なんばタワーレジデンス」(総戸数344戸、2007年竣工)が同じ総合地所によって販売されているが、半年もかからず完売している。

 「なんばGMT」は、現時点で同エリア最後の住宅開発であり、難波駅や商業施設からの距離こそ前述の「なんばタワーレジデンス」に劣るが、商業施設とのほどよい距離が騒々しさを軽減し、フルタイムで居住するユーザーにはむしろメリットとなるはずだ。

シングル・DINKS特化の間取り

 事業は、持分比率70%を持つ総合地所が推進する。建物は、大林組施工の地上33階建てタワーで、同社独自の連結制震構造「デュアル・フレーム・システム」が導入されている。
 同システムは、建物中央部に設置した独立耐震壁を覆うように住戸を配置。両者を制震装置で連結したもの。これにより、住戸部分にそれほど構造強度が必要ではなくなり、柱と梁の少ない居住空間が実現できた。また、耐震壁内に建築物としては「無粋な」立体駐車場を収めてしまうことで、敷地に開放感も生まれている。

 建物デザインは、バルコニーの手すりにブルーとグリーンのガラスを採用した、透明感ある外観で、全体が淡いアースカラーでまとまっている既存再開発施設とは一線を画している。
 共用施設には、ゲストハウス、ラウンジ、キッチンスタジオなどを設置。ダブルオートロックとホームセキュリティで防犯性能を高めている。また、居住者向けサービスとして、「なんばパークス」での映画割引、「スイスホテル南海大阪」の宿泊料金2割引やレストラン1割引といった特典が用意される。

 さて、住戸である。

 記者は、このマンションの取材前、メインターゲットをどこに据え、どういう品揃えをするのがベストかを考えた。
 繁華街の「ミナミ」という性格上、高齢者が触手を動かす率は低いから、年齢層は20~40歳台。3,000万円台で70平方メートル台の広さを求めるファミリー層のニーズも、おそらく満たすことはできまい。となると、シングル・DINKSの実需向けに、専有面積60平方メートル台の住戸を、3,000万円中盤程度で供給するのがベスト、と読んだ。自画自賛するわけではないが、果たして、同マンションの販売戦略は、まったく記者の予想通りだった。

 間取りは1LDK~4LDK、専有面積41~156平方メートル。1LDK・2LDKが全体の6割を占め、広さ50~60平方メートル台が過半数となっている。低層部を中心に40平方メートル台の住戸を数多く設定しているのは、投資用としての受け口を広げる、いわば「保険」だろう。3年前に分譲された「なんばタワーレジデンス」は、高層階まで狭小住戸を設けたこともあり、購入者の半分が投資用だった。「難波GMT」は、27階以上はすべて80平方メートル以上の住戸であり、明らかに実需に焦点をあてている。

 住戸グレードは、26階までの標準仕様、27~32階のラグジュアリー仕様、33階の最上級仕様と3段階に分けている。どのグレードも価格に見合った標準的な仕立てだが、60平方メートル台の住戸でも、7m以上のスパンが確保されており、多くの住戸が廊下面積の少ない全面採光間取りとなっている。

販売予定価格は3年前と同レベル

 販売価格は、3,000万円台から1億5,000万円台。最多価格帯は3,700万円台、平均坪単価は203万円程度を予定している。坪単価は、「なんばタワーレジデンス」とほぼ同じ、いわば「旧価格」であり、十分な値ごろ感がある。昨年末から「なんばパークス」等でのイベントを通じ、5,000組の事前反響を集めており、2月に予定している1期分譲では150戸を供給する予定だ。販売担当者も「立地や規模、グレードともに真っ向からの競合物件はない。都心部の再開発物件という希少性もある」(総合地所大阪分譲事業本部課長・梅垣浩記氏)と自信を見せている。

 余談となるが、同マンションはすでに1期1次の販売を終えている。それも「1戸」だけ。それは、難波駅前の高島屋と提携して実施した「福袋」として販売されたもの。1,900万円の値段が付けられた住戸(3階部分、専有面積41平方メートル)に、200万円の高島屋商品券等が付いて、価格は「2009万円」だ。

 「福袋」住戸は、採光面等にハンデがあるものの、ハードやソフトは一切問題なく、投資用と考えれば十分魅力的だ。というわけで、金銭感覚の鋭い大阪市民だけあって、この不景気にもかかわらず、54件の登録があったという。当選した人には、最高の「お年玉」になっただろう。(J)

【シリーズ記事一覧】
「ブランド立地」をどう料理するか?(1)
「ブランド立地」をどう料理するか?(2)
「ブランド立地」をどう料理するか?(3)
「ブランド立地」をどう料理するか?(4)

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