記者の目 / 開発・分譲

2008/4/8

「ブランド立地」をどう料理するか?(2)

住商複合施設「WEEKEND HOUSE ALLEY」の場合

 鎌倉・七里ヶ浜といえば、前面に相模湾、背後に鎌倉の山並みを背負う、自然豊かな住宅街であり、海好きの人達にとってはあこがれの地である。なかでも、相模湾沿いを走る「国道134号線(湘南道路)」周辺は、江ノ島を望む海岸が絶景であり、ユーザー・テナント垂涎の立地である。そんな絶好の開発地を得たのが、コーポラティブ住宅や商業施設のコンサルティングを得意とする(株)都市デザインシステム。同社が企画・総合プロデュースを手がけた賃貸住宅・店舗複合施設「WEEKEND HOUSE ALLEY」(神奈川県鎌倉市)を見学してきた。

「WEEKEND HOUSE ALLEY」外観。休日ともなれば、海沿いの前面道路はご覧の賑わい
「WEEKEND HOUSE ALLEY」外観。休日ともなれば、海沿いの前面道路はご覧の賑わい
重厚なコンクリートと大振りの窓ガラスがシンプルかつ個性的
重厚なコンクリートと大振りの窓ガラスがシンプルかつ個性的
建物を細かく分割し、その間に幾重にも小路を走らせているのが特徴。そのため、北側からも海が見通せるし、風も通う
建物を細かく分割し、その間に幾重にも小路を走らせているのが特徴。そのため、北側からも海が見通せるし、風も通う
住居部分への進入路は、圧迫感を出さないよう、ごく簡易なオートロックとしている
住居部分への進入路は、圧迫感を出さないよう、ごく簡易なオートロックとしている
建物入口は、防錆を考えたアルミ製。通風用に設けられた扉も同様
建物入口は、防錆を考えたアルミ製。通風用に設けられた扉も同様
住戸内部。コンクリートむき出しに無垢調フローリング。すべての住戸は、水回り以外の仕切りが存在しない
住戸内部。コンクリートむき出しに無垢調フローリング。すべての住戸は、水回り以外の仕切りが存在しない
すべての住戸は、どこからか海が見渡せる造り。とくに、南面3戸の眺望は最高
すべての住戸は、どこからか海が見渡せる造り。とくに、南面3戸の眺望は最高
バスルームも「透け透け」。確かに気持ちはいい
バスルームも「透け透け」。確かに気持ちはいい

相模湾を望む抜群の立地

 同物件は、江ノ島電鉄(江ノ電)「七里ヶ浜」駅から徒歩2分、国道134号線に面した敷地約2,400平方メートルに建設された、地上2階地下1階建ての賃貸住宅・商業施設の複合施設。

 建設地は、もともと「鎌倉プリンスホテル」の従業員寮があった場所で、コクドグループの資産リストラの一環として売りに出されていたものを同社が取得。風致地区等による各種規制をクリアしながら、3年ほどかけ事業化した。同社は、商品企画・開発のトータルプロデュースを手がけ、建築デザイン、テナントブランディング、プランドスケープなどは、それぞれ個別企業に依頼している。土地・建物は、私募ファンドに売却。開業後は、同社が商業施設部分のプロパティ・マネジメントを手がけていく。

 なにはともあれ、その立地がすごい。現地周辺は、国道134号線と江ノ電が並走する区間として、テレビドラマや紀行番組で目にすることも多い景勝地。サーフスポットとして人気がある七里ヶ浜海岸越しには、相模湾に浮かぶ江ノ島が見える。また、江ノ島方面から海岸沿いを走ってきた江ノ電は、計画地の手前で山側に入り、すぐ裏手の七里ヶ浜駅に着く。つまり、敷地前面を遮るものなく、海を眺めることができるわけだ。

 この風景を毎日眺めることができるというのは、住宅開発にとって何よりのセールスポイントになる。さらに、観光客やマリンスポーツを楽しむ人々で終日賑わう国道134号線は、商業テナントとしても非常に魅力的である。この両者のニーズを満たす住商複合施設の開発に落ち着いたのは、当然の帰結であるといえよう。

