記者の目 / 開発・分譲

2014/8/18

「ブランド立地」をどう料理するか?(10)

野村不動産「プラウドタワー立川」の場合

 2014年後半戦の新築マンション市場を占う注目物件が、ついに販売開始となった。野村不動産(株)の「プラウドタワー立川」(東京都立川市、総戸数319戸)だ。東京三多摩エリア最大の繁華街である立川。その立川駅に直結、住商公の複合再開発、そしてエリア最高層のタワーマンションという人気必至の物件で、販売前からかなりの高値チャレンジがされると噂になっていたが、果たして事前予想をはるかに上回る価格で販売され、それをもろともせず即完したのだから、ただただ驚くしかない。リーマンショック後の「マンション新・新価格時代」のプロローグとなりそうだ。

「プラウドタワー立川」完成予想図。駅前エリアでは最も高いマンションかつ建築物。敷地南側はJRの線路、北側は昭和記念公園で、航空制限により高層建築物が建設できないため、通風・採光は保証される
「プラウドタワー立川」完成予想図。駅前エリアでは最も高いマンションかつ建築物。敷地南側はJRの線路、北側は昭和記念公園で、航空制限により高層建築物が建設できないため、通風・採光は保証される
JR「立川」駅とは、ペデストリアンデッキを介して結ばれる。建物とデッキ完成に合わせ、JRが新たに西口改札を開設。駅へのアクセスはさらに良くなる予定
JR「立川」駅とは、ペデストリアンデッキを介して結ばれる。建物とデッキ完成に合わせ、JRが新たに西口改札を開設。駅へのアクセスはさらに良くなる予定
建物は東西に長い板状型で、南面住戸が3分の2を占める。足元は商業施設で、マンションは9階部分より上となるため、最下層の9階でも、通常の13階建てマンション並みの高さとなる
建物は東西に長い板状型で、南面住戸が3分の2を占める。足元は商業施設で、マンションは9階部分より上となるため、最下層の9階でも、通常の13階建てマンション並みの高さとなる
細長い板状型の利点をいかし、各住戸が7.9m以上のワイドスパン。眺望をさえぎらないように、連窓型サッシを採用。鉄道騒音や繁華街の騒音を和らげるため、二重サッシとしている
細長い板状型の利点をいかし、各住戸が7.9m以上のワイドスパン。眺望をさえぎらないように、連窓型サッシを採用。鉄道騒音や繁華街の騒音を和らげるため、二重サッシとしている
共用施設も眺望を売りにする。ラウンジは2層吹き抜けで、上層部もガラス張りとしている
共用施設も眺望を売りにする。ラウンジは2層吹き抜けで、上層部もガラス張りとしている

エリアダントツの「坪342万円」もろともせず即完

 「坪300万円は超えるだろうね」「それは当然。駅前だ。もっと高いだろう」「でも、立川だぜ~」「いやいや、相当頑張るはず」――。同社がいよいよこのマンションを売り出すと聞いたとき、業界紙記者の間でこんな会話が交わされていた。

 建築費や用地価格の高騰を考えると、新築マンション価格は14年後半にはリーマンショック直後比で20%以上値上げしないと採算が合わないレベルにまできていることは、周知の事実である。だが、景気回復の実感が国民全体にまで行きわたっているとはいえず、ディベロッパーも新規物件の値付けには相当慎重になっており、思ったほどの価格上昇は見えていない。そうした中、この物件が「相当思い切った価格設定」をするという噂が流れたのだ。

 記者発表会の少し前、この疑問を同社の関係者にぶつけてみた。すると、その関係者はニコッと笑って、こう答えた。「皆さんが考えている以上の価格を付けます。事前集客もできています。完売の自信はあります」。この返答で、記者は確信した。周辺相場に2割程度のプレミアムを乗せた「坪320~330万円」で売り出すだろうと。

 ところが、7月に発表された価格は、予想をはるかに上回る坪342万円!売れなかったのであれば、記者の言い訳も立つ。1期230戸が即日完売したとあって、記者の自信は木端微塵に打ち砕かれたのである。

駅直結、エリア最高層、住商公一体の再開発

 同物件はJR中央線「立川」駅徒歩2分に立地する、地上32階建ての板状型高層マンション。高さ128メートルは、エリア最高層となる。
 建設地は、デパート跡地を中心に、小規模な個人商店が密集していたエリア。防災・景観の問題もあり、20年ほど前から再開発の機運が高まっていた。08年に都市計画決定がなされ、同社は10年に事業参画した。地権者は50名だった。

