





“ガーデンアパートメント” ――素敵なイメージが浮かぶが、実は地下室のことで、タウンハウスやアパートの地下室を賃貸する場合に、“地下室”ではイメージが悪くテナントを惹き付けないため、“ガーデンアパートメント”とおしゃれに言い換えているのだ。
だが地下室とは言っても半地下のタイプが大多数で、もぐらの住まいのような(?)暗黒の地下室を想像すると大間違い。部屋の上部には窓があって窓から地上が見晴らせ、外光も入ってくる。つまり窓の位置が地上レベルというわけだ。
部屋の窓から植え込みや花壇もながめられるから、“ガーデンアパートメント”というのもさながらうそではない。通常、上の階よりは家賃を安く設定するので、立地条件が良いガーデンアパートメントは、学生や若者、アーティストなどに大人気だ。
オーナー、入居者それぞれにメリット
地下室は、冬は暖かく夏は冷涼で、気温が上の階よりずっと安定しているため、住み心地は悪くはない。地下室の利用は中西部が圧倒的に多いようだ。むしろ、西海岸や南部では少ないかもしれない。オランダやベルギーでも地下室を住居として使っているのを多く見かけたが(賃貸かどうかは不明)、いずれも都会に多い点が共通している。 都市は土地が限られ不動産価格も高いから、建物オーナーにとっては、改造してガーデンアパートメントとして何戸か付け加えればそれだけ安定した収入が増える。 入居者サイドから見ても、ガーデンアパートメント、つまり地下室に住めば、別の出入り口からすぐに外に出られるため、足が弱っている人や、沢山の買い物などで手が一杯だったりする場合には、上の階に住むのに比べて便利だ。 とりわけアパート回りの景観をオーナーが美しく整えてある場合、地下室から出てすぐに美しい景色が目いっぱいに広がるのは気持ちがよい。アパートによっては別の出入り口が裏庭に通じていることも多いから、しばしば外に出す必要のある犬など飼っている人々にとってはぴったりな住まいと言えよう。セキュリティ面等への配慮は必要
ところで、賃貸ガーデンアパートメントの不利な点は、泥棒に入られ易い、暗い、湿気が多い、そして浸水の可能性を免れないなどがある。たしかに、上の階に比べて、窓から(つまり地上から)侵入し易いから、窓に補強ガラスを使うとか鉄格子をはめて防いでいるガーデンアパートメントをよく見る。 「暗い」という点については、学生や夜働く人にとっては必ずしも不利にはならないだろうし、浸水や湿気については、特殊な下水設備を専門に取り扱う業者などもいるから、充分に信頼できる業者を選び対処することで解決はできよう。使い方はいろいろ、地下室の活用
不動産売買において、コンドミニアム、タウンハウス、一戸建てなどの地下室は、“Unfinished basement”と表示されていることが多いが、これは床はむきだしのセメントで、壁はドライウォールとかスタディッドウォールなどの建材で仕上がっている状態を言う。地下室を物置や貯蔵庫、洗濯室として使う場合には、この程度の仕上げで充分なのだ。だが、のちにここを改造してガーデンアパートメントとし、テナントを入れるオーナーも結構多い。一方、“Finished basement”の表示は、壁や床は上記の仕上げだが、それに加えて、さらにきれいに表装され、冷暖房装置の完備、電気の配線等もなされて、住居としても使用可能な状態を言う。とりわけ高額な物件では、娯楽室やエクササイズルームなど、自由に使える部屋のスペースとして付加されていることが多い。階上階下で独立した生活が可能
一戸建ての地下室にベッドをしつらえ、風呂もトイレもつけて独立した客間に改造するのは通常“Father-in-law basement”と呼ばれる。直訳すれば「義理の父親の地下室」だが、何も義理の両親が泊まるためだけには限らない。最近の不況で、いったんは家を出た子供達が経済的な事情から実家に舞い戻るケースが少なくないのだ。子供達(と言っても立派な大人だが)は、もとあった子供部屋でなく地下室に住むことで合意する。両親は生活時間帯の違う子供達によって静かな暮らしを乱されるのを嫌がるし、子供達にとっても、地下室であれば出入り口が別で、親にどこへ行ったの遅かったのと干渉されずに済むからだ。 この他、大工仕事のスペースにしたり、娯楽室としてビリヤード台やピンポン台を置いたり…。キッチンをしつらえて貸し料理教室が最近最もトレンディ。地下室はもっともっと利用されてよいのではなかろうか。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。