記者の目 / 開発・分譲

2008/7/11

「ブランド立地」をどう料理するか?(3)

総合地所「ルネ品川中延」の場合

 戦前から残る住宅地、なかでも東京都心の老舗住宅街ともなれば、マンション用地を求めるのは至難の業である。逆に、そんな住宅地を運よく手に入れることができたら、ディベロッパーも腕の振るい甲斐があるというものだ。  今回紹介する、総合地所(株)の分譲マンション「ルネ品川中延」(東京都品川区、総戸数75戸)は、まさにそれ。得難い住環境、抜群の交通アクセスと、よく練り込まれたランドプラン、コストのかかった住戸がマッチした逸品である。

「ルネ品川中延」完成予想図。白黒モノトーンの色づかいに、ガラスウォールがめだつ
「ルネ品川中延」完成予想図。白黒モノトーンの色づかいに、ガラスウォールがめだつ
同マンションのランドプラン。建物をL字型に配したことで住戸の見合いを無くし、小規模住戸とファミリー向け住戸を分けた。中庭部分は駐車場も含め景観を意識した空間造り。周囲の緑化にも気を配り、全住戸景観が抜けるメリットをいかしている
同マンションのランドプラン。建物をL字型に配したことで住戸の見合いを無くし、小規模住戸とファミリー向け住戸を分けた。中庭部分は駐車場も含め景観を意識した空間造り。周囲の緑化にも気を配り、全住戸景観が抜けるメリットをいかしている
ユニバーサルデザインを志向しながら、デザイン性も高めたのが特徴。住戸扉にはプッシュ式ハンドルを採用
ユニバーサルデザインを志向しながら、デザイン性も高めたのが特徴。住戸扉にはプッシュ式ハンドルを採用
浴室のプッシュ式水栓。設置場所も低く、子供やお年寄りでも使いやすい
浴室のプッシュ式水栓。設置場所も低く、子供やお年寄りでも使いやすい
キッチンにはセンサー式水栓
キッチンにはセンサー式水栓
キッチンの換気扇はリモコン式。通常の換気扇スイッチでは、車いすや座って調理する人は届かない。これぞ、ユニバーサルデザイン
キッチンの換気扇はリモコン式。通常の換気扇スイッチでは、車いすや座って調理する人は届かない。これぞ、ユニバーサルデザイン
サッシュは「イーズハンドル」を採用。軽くスライドさせるだけでサッシュが開く。従来型の4割の力でOK
サッシュは「イーズハンドル」を採用。軽くスライドさせるだけでサッシュが開く。従来型の4割の力でOK
モデルルームのリビング。建具やフローリングの質感は抜群。キッチンはステンレス貼り&ピアノ塗装、天板は御影石仕様。ファミリー向け住戸は、ベランダ部分をコーナーサッシュとしている
モデルルームのリビング。建具やフローリングの質感は抜群。キッチンはステンレス貼り&ピアノ塗装、天板は御影石仕様。ファミリー向け住戸は、ベランダ部分をコーナーサッシュとしている

戦前からの住宅地、老舗商店街も至近に

 同物件は、東急大井町線「荏原町」徒歩4分、都営浅草線「中延」駅徒歩11分、スタジオ跡地に建設される、地上7階建ての低層マンション。
 建設地は、中原街道と国道1号線に挟まれた、戦前から続く戸建住宅が密集する住宅街で、マンション適地が出ることはほとんどない。住居表示も「品川区」。それでいて、8m道路に隣接する。この立地だけでも希少価値がある。

 ちなみに、同マンションを企画したのは、総合地所の「不動産開発企画本部」で、マンション事業本部ではない。つまり、この土地は高齢者施設等幅広い有効活用手法を模索していたわけだが、結局のところ分譲マンションで「料理」するのが最適だという結論に至ったということ。それも当然の、垂涎の立地である。

 幹線道路から奥まった立地は「閑静」であることはもちろん、立会川緑地など緑も多い。歴史のある住宅街だけに、駅を中心に老舗商店街のある通りが何本も走っている。最寄りの都営浅草線と東急大井町線は、どちらかといえばマイナー路線だが、大井町線は急行運転を開始し東横線や田園都市線との連携が良くなったし、都営浅草線は新橋・日本橋・銀座へのアクセスがいい。

 唯一のネガは、小高い「丘」のような立地であること。すべての最寄駅からは「上り」となり、高齢者にはちょっときつい。だが、その一方で、この立地を超える高さの建物は存在せず、四方に景観が抜けているという利点を生み出している。古今東西、高級住宅街は「ヒルトップ」にあることを忘れてはならない。トータルでは、「合格」である。

開放感と景観重視したランドプラン

 ランドプランもいい。

 実は、計画当初は、建物は「U字型」に配置する予定だった。ところが、このプランでは、他の住戸と中庭を介し「お見合い」になる住戸が増えてしまい、四方に景観が抜けているせっかくの立地が生かせない。そこで、南面に板状型の棟、西北面に東西振り分けの別棟を配した「L字型」の配棟とし、エントランスも2つ設置。北東面は駐車場とした。

 これにより、すべての住戸が、東西南北いずれかに眺望が抜けることになり、通風・採光も確保。角住戸も半数を超えた。また、南棟を大形のファミリー住戸、北棟をシングル・DINKS向けの小型住戸としたことは、コミュニティ形成にもプラスに働くだろう(生活リズムの違う両者が接すると、何かとトラブルも増える)。

 周辺エリアに合わせて、敷地周囲をふんだんに緑化したのも特徴。南面エントランス脇には、既存樹であるサクラを残したほか、中庭には水盤も設置。1階ゲストルーム前を日本庭園風に処理し、通常コンクリートむき出しのことが多い駐車場も、全面石畳とすることで、車が停車していない時の見栄えをよくした。屋上は、メンテナンスフリーのコケによる緑化を図っている。

独自の視点でUDを追求

 飛島建設(株)施工の建物は、外観が白と墨色のタイルを組み合わせたシンプルモダンなデザイン。周囲への圧迫感を防ぐため、南面住戸にガラスウォールを採用した(腰窓下の梁部分にガラスを張り込んだもの)。住戸は、1LDK~3LDK、専有面積42~112平方メートル。

 前記したとおり、北棟に専有面積40~50平方メートル台の小規模住戸、南棟に専有面積70平方メートル以上のファミリー向け住戸が集められている。小規模住戸は、全室バルコニーに面し、廊下と水回りをコンパクトに収めた使い勝手のいいプランだ。

 最大の特長は、独自の視点でユニバーサルデザインを追求していること。「これまでのユニバーサルデザインというのは、メーターモジュールの廊下、あらゆる部位への手すりの設置、大きな引き戸というように大げさでスタイリッシュでなく、健常者の方が敬遠されることが多かった。当社は、高齢者専用賃貸住宅のガイドライン、ヘルパーの意見などを参考に、加齢配慮はしつつ、スマート、シンプル、ディテールを追求しました」(東京不動産開発企画本部・井上理晴部長)。

 「これみよがし」のユニバーサルデザインといえるのは、居室のプッシュプルドアハンドル(これもおしゃれ)、照明・コンセントの高さ設定くらいのもの。廊下はメーターモジュールではないし、引き戸もほとんどない。だが、居室開き戸の幅は、車いすが入れる750mm(通常700mm)だし、押入れの中段は高さ750mm(通常600mm)だ。サッシュには、軽く手をかけるだけで開く「イーズハンドル」を採用。洗面は、車いすでそのまま利用できるオープンカウンターとし、ユニットバスはプッシュ式水栓、キッチンはセンサー水栓、洗面は鏡下にレバーを設けたフロートライン水栓とした。いずれもデザイン性に優れている。

 また、車いすでは届かない換気扇には、リモコンを設置、浴室とトイレには、緊急通報ボタンを設けた。室内照度を高めるため、ダウンライトの数も増やした。

 デザイン性だけでなく、設備仕様もグレード感がある。キッチンは、ガラストップコンロ&ステンレスパネル&御影石仕様で、ディスポーザーと食洗機を内蔵し、シャワー付き水栓はタッチレスだ。収納は開き戸・引き戸ともプルモーション(ゆっくり閉まる)で、ピアノ塗装が施されている。居室の建具・収納は突き板仕様で、フィルム処理ながらキッチン同様の質感がある。フローリングも、無垢ではないが木目の質感が美しい特殊加工品。

 床暖房、リビングビルトインエアコン、マッサージシャワーなども標準。二重床・二重天井、ペアガラス、最大220mmのスラブなど、建物グレードも標準以上だ。76戸のマンションにエレベータ2機とゲストルームを備えるのも珍しい。

 なお、ソフトサービスでは、地元医療機関とタイアップした24時間365日の受診体制、月1回の個別無料健康相談を組み合わせた「安心ドクター24システム」の導入が目を惹く。

坪300万円台のプレミアムはある

 さて、販売価格だが、坪単価にして320万円程度、専有面積40平方メートル台が4,000万円弱、同70平方メートル台が6,000万円台の予定だ。

 周辺エリアのマンションは、その多くが幹線道路沿いで、単価こそ200万円台に収まっているものの、環境面(とくに女性向けという意味で)はこの物件に大きく劣る。加えて、建物のグレード感もあり、そのアドバンテージは小さくないとみた。

 価格は「新価格」の部類だが、物件の魅力を余さず伝えられれば、来春の竣工時までに売り切るのは確実だろう。(J)

【シリーズ記事一覧】
「ブランド立地」をどう料理するか?(1)
「ブランド立地」をどう料理するか?(2)

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2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。