記者の目

2016/12/21

60年の集合住宅開発ノウハウが集結

UR都市機構 技術・コスト管理部 技術管理分室(旧・技術研究所)を見学

 2015年、設立から60年を迎えた(独)都市再生機構(UR都市機構)。その長い歴史の中では、集合住宅に関するさまざまな調査研究・技術開発が進められてきた。そのノウハウが集結するのが東京・八王子にある研究・体験施設。実はこの施設、17年度以降、取り壊しが予定されている。その前に同施設見学の機会を得たので、今回はその中でも特徴的な研究内容や施設等について紹介したい。

「多摩平団地テラスハウス」の復元住戸
「多摩平団地テラスハウス」の復元住戸
上階の換気ができるよう、2階居室の足元には無双窓があった
上階の換気ができるよう、2階居室の足元には無双窓があった
「蓮根団地」のDK。同団地では徐々にステンレスキッチンが導入されていったが、復元住戸はその前の人研ぎ流し台のもの。ダイニングテーブルは造り付け
「蓮根団地」のDK。同団地では徐々にステンレスキッチンが導入されていったが、復元住戸はその前の人研ぎ流し台のもの。ダイニングテーブルは造り付け
「蓮根団地」の居間
「蓮根団地」の居間
「晴海高層アパート」の復元住戸。間仕切りや内装は将来の改装を見越したブロックや部品化された木造作により構成されている
「晴海高層アパート」の復元住戸。間仕切りや内装は将来の改装を見越したブロックや部品化された木造作により構成されている
「晴海高層アパート」のエレベーターも移設
「晴海高層アパート」のエレベーターも移設
エレベーター停止が3階以上だったため、2階居室には専用の外階段が設置されていた
エレベーター停止が3階以上だったため、2階居室には専用の外階段が設置されていた
KSI工法を採用したモデルルーム
KSI工法を採用したモデルルーム
排水ヘッダー。専有部の設備からの排水横枝管を排水ヘッダーに接続させることで共用排水共用立管への排水を実現。メンテナンス性や可変性を上げている
排水ヘッダー。専有部の設備からの排水横枝管を排水ヘッダーに接続させることで共用排水共用立管への排水を実現。メンテナンス性や可変性を上げている
排水管が床に収納された状態の展示
排水管が床に収納された状態の展示
天井のクロス下には直天井配線システムを実装
天井のクロス下には直天井配線システムを実装

◆公団発足と同時に集合住宅の研究をスタート

 UR都市機構の前身である日本住宅公団が設立したのが1955年。同社では、当時より調査・研究業務をスタートしており、時代の流れとともにその内容は変わっていった。集合住宅の空間や住まい方の提案・住宅生産の量産化技術、住宅の質や性能の向上・多様なライフスタイルへの対応、超高層住宅や高齢者向け住宅、顧客情報の蓄積と分析などを中心に行なってきた。

 現在では、過去における住宅技術の展示や住宅ストックの再生を図る技術開発などを行なっている。

◆60年前の集合住宅を復元・保存

 同施設では東京における有名な公団住宅等の復元・保存も行なっている。
 戦前の「同潤会代官山アパート」(東京都渋谷区)のほか、戦後の昭和30年代に住宅公団が建てた低層集合住宅「多摩平団地テラスハウス」(東京都日野市、2階建て)、中層集合住宅「蓮根団地」(東京都板橋区、4階建て)、高層集合住宅「晴海高層アパート」(東京都中央区、10階建て)の内装がそのまま復元されて残っている。

 戦後420万戸の住宅不足といわれた昭和30年代、住宅公団には短期間で大量の住宅供給が求められ、同公団は住宅の工業化を急ピッチで進めながらも、従来にはないさまざまな工夫を盛り込んだ。

 例えば、「多摩平団地テラスハウス」には、プレキャストコンクリート工法の先駆けとなるティルトアップ工法を開発し、採用。住棟配置や外構(専用庭)をこだわった。街区全体では、子供が成長と共に生活圏を広げられるよう、住戸から大きな公園や学校に向けて段階的に構成している。

 「蓮根団地」には、戦後の集合住宅のテーマだった「食寝分離」の考えを採用。今でも残るDKスタイルの始まりである。それに伴い、ステンレス製の流し台をメーカーとともに開発し、量産化。同団地でも採用した。洋風家具が不足していたため、ダイニングテーブルは造り付けていた。また、南側にバルコニーを設置し、住戸内で洗濯ができるようにした。

 「晴海高層アパート」は、中層住宅と同等のコストで高層住宅を実現するという課題があったため、構造体の主要部分には鉄筋コンクリートを採用しているが、3層6住戸分を一単位とするメガストラクチャーの採用によって住戸規模の可変性を持たせた架構式構造を開発し、採用。間仕切りや内装は将来の改装を見越したブロックや部品化された木造作により構成した。これは現在のスケルトン・インフィル(SI)工法に通じるものがあるという。

 また、3層ごとにエレベーターの停止する共用廊下を設け、廊下のない階は階段で下がってアクセスするつくりにすることでコストを削減。
 エレベーターが停止しない階(1、2、4、5、7、8、10階)は、共用部分がない分、住戸面積を広くし、プライバシーや通風・採光も確保、デメリット感を解消していた。2階住戸には専用の外付け円形階段を設けたのも特徴だ。

 これらのノウハウは60年以上経った今の集合住宅においても生かされている部分が多い。

◆内装の自由度向上を追求したKSI工法

 UR都市機構では、これまでのノウハウを生かし、近年、将来的な優良ストック増に向けた技術開発として独自のSI工法開発を進めている。

 SI工法とは、躯体(スケルトン)と内装(インフィル)を分離して施工することで、耐久性と可変性が得られるというもの。同機構では「K(機構型)SI工法」と称し、独自の工法開発を進めてきた。

 KSI工法のポイントの一つが「排水ヘッダー方式」。専有部の設備からの排水横枝管を、途中で他の排水横枝管と合流させることなく排水ヘッダーに接続させ、共用排水共用立管に排水するもの。排水勾配は100分の1以上と、緩い勾配で仕上げている。
 また、一般的な住宅では、住戸内のパイプスペースに共用排水立管が設置されているため、メンテナンスや更新時には住戸内に入る必要があるほか、リフォームの際、水回りの位置などにプランの制限がかかりやすい。ところが同社のヘッダー方式では、共用廊下のメーターボックス内に排水立て管を設置するため、水回り設備の位置の自由度が格段に上がるという。

 もう一つが、直天井配線システム(テープケーブル工法)。一般的な住宅では、電気の配管配線がコンクリートの躯体に埋め込まれているか、電気配線を躯体から分離させる場合には、躯体と内装材の間に通す方法が用いられていることが多く、階高に余裕がない集合住宅には、採用が難しいのが実態だった。
 テープケーブル工法では、躯体が完成した後にテープケーブルをコンクリート表面に直接貼りつけ、その上からクロスを貼る。天井高を最大限確保しながら、天井照明を自由に設置することができる。
 この工法は電気設備に関する法律改正によって、他の事業者や一般ユーザーも利用することが可能になった。

 KSI工法は現在、UR賃貸住宅「リバーハープコート南千住」(東京都荒川区、2003~05年築)、「光が丘パークタウン ゆりの木通り北」(東京都板橋区、1983年築)などで採用。実証実験住戸として維持保全に関する研究を進めているところだ。建設費のローコスト化やインフィルのリニューアル時の課題検討など、実用化に向けた研究を進めている。

◆◆◆

 UR都市機構の歴史やノウハウが結集した同施設。中でも60年前の集合住宅が今見てもモダンであることに驚く。計画性のある住棟配置のおかげで「井戸端会議」を生まれやすくする、躯体と内装を分離して考えるなど、今、集合住宅に求められている「コミュニティ」や「自由な空間設計」につながる要素も多い。
 「故きを温ね新しきを知る」。残念ながら同施設は間もなく取り壊される予定ではあるが、往年の技術の中には、新たな住宅づくりのアイディア創出につながるものがあることを実感する経験だった。(umi)

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