記者の目

2024/5/30

“自然”を活用した空間創出で健康を増進

「バイオフィリックデザイン」の効果とは?


緑のもたらす効果に注目が集まっている。記者が子供だった頃は、「遠くの緑を見ていると視力が悪くなるのを防ぐ」なんてしばしば言われたものだ(真偽のほどは不明)。その後森林浴がブームになり、緑によるストレス解消やリフレッシュ効果に注目が集まり、最近では住宅のみならずオフィスや商業施設にも積極的に緑を活用しようとの機運が高まっているように感じる。
そんな中、「バイオフィリックデザイン空間」という言葉をしばしば耳にするようになった。これはどういった空間なのだろう。植物を活用した空間デザインのようだが…。
そこで、企業の総務・施設管理のアウトソーシング事業に加えオフィス空間設計やイベント支援、ソフトウェア開発等を展開する(株)パソナ日本総務部(大阪市中央区、代表取締役社長:佐野克也氏)を取材した。

◆“バイオフィリア”の活用は海外でも

 「『バイオフィリックデザイン』とは、『バイオフィリア』を基とした、ウェルビーイングを向上させる空間デザイン手法のことです」と教えてくれたのは、パソナ日本総務部コミュニケーション事業推進本部 COMORE BIZ推進部部長の和田えり子氏。『バイオフィリア』とは、“バイオ(生物)”と“フィリア(親愛)”からなる造語で、人間や動物などの生物は、潜在的に自然を求め、好む傾向・本能がある、という考え方で、ハーバード大学名誉教授のエドワード・O・ウィルソン氏が提唱したものだ。

「バイオフィリア」とは、生物は、潜在的に自然を求め、好む傾向・本能がある、という考え方だ(写真はイメージ)

 自然を求める、好む、ということについては、この記事を目にしてくださっている方々も、体感的に同意できるだろう。

 このバイオフィリアを活用した取り組みは、日本のみならず世界で行なわれているという。
 「例えばカナダでは、2020年より、医師が“自然の中で過ごす時間”を処方できるようになりました。また22年からは、国立公園の入場券を患者に処方する取り組みもスタートしています。さらにドイツでは、土、海、気候といった要素を利用した自然療法を国が認定。滞在・治療に医療保険が適用されています」(同氏)。

カナダでは、「自然の中で過ごす時間」が処方できるという(写真はイメージ)

 国立公園の入場券が処方されるということは、その公園でのんびりすることが“治療”となる、と公認されているということ。自然の中で過ごすことが病気等を改善させ、健康を取り戻すことに役に立つ、そのことが立証されているということなのだとすると、驚くと共に、やはり自然には生物を癒やす効果があるのだと納得した。

◆オフィスなのに水が流れ、鳥