記者の目 / 開発・分譲

2010/3/15

「ブランド立地」をどう料理するか?(7)

藤和不動産・近鉄不動産「四条烏丸クロスマーク」の場合

 兵庫県芦屋市のマンション建設計画不認定判決の例を見るまでもなく、いまマンション建設において、周囲の景観との調和は、何より重要視されるファクターとなった。歴史ある都市やまちほど、そのハードルは高い。今回紹介する藤和不動産(株)・近鉄不動産(株)の「四条烏丸クロスマーク」(京都市下京区、総戸数176戸)は、「景観」に対して何より神経質な、古都・京都の中心部に立地するマンション。そのロケーションはもとより、周辺景観と調和したマスタープランなど、見所が多い物件だ。

「四条烏丸クロスマーク」完成予想図
「四条烏丸クロスマーク」完成予想図
建設地近くの「四条烏丸」交差点。さまざまな商業施設やオフィスが立ち並ぶ、京都の中心地
建設地近くの「四条烏丸」交差点。さまざまな商業施設やオフィスが立ち並ぶ、京都の中心地
「田の字エリア」概観。エリア内に新たに建てられる建築物には、厳しい高さ規制がかけられる
「田の字エリア」概観。エリア内に新たに建てられる建築物には、厳しい高さ規制がかけられる
低層棟エントランス外観。日本瓦を配した軒を深くとった「かしき造り」、京行灯をモチーフにした外灯、御影石や畳石による路地など、京町家の雰囲気を演出する
低層棟エントランス外観。日本瓦を配した軒を深くとった「かしき造り」、京行灯をモチーフにした外灯、御影石や畳石による路地など、京町家の雰囲気を演出する
高層棟エントランス外観。軒下を柵で囲う「たや垣」や光や風を取り込みながらプライバシーを確保する「子持ち格子」、「万十瓦葺き」などを用い、伝統的なまち並みとの連続性を意識
高層棟エントランス外観。軒下を柵で囲う「たや垣」や光や風を取り込みながらプライバシーを確保する「子持ち格子」、「万十瓦葺き」などを用い、伝統的なまち並みとの連続性を意識
モデルルーム内部。天井高がやや低いものの、建具類のグレード感はまずまず
モデルルーム内部。天井高がやや低いものの、建具類のグレード感はまずまず
折上げ天井仕上げの玄関
折上げ天井仕上げの玄関
ベッドルーム。居室扉は、ほぼすべてが引き戸仕上げ(写真右下)。居室面積、専有面積が限られるなかで、より有効的に室内を使うための工夫
ベッドルーム。居室扉は、ほぼすべてが引き戸仕上げ(写真右下)。居室面積、専有面積が限られるなかで、より有効的に室内を使うための工夫

最も開発規制が厳しい「田の字地区」

 同マンションは、京都市営地下鉄烏丸線「四条」駅・阪急京都線「烏丸」駅から徒歩2分、呉服商ビル跡地約3,200平方メートルに建設される。建設地は四条通りと烏丸通りが交差する「四条烏丸」交差点にほど近い。東京でいえば「銀座」のようなところであり、市内に勤務するDINKSやシングルにとっては、職住近接の最高のロケーションだ。

 同地周辺は、祇園祭の「山鉾巡行」スタート地点となっていることからもわかるように、古くから京都文化・経済の中心地。現在は、四条烏丸交差点を中心に、さまざまな商業施設やオフィスビルが林立する一方、一歩裏通りに足を踏み入れれば、伝統産業や京町家がひしめく、最も京都らしいまち並みが続く。

 そのため、同市はこれらの景観を乱開発から守るため、開発規制を強化。四条烏丸交差点を中心に、東西に走る御池通、四条通、五条通と、南北に走る堀川通、烏丸通、河原町通の幹線道路に囲まれた「都心幹線沿道地区」(各道路が田の字を描くことから『田の字地区』と呼ばれる)を2007年から「歴史的都心地区」として、建物の最大高さ制限を45mから31mに引き下げた。さらに、その中でも伝統産業や京町家が集うエリアについては「職住共存地区」として、さらに厳しい規制とし、建築物高さを最大でも15mとすることとした。

 事業効率を極限まで高めるため、行政規制が許容する限界まで建物高さや建築面積を拡大するのが、マンション開発のセオリー。それを考えると、いくら希少価値の高いエリアであっても、厳しい絶対高さの規制は、ディベロッパーの意欲を削ぐ。さらに、どの都市よりも厳しい、「景観」や「調和」に対する目が、重くのしかかる。

 そうした高いハードルを、藤和不動産と近鉄不動産はどう飛び越えたのか?


