記者の目 / その他

2005/11/17

作り手も住み手も「考える」家

日土地コンバージョン第2弾「芝浦」に思う

 日本土地建物(株)によるコンバージョンマンション「creator's village Lattice shibaura(ラティス芝浦)」を見学した。同社のコンバージョンプロジェクト第2弾で、前回を凌ぐ規模で、オフィスから住宅へのコンバージョンとしては日本最大級となる。「多様なライフスタイルを求めるクリエイター達」がメインターゲットというだけに、通常の住戸では考えられない、ある種「奇抜な」作りこみがなされている。「平凡」な記者の目に映った、驚きの商品企画を紹介したい。

住居用にベランダを新設、まったくイメージの異なる外観に生まれ変わる(写真は完成予想図)
住居用にベランダを新設、まったくイメージの異なる外観に生まれ変わる(写真は完成予想図)
ガレージハウスの完成予想図。居住部分と車を置くスペースがまさに「近接」!
ガレージハウスの完成予想図。居住部分と車を置くスペースがまさに「近接」!
廊下はゆとりの1
廊下はゆとりの1
800mm
800mm
天井高3
天井高3
600mm、ハイサッシュ2
600mm、ハイサッシュ2

●日本最大級の住居転用コンバージョン

 同物件は、港区芝浦4丁目(JR田町駅徒歩8分)に立地する、地上7階建て、総戸数60戸の賃貸住宅。もとは、同社所有のオフィスビルで、オフィスから住宅へのコンバージョンとしては、同社のコンバージョン第1弾となった「ラティス青山」(45戸)を上回る、日本最大級の規模。今回も「青山」同様、建築設計・空間デザインなどを手がける(有)ブルースタジオ(代表取締役・大地山博氏)が設計・デザイン監修を担当している。
 所在地は、いま「マンション湾岸戦争」と騒がれている一帯で、急速に居住人口が増えつつあるエリア。運河を挟んだ逆側には、その代表物件「芝浦アイランドプロジェクト」(三井不動産他)が進行中で、完成後はその街並みを「横取り」できる楽しみがある。周辺に交通量の多い道路が無く、運河の向こう側を通るモノレールはごく静か。首都高速の夜中の騒音が気がかりだが、さほど心配あるまい。むしろ運河越しの眺望は、住居向きである。
 同社では、主なターゲット層を「クリエイティブ系事業者やプロダクションのSOHO」「マスコミ・広告代理店勤務の30~40歳代シングル・DINKS」「ガレージライフ、プライベートアトリエを夢見る30・40代」としている。そうしたターゲットに向けた商品企画とは?

●「車」「バイク」を家に引き込む暮らし!

