記者の目 / 開発・分譲

2008/3/31

「ブランド立地」をどう料理するか?(1)

賃貸マンション「オーシャンズ11」の場合

 東京・銀座に代表されるように、全国には独自のブランド力=地位(じぐらい)を持つエリアが多数存在する。そんな恵まれた立地でも、「料理の仕方」を間違えば、魅力は半減してしまう。まさに、企画会社の腕の見せ所である。今回は、そんな素晴らしい立地を存分にいかした賃貸マンション「オーシャンズ11(イレブン)」(神奈川県逗子市)を紹介したい。

賃貸マンション「オーシャンズ11(イレブン)」。コンクリート打ち放しのアクセントウォールと、木目調サイディングがアクセント
賃貸マンション「オーシャンズ11(イレブン)」。コンクリート打ち放しのアクセントウォールと、木目調サイディングがアクセント
賃貸住宅とは思えないほどのふんだんな緑化が目立つ。隣地との境界も、背の高い植栽が緩衝帯となっている
賃貸住宅とは思えないほどのふんだんな緑化が目立つ。隣地との境界も、背の高い植栽が緩衝帯となっている
緑化を推進するために、駐車場もタイヤが載らない場所すべてに芝を植えこんでいる
緑化を推進するために、駐車場もタイヤが載らない場所すべてに芝を植えこんでいる
エントランスなど共用部分は「和」テイスト。壁は白いタイルと、引き落としの塗壁としている
エントランスなど共用部分は「和」テイスト。壁は白いタイルと、引き落としの塗壁としている
住戸はシンプル、専有面積61平方メートルの2LDK
住戸はシンプル、専有面積61平方メートルの2LDK
リビングと隣接する洋室は、透明樹脂製のスライディングウォールで仕切られ、リビングの延長としても利用可能
リビングと隣接する洋室は、透明樹脂製のスライディングウォールで仕切られ、リビングの延長としても利用可能
水回りは、ライトグリーンで統一。洗面所は、既製品の組み合わせながら、独立洗面ボウルと1枚ガラスの組み合わせがおしゃれ
水回りは、ライトグリーンで統一。洗面所は、既製品の組み合わせながら、独立洗面ボウルと1枚ガラスの組み合わせがおしゃれ
全戸にトランクルームを設置。海が近いことから、マリンスポーツグッズを入れるため必須の設備だ
全戸にトランクルームを設置。海が近いことから、マリンスポーツグッズを入れるため必須の設備だ

低層住宅街の周辺環境向上を意識

 同プロジェクトは、JR「逗子」駅から徒歩10分に立地。敷地面積約690㎡に、建築面積約330平方メートル、3階建て・総戸数11戸の賃貸マンションを建設したもの。敷地はもともと、貸家2棟と駐車場が建っていたが、オーナーが生前相続対策として有効活用できないかと、(株)相続相談センターに依頼。同社が約1年間かけ、企画立案、建築、入居者募集を進めてきた。総事業費は約2億円。

 首都圏屈指の景勝地であり、御用邸に代表されるよう、古くからの保養地としても有名な逗子。高級住宅街として名をはせる「披露山庭園住宅」を頂点に、エリア全域が環境の優れた住宅地として人気が高い。同物件建設地は、駅からフラットにアクセスできる戸建て住宅中心の住宅街。周囲を見渡しても、賃貸マンションの類は皆無である。また、逗子海岸にも徒歩10分ほどでアクセスでき、海好き、マリンスポーツ好きにはたまらない立地である。

 建設地の用途地域は、第1種低層住居専用地域と近隣商業地域が入り混じっており(幹線道路が近いため)、建ペイ率・容積率はそれぞれ、50%・80%、100%・200%となる。そのため、3階建てであればマンションの建築は十分可能だ。

 しかし、ただ闇雲に建ペイ・容積一杯の建物を建てたら、日照や景観等の問題が必ず発生し、周辺住民の理解は得られない。ユーザーに訴求できるだけのコンセプトを持たせながら、周辺環境との融和を図れるような緻密な商品企画が必要となる。同社も、「建物が完成することで周辺環境がより向上すること」を第1目標に、企画を練り上げたという。

色彩を抑えた建物、緑化もふんだんに

 まず、建物設計にあたっては、コンピューターシミュレーションで日照時間を解析。日影に影響が出やすい東南・北西部分を駐車場とし、建物を雁行させることで、影の伸びる範囲を小さくした。これにより、隣接する住戸については、3時間以上影になる部分を作らないように工夫したとのこと。
 前面道路については、敷地・建物をセットバックすることで、南側を3.5mから3.8mに、西側を2.7mから4.0mと、それぞれ車がすれ違えるまでに拡幅。北側に隣接する公園との間のブロック塀は取り壊し、新たに植栽を施したフェンスを設置した。

 建物についても、コンクリート打ち放しのウォールを、当初は海をイメージした青に塗る予定だったが、周辺環境になじまないということで、コンクリートそのままとし、建物自体も白タイルと木目調サイディングによる淡い色彩にまとめた。エントランスや共用廊下等については、引き落としの塗壁を施すなど、「和」テイストでまとめている。

 また逗子市では、都市環境条例により「家屋等の構造物の建築時に生ずる空間については、その緑化に努める」と定められていることもあり、建物周辺を緑で囲みこんだ。駐車場についても、車輪が設置しない部分については芝を植えこむ手の込みようである。
 ここまで手をかけたことで、戸建住宅が密集していたエリアに開放感を持たせながら、低層マンションの建設に成功した。

サーファーとDINKSが支持した広め2LDK

 住戸は、1フロア4戸。窓の数・形に違いはあるものの、基本は専有面積61平方メートル、賃貸住宅としては広めの2LDKで統一されている。間取りは、DINKSを意識したもので、15畳のLDKと、それに隣接する6畳の洋室、6畳の洋室という組み合わせである。廊下面積が少なくスクエアな形をしており、使い勝手のいいプランだ。

 水回りは、海を意識してライトグリーンでアクセント付けしているほか、洗面所は装飾が施された1枚ガラスと独立洗面ボウルを組み合わせたオリジナル。浴室は、サイズが1216とやや小さいものの、水回り全体では賃貸住宅としてはゆとりがある。LDKに隣接する洋室はスライディングウォールとしてあり、リビングの延長としても使えるよう工夫している。
 また、トランクルームを全戸に設置している。湘南といえば、サーフスポーツのメッカ。サーフボード等の収納場所としてニーズが高いためだ。実際、入居者の半数以上がサーフボードを所有しているという。

 賃貸住宅だけに、フローリングや建具のグレード感が分譲マンションに劣っている点と、たとえ3階建てとはいえエレベータの設置が見送られた点についてはやや残念だが、住戸の使い勝手については分譲住宅と肩を並べるレベルと思えた。

 入居者募集は、2007年末からスタート。月額賃料は、12万4,000円~13万2,000円と周辺相場よりやや高めに設定した。周辺に比較する物件はないが、「逗子」というブランド立地、都心へのアクセス時間等を考慮すれば妥当な金額だ。その結果、年が明ける頃には全室申し込みが入ったという。入居者は、30歳代、40歳代のDINKSが半数以上と狙い通り。まさに、同社の企画が勝利したといえよう。(J)

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