伝統的まち並みと調和する色遣いと外観デザイン

 まず、高さ。長靴を逆さまにしたような形の建設地は、全体が31m規制を受ける一方、西側に突き出た部分が15mの厳しい規制を受ける。そのため、東半分を地上11階建ての中層3棟、西側を地上5階建ての低層1棟とした(建築確認上は1棟)。
 さらに、エントランスやラウンジ、中庭などで構成される1階部分は、グランドレベルから約1m掘り下げ半地下状とした。通常、エントランスホール等は最低1.5階層分の高さをとるが、このマンションは地下に掘り下げることで、絶対高さをクリアしながらホールの天井高を稼ぐという、涙ぐましい努力をしているのだ。

 次に外観。建物は、京町家などとの調和を図るため、ブラウングレーと黒を基本色としている。バルコニーの手すりは、格子をイメージしたガラス手すりを使う。そして、外構の至る所に、京都の伝統的建物と同じ意匠が用いられている。低層棟は、日本瓦を配した軒を深くとった「かしき造り」。京行灯をモチーフにした外灯、御影石や畳石による路地など、京町家の雰囲気を演出。高層棟も、軒下を柵で囲う「たや垣」や光や風を取り込みながらプライバシーを確保する「子持ち格子」、丸い小巴が軒先に規則正しく並んだ「万十瓦葺き」などを用い、周辺の伝統的なまち並みとの連続性を意識した。

 また、エントランスホールやラウンジも、和紙入りの光壁やくし引きの土壁、天然石、格子などを多用するなど、外観同様、和風のデザインでまとめている。
 

「別邸」使い意識した小面積住戸が中心

 住戸はどうか。

 「超」のつく都心立地だけに、小間取りが多いのが特徴。1LDK~4LDKの全31プラン、専有面積は約42~92平方メートル。6m台のショートスパンを基本とすること、天井高を稼ぐためか直床仕様となっていること(それでも基準天井高は2,450mmと、標準的マンションよりかなり低い)、サッシュが複層型でない(省エネ性が低い)ことなど、いくつかの仕様に不満点があるが、フローリングや建具のグレード感はまずまず。玄関の折上げ天井、御影石のキッチントップ、ステンレスレンジフードなども標準だ。居室面積を最大限確保するため、居室扉を原則引き戸としているのが、有効に機能していた。

 その立地特性から、自家用車を所有する居住者は極端に少なそうだが、必要な時に自動車を使えるよう、両社のマンションでは関西圏初となる「カーシェアリングシステム」で、ハイブリッドカー1台を導入。月額基本料は管理費に含まれ、居住者は時間料金を支払い、自由に使うことができる。

 やはり、「自己居住ではないユーザー」からの反応が非常に強いそうで、京都市周辺部や首都圏からの問い合わせが3割に達している。「大学生の子供が卒業するまで住んだ後は、賃貸物件として運用」「週末のセカンドハウスとして」など、学者、医師、キャッシュリッチなサラリーマンの買い増しニーズが目立つといい、こうしたニーズを小間取りでうまく吸い上げているようだ。


希少価値のある立地や商品企画が認められる時代に

 さて、価格である。

 2月21日に抽選された1期1~3次87戸(専有面積約57~約92平方メートル)の販売価格は、3,150万円~7,180万円。最多価格帯は4,500万円台で、平均坪単価にして220万円といったところ。関西圏では、首都圏以上に少ない「坪200万円突破物件」だが、それだけのプレミアムはある。

 ユーザーの評価も高かった。年明けのモデルルームオープンから約600組の来場者を集め、1期87戸は83戸に登録が入ったのだから、販売価格帯を考えれば大成功といえよう。

 藤和不動産執行役員大阪支店長・長谷川良裕氏は、販売を前にこう語っていた。
 「『田の字エリア』は、京都市の中枢であり、景観や住環境を非常に大切にしてきた場所。そのため、地元に溶け込むマンションづくりが求められるし、用地取得も非常に難しい。
 だが、現在のマンション市場は、立地や商品企画がいいものであれば顧客に認められるようになってきている。高さ規制の強化による用地価格上昇で、今後はマンション価格の上昇も予想される」。

 新価格の揺り戻しで、マンション市場全体がデフレ傾向にあるなか、こうしたプレミアムが正当に評価されることは重要だ。いいマンションが適正な価格で販売できることが、市場を最も活性化するのだから。(J)

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