大阪ガス実験集合住宅「NEXT21」
大阪ガス(株)が1993年に建築した実験住宅「NEXT21」(大阪市天王寺区、総戸数18戸)。94年に実験をスタートして以降、5年ごとに実験テーマを替え、常に近未来のエネルギーシステムの検証を進めている。いまでこそ普及が進んできた家庭用燃料電池や、太陽電池、蓄電池といったエネルギー技術、スケルトン・インフィル、住み継ぐためのインフィル変更など、多様な研究に取り組んできた。 2013年から、実験は「第4フェーズ」に突入。「環境にやさしい 心豊かな暮らし 人・自然・エネルギーとの関係が深化する都市型集合住宅」をテーマに、初のコンペティションによって選ばれたマンションディベロッパーのアイディアを採用した住戸も完成。その住戸を見学した。





◆1993年竣工、近未来の環境技術を居住実験
NEXT21は、近未来の都市型集合住宅のあり方について、環境・エネルギー・暮らしの面から実証・提案することを目的に1993年に竣工。開発段階のエネルギー機器や、既存のエネルギー機器のさらなる効率的なエネルギー利用方法などについて居住実験を行なっている。同時に、住まい・住まい方の研究として、外壁を移動させてバルコニー・開口部の位置を変更するリフォーム実験など、住戸の可変性に関するさまざまな実験を行なってきた。
地下鉄谷町線「谷町六丁目」駅徒歩5分に立地。敷地面積は1,542.92平方メートル。地上6階地下1階建てで、地下1~地上2階は鉄骨鉄筋コンクリート造、3~6階をプレキャストコンクリートと鉄筋コンクリートの複合構法で建てている。
5年ごとの「フェーズ」で実験テーマを変え、その都度入居者も入れ替えている。入居者は大阪ガスの社員とその家族。1住戸のみシングル向けの部屋があるが、ほかはすべてファミリータイプの部屋となっている。
◆2013年から「第4フェーズ」突入
2013年から実験は「第4フェーズ」に移行。2020年に市場投入を目指すエネルギーシステムなどの実験を行なっている。エネルギー面では、家庭用固体酸化物形燃料電池(SOFC)コージェネレーションシステムのポテンシャルを最大限発揮するシステムの使い方を検証。4階の各住戸に設けたSOFCを、もっとも効率的な定格出力で運転し、発電余剰電力を各住戸間で融通したり、蓄電池に充電しておく。電力の融通状況は各住戸のHEMS画面で確認できる。これまでに、4階住戸の使用電力の85%を賄えたという結果が出ている。
このほかにもSOFCと太陽熱を組み合わせた熱の有効利用や、次世代SOFCプロトタイプ機の運転試験、停電時自立システムの構築、次世代HEMSの実証など、多様な研究テーマを設定している。
◆大京、近鉄不動産が住戸プラン提案
住まい・住まい方研究では、“2020年の住まい”をテーマに、第4フェーズは初めてマンションディベロッパーによるコンペを行ない、新たな住まいの提案を行なった。「今回、市場やお客さまニーズを把握されているマンションディベロッパー様に、NEXT21を実験フィールドとして、いきなり商品化するのは難しいが、リアルで時代のニーズをくみ取った先鋭的なプランを提案していただき、試してもらいました。今後、実際に居住を開始し、住戸の使われ方、住み心地などをヒアリングし、フィードバックすることで、一緒に2020年の住まいを考えられればと思います」(大阪ガスリビング事業部計画部技術企画チーム副課長・目堅智久氏)。
コンペでは、(株)大京と近鉄不動産(株)が提案したプランが最優秀賞を受賞。これらのプランをベースに住戸をつくりこんだ。
大京が提案したプランは「4G HOUSE」(床面積82.63平方メートル)。祖母と母、娘、その子供という4世代・4人の女性が住むためのプラン。大きなダイニングテーブルを設けたLDKスペース「みんなの部屋」に面して3部屋を設け、それぞれが住むための部屋とした。祖母の部屋には窓の外に、室内の畳とレベルをそろえたウッドデッキを設け、室内外を緩やかにつなげる。ウッドデッキは共用廊下につながっており、隣人や近隣住民とのちょっとしたコミュニケーション空間にもなっている。
また、「どうしても一人になりたいときに使うための空間」(目堅氏)として、住戸の角部分に1人用の小部屋「ひとりの部屋」を設けた。同スペースは、可動式の本棚を押し込んで入るかたちにしたことで、女性だけの共生生活の中での“隠れ家”をイメージさせる。筆者も入ってみたが、狭い空間と低い天井での「お籠り感」が心地よい空間だ。
部屋の中央には、「みんなの部屋」と称するLDKを設置。キッチンに隣接したダイニングテーブルは、一人ひとりの視線まで計算に入れ、円形や四角形でもないいびつな形状にした。「真正面で向かい合わず、お互いが気配を感じながらもそれぞれに過ごせる場所としています」(目堅氏)。
近鉄不動産が提案したのは「プラスワンの家」(床面積88.26平方メートル)。玄関からまっすぐ土間を伸ばし、土間によって1つの住戸を2つに分けるという大胆なプランだ。土間を挟んで1LDKの“メイン住戸”とワンルームの“プラスワンルーム”を配置した「1.5世帯住宅」。両親がメイン住戸に住み、プラスワンルームには子供が住むといった居住形態を想定している。
二世帯住宅では壁一枚を隔てて2つの世帯が生活している場合が多いが、土間の使い方によって世帯間の距離感を調節できる。土間に面した引き戸を閉めれば空間を分ける通路としての役割を持つし、開放すれば大きなリビング空間の一部として取り込める。
プラスワンルームには、浴室やキッチン・トイレを完備しており、賃貸住宅として貸し出すことも可能。「このほかにも事務所に使えるなど、フレキシブルな使い方が考えられるプランです」(目堅氏)。
技術・住まい方提案・コミュニティ育成を提案
このほかにも、約1,000平方メートルにもおよぶ緑化面積の一部を、住民が共同で管理するなど、コミュニティ育成のための取り組みも行なっている。技術・住まい方提案・コミュニティ育成という不動産業界にとっての永遠のテーマを、エネルギー・ライフスタイルの側面から提案し、今後の「住まい」のあるべき方向性を示していると言っていい。特に環境技術について言えば、NEXT21での約20年にもおよぶ継続的な研究は、家庭用燃料電池の普及など、日本の住まいに与えてきた影響は小さくない。これからの研究成果にも期待したい。(晋)