 「この湘南道路の周辺は、グレード感のある賃貸住宅が少ないほか、いわゆる本格的テナント向け物件もほとんどない。マーケティングの結果、立地のバリューに加え、そこで得られるライフスタイルのバリュー、しっかりとしたコンセプト付けした商業施設の相乗効果を打ち出すことで、住宅・商業とも周辺相場の倍近い賃料が設定できるポテンシャルがあると判断した」と話すのは、同物件の企画を担当した同社コーポラティブ事業部の関口正人プロデューサー。

賃貸住宅の「共用施設」イメージしたテナント

 「ウィークエンドハウス」と名付けられた通り、開発コンセプトは「毎日が週末のようにリラックスできる空間」。単に眺めの良いお洒落な賃貸住宅を作るということではなく、「ライフスタイルそのものが提案できるような住まい」をめざしている。

 テナントについても「ナショナルブランドから出店したいという問いあわせも数多くいただきましたが、観光客がただ遊びにくるようなものではなく、そこで生活する人が、マンションの共用施設のように利用できることを念頭に、衣食住にまつわるテナントをプロデュースしました」(関口氏)という。

 その結果、集められたテナントは6つ。サーフショップやヘアサロン、ファッション系のセレクトショップ、ペットショップ、そしてブレックファーストレストラン。いずれも、こだわりのある各ジャンルの「隠れた名店」的なテナントがミックスされている。

地域とのコミュニティ意識した配棟計画

 さて、建物である。

 外観イメージは、コンクリート打ち放し、スチールサッシュやコンクリートへのモザイク模様によるアレンジ等がなされているが、ごくごくシンプルな仕上がり。ただし、その配棟は非常に個性的だ。

 パッと見ると1つの塊のように見える建物だが、よく見ていくと、東西で大きく2分割され、さらに細かい小路が縦横無尽に走り、7つの小さな建物で構成されている。その1つひとつも真正直な四角形ではなく、台形や三角形などバラバラで、それぞれ個性的な表情を見せている。

 通常、こうした大通りに面する敷地の場合、板状型の建物を敷地形状に合わせて建築するのが最も効率的だ。だが、そうした無計画な建物は、必ず眺望、採光の悪い住戸(テナント)ができてしまう。周囲への圧迫感を生み、建物によって地域が寸断されてしまうデメリットもあり、周辺住民の反感を買うことも少なくない。

 同物件の場合、プライベートスペースを除いた敷地内の通路は全て解放され、来場者や周辺住民が自由に行き来できるようにしており、地元との新たなコミュニティ創出を狙っている。また、建物形状を複雑にし、小路により開放面を多く取ったことで、どの住戸(テナント)でも「必ず海が見える」ようになっている。その見え方もそれぞれで、各住戸の個性になっている(個人的には、トイレから海が見える部屋が最高だった)。

 住戸は全部で13戸。専有面積は45~210平方メートル。いずれも、水回り部分以外の仕切りは存在しない「ワンルーム」である。天井高いっぱいに取られた巨大なサッシュをはじめ、開放面の至るところに窓が設けられている。当然、隣接する住戸が丸見えになってしまう部分もあるが、プライバシーよりも開放感が優先されている。「ライフスタイルや価値観が似通った住民が集まってくるので、プライバシーについては最低限の配慮にとどめた」(関口氏)。

 圧巻は、ルーフテラスを持つ南面の3戸(専有面積130、150、200平方メートル)で、巨大な窓越しに相模湾を望む空間は、まさにアトリエのようなたたずまい。いずれも、IT系企業がSOHOや保養所兼サテライトオフィスとして借り上げたという。

 賃料は、月額20万円~110万円。坪単価は、1万5,000円と周辺相場のおよそ倍の値付けであるが、同社スタッフの口コミだけで即満室となった。「週末を湘南で過ごしたいというクリエイターや建築家が多い」(関口氏)。また、テナント部分の坪賃料は2万5,000円とさらに高い。これも、周辺テナントの客単価から逆算したもので、それだけのポテンシャルを秘めた立地と、その立地をとことんいかしたブランディングへの自信からくるものだろう。(J)

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