 建物は86年築。大手ゼネコン施工の堅牢なもので、地味だったその姿は一新される。2~4階の東面住戸を除いた全ての住戸に、新たにバルコニーを設置。外壁と戸境壁は、吹き付け断熱処理が施されている。
 メインエントランスのある西側側面は、「ラティス(格子)」の名に合わせ黒の格子状加工がなされる。エントランスにはモニター付きオートロック、トランクルーム、フィットネスジム、高速ネット対応など、最新マンションとほぼ同等の設備が導入される。
 住戸は、大きく分けて4タイプ。クリエイティブ系事業者などをターゲットにしたSOHOとシングル・DINKS向けのスタジオタイプ(44戸、専有面積48~72平方メートル)、余裕の居住面積を誇るクロスメゾネットタイプ(10戸、専有面積116~131平方メートル)、1戸のみのペントハウス(専有面積207平方メートル、テラス94平方メートル)、そして、もっとも特徴的な、建物西面・エントランス横に用意される「ガレージハウス」(専有面積125~143平方メートル)だ。
 ガレージハウスとは、その名の通り車庫と住居を一体としたもので、アメリカの西海岸などでよく見かける。車2台・二輪車2台分のスペースを持ったガレージと住居は一応サッシュで区切られているが、入居者はそこから出入りする形となり、事実上は部屋と同じ。もちろん、車を置かなければ、部屋として(コンクリート打放しだが)利用できる。四六時中、車を愛でていたい人にとっては、垂涎の住戸だろう。
 現在工事の真只中のため、見学できたのはモデルルームに充てられている専有面積63平方メートル、東向きのスタジオタイプのみ。基本的な構造やデザインはあまり変わらないようだから、紹介したい。
 玄関は、大型の荷物や大型バイクでも搬入できる幅120cmの大型扉。玄関を入ると、クッションフロアの敷かれたアプローチ(4畳大)がある。モデルルームには、モトクロスバイクが停められていた。そう、この物件は、全戸が「愛車」を玄関から導き入れられるよう配慮されている。では、どうやって高層階の住戸にバイクを入れるか? 実は、この物件では、新たに人荷用の大型エレベータを、直接外部からアプローチできる場所に設置してあり、入居者はバイクや自転車、大きな機材などを直接外から部屋に運び入れることができるのだ。廊下幅も1,800mmと広く、二輪車を押しながらのすれ違いも可能。まさか、バイクに「乗ったまま」部屋に行くわけにはいかないだろうが、防犯上も大きなポイントとなるだろう。
 階高をそのままいかした天井高は3,600mm。この縦方向への余裕は魅力的で、立体間仕切りなどをうまく使えば、生活空間面積は倍増しそうだ。
 床は、スラブ直張りのクッションフロアとし、その上にカーペットを敷いて防音対策としている。天井には、換気、電気、ガスの配管が無機質にぶら下がり、空間面積の大きさに比例し、業務用並みのビルトインエアコンが標準装備される(天井パネルがないので、ビルトインしていないが)。水周りの床は配管を逃がす関係で30cmほど浮かせ、周りをウッドデッキ状に処理。そこにキッチン、バス、トイレ、洗濯機パン、収納を集約してある。収納類には和紙調の白いクロスが張ってあり、シンプルだが洒落ている。
 バスルームはユニットながら現地施工でモザイクタイルを敷き詰められ、キッチンは石調パネルを張って高級感を出している。キッチンにはIHヒーターを採用し、小ぶりのシンク横に調理スペースを確保している。同行した女性記者(既婚)が「調理スペースが少ない」とぼやいていたが、この手の部屋に住む人にとって、そういうことはあまり関係ない。
 天井高に合わせ、サッシュも高さ2,200mmの大型のものをチョイス。その向こうに、新設されたバルコニーが覗く。「バルコニーに、物干し竿置きがない」と、またまた同行記者が指摘していたが、繰り返すようだが、この物件に入居を考える人にとって、それは瑣末なことなのだ(記者も気にはなったが…)。
 モデルルームというものは、分譲だろうが賃貸だろうが「生活感」が希薄なものだが、このモデルルームはいっそうその感が強かった。誤解しないで欲しいが、それこそがこの物件の魅力ということだ。
 ちなみに、スタジオタイプの賃料は、月額18万5,000円から30万円。メゾネットが48万5,000円から54万5,000円。ガレージハウスが53万円から61万円。一般新築賃貸相場とほぼ同等だが、その付加価値を考えれば妥当とみた。SOHOとして使うのであれば、むしろ割安感があるかもしれない。

●ライフスタイルをクリエイトできるか

 「この物件は、作り手もよく考えただろうが、それ以上に住み手も考えて住まないとダメだろうなぁ」。取材が終わって記者の頭によぎった、最初の感想だ。
 デザイナー物件は、極端に住み手を選ぶ。なぜなら、その手合いの物件は、アメニティとかファシリティといった部分は基本的に後回しになるし、バリアフリーやユニバーサルデザインとはまさしく「無縁」だ。こういう部分に対し、少なからず疑問を抱くようなユーザーでは、この手の住まいを選ぶ意味が無い。
 日本人の多くは「6畳大の長方形の居室」と「それより広いリビングダイニング」を頭のベースにして、「どれだけおしゃれな住まい方ができるか」を考える。だが、そうした既存住宅への住まい方のアンチテーゼから始まっているデザイナー物件は、その手法が通用しない。平凡なアパートに住んでいた人が、荷物まとめてそのまま引っ越してきても、「こんなはずでは」と、愕然とするだけだろう。
 その住まいをスケルトンで与えられたとき、そこにどんな家具を置き、そこで自分はどんな生活をするかを瞬時に頭に描き、具現化する力がないと、この住まいを得た満足感は得られない。それこそが「ライフスタイルをクリエイトする」という事だろう。逆に、それが可能なユーザーであれば、分譲や平凡な賃貸住宅には無い、極上のライフスタイルが安価で味わえると断言したい。その意味で、平凡な3LDKのマンションに5畳大の個室を与えられ、プラモデルやフィギュアを並べて嬉々としている記者の想像力では、全く手に余る物件であった。
 もちろん、反響は上々で、10月末のモデルオープン以来、すでに60組が訪れ、19戸が契約済み。大々的なプロモーションを打たないでも着実に入居が進んでいくということは、ニーズが根強い何よりの証拠。時代は、記者が考えている以上に、クリエイティブな人間を増やしているということか。(J)

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