 住・商・公一体型の複合再開発で、1階が行政窓口、2階が公共駐輪場、3~7階は家電量販店が出店、9~32階がマンションとなる。建物は、清水建設施工の制振構造。非常時には48時間稼働する発電機も備える。
 3階部分でペデストリアンデッキとつながり、公共施設・商業施設への来訪者とは、完全に動線が分離される。また、再開発竣工と同時に、JRが西口改札を新設。さらに駅への距離が短縮される。周辺は、デパートや駅ビルが林立し、今後マンションを建設できる余地はない。まさしく唯一無二の物件となる。

 住戸は、2LDK~4LDK、専有面積55~108平方メートル。住戸部分は9階以上であり、SI設計により階高も高いため、最低でも普通のマンションの14階建て以上の眺望が期待できる。ほぼ真南向きという立地をいかした板状型で、住戸の66%を南向きとした。最低でも7.9mのスパンを確保し、通風採光に配慮している。建設地はJRの線路沿いのため、将来にわたって南面が建物にさえぎられる心配はないが、日中は電車が切れ目なく通過するため、防音対策として、主要な掃出し窓を二重サッシとしている。

 230戸中、85戸についてはオーダーメイド対応としたほか、ライフスタイルに合わせた間取りへ無償で変更する「ライフスタイルセレクト」を初めて導入した。同システムは、間取りの可変など通常のセレクトプランでは実現できない細かいニーズに対応すべく開発したもので、カウンター付きのコンサバトリー、フレキシブルスペース、カフェコーナー、ホームシアター、小上がり状の畳スペースといった提案が用意されている。

 ハイエンドユーザーがターゲットとなるため、設備機器や建具類のグレードは総じて高い。最大2,600㎜の天井高に合わせた2,300㎜のハイ引き戸、ハイサッシ、連窓サッシも採用。板状型ながら、プライバシー性の高い内廊下方式としている。

地元シニア富裕層の支持集める

 では、価格と販売動向について。

 1期の販売戸数は、販売対象住戸292戸中、230戸。販売価格は、5,248万~1億6,598万円、最多価格帯7,300万円。坪単価は前記した通り、平均342万円。周辺物件と比べ、約25%のプレミアムが乗っている。武蔵野市や三鷹市を除けば、三多摩エリアでは断トツの高価格マンションとなる。

 この高単価での販売の裏付けとなったのが、プレセールスでの高い反響。地元富裕層や東京勤務の会社役員、ライセンサーなどを中心に事前反響5,000件を集め、7月の正式販売を前に、モデルルーム来場者は2,500組にのぼっていた。

 そして、1期は最高倍率5倍、平均倍率1.22倍で即日完売となった。駅直結の好ロケーション、オーダーメイドやセレクトプランの多彩さ、住商一体開発、グレードの高さなど「売れて当然」の内容とはいえ、この価格をユーザーが支持したのには、正直記者も驚いた。

 登録申込者の平均年齢は52.0歳。30歳代21%、40歳代21%、50歳代23%、60歳以上32%。居住地は、立川市が32%、昭島市が9%、八王子など東京都下が82%、23区が9%。地元を含めた三多摩地域のシニア富裕層をきっちり集客したことが、データからも読み取れる。

◆    ◆    ◆

 同物件の成功が、意味するものは何か?それは、「多少郊外でも、立地や商品企画で圧倒的な差別化ができていれば、思い切った高価格でもユーザーの支持は得られる」ということだ。

 今秋から、建築費や用地価格の高騰のため、昨年比で20%以上価格を上げざるを得ない、いわゆる「新・新価格物件」の販売が、本格的にスタートすると見込まれている。だが、ディベロッパーの多くは、これまで模様眺めに徹して、本格的な販売を見送ってきた。リーマンショック前の価格上昇局面でユーザーの支持を受けられず、大量の売れ残りを抱えた苦い記憶が残っているからだ。

 幸い、これまでの供給抑制により需給バランスも改善され、足元の契約率は高水準を維持している。ただ、市場の品薄感は相当なもので、ユーザーの選択肢も狭まっている。市場に賑わいを持たせるためにも、自らが生き残るためにも、ディベロッパーは商品企画をしっかり吟味しながら、「適正価格」をユーザーに問う必要がある。「プラウドタワー立川」は、その好例になったに違いない(J)

***
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