(社)不動産協会は26日、「マンション建替え促進方策に関する研究報告書」を取りまとめた。
同協会では、2010年度にマンションの建替えの現状整理や事例分析およびマンション建替えの促進に向けた方策を検討するために、会員企業担当者を委員とする「マンション建替え促進方策研究会」を設置。国土交通省や有識者、実務家を招き、マンション建替えの社会的意義や課題等についての講演や意見交換を行なうとともに、建替え事例の収集と建替え阻害要因を把握するためのアンケート調査を実施した。
同報告書では、マンション建替えの社会的意義として、(1)約1,400万人が居住する都市型居住の典型であるマンションの建替えが円滑に実施されないことは、多くのマンション居住者の居住環境の向上が阻害される、(2)老朽化マンションを放置することは、当該マンションの問題だけでなく、周辺地域へも災害時の安全への不安や防犯面への不安を生じさせ周辺環境へ悪影響を及ぼす恐れがある、(3)マンションの建替えが進むことで、耐震化を含め住宅ストック全体の質の向上に資する、といった点を挙げ、こうした社会的意義があるにもかかわらず、マンション建替え事業の実施事例は150事例にとどまっていると指摘。その要因は区分所有者による建替えの合意形成の困難さにあり、その背景には事業コストを個別事情の異なる多数の区分所有者が応分に負担しなければならない点が問題で、特に高齢者等への配慮が必要であるとしている。
事例分析では国土交通省の「マンション総プロ」事例リスト81事例およびマンション再生協会が公表している事例リスト掲載の36事例、今回のアンケートで新たに得られた12事例を加えた129事例を分析。
建替え事業手法に関する事業協力者の関与の有無では、まったく関与しない自主建替え事例は8事例(6%)にとどまり、118事例(96%)は事業協力者が円滑化法の参加組合員や等価交換事業の事業者として関与していることがわかった。また、建替え実施前後の延床面積について把握できた105事例について分析したところ、増床倍率は円滑化法施行前では平均3.45倍(3倍以上が29事例)だったところ、施工後は平均2.83倍(同16事例)となり、ほとんどの事例が余剰容積率を活用しながら一定の増床を伴って実現していることがわかった。
事業手法については、等価交換方式12事例、マンションの建替えの円滑化等に関する法律(以下、円滑化法)による組合施行方式28事例、個人施行方式4事例と、円滑化法活用事例が4分の3を占めた。
同アンケートには「建替え事業を阻害する要因」として、「区分所有者の自己負担が大きくなるため建替え決議に必要な5分4以上の合意形成が困難であること」、「借家人の立ち退きに長期間を要すること」といった回答が寄せられ、それに対する促進方策として、「容積緩和などの支援策や借地借家法の立退き正当事由として建替え決議を位置づけること」、「建替え検討初動期における検討費用やコンサル費用等の補助制度の充実」等が挙げれらた。
同協会では、これらのアンケート結果や関連法制度の課題整理をふまえ、方策を提言。
事業手法関連では、(1)マンション建替え実現例の大多数は民間事業者の協力を得て増床していることから、一定の要件を満たす建替え事業に関しての容積緩和、(2)仮移転費用軽減のため、別敷地で先行して建替え事業を行なえる制度創設と、その際の公用地の活用、(3)老朽マンション再生の選択肢を増やすための、区分所有関係の解消についての検討、などが必要とした。
一方、現行関連法制度については、(1)区分所有法関係ではマンション建替え決議要件5分4の緩和と、団地型マンションの一括建替え決議における棟別3分2の同意要件の緩和、(2)借地借家法関係では、正当事由として建替え決議を位置づけることなどを盛り込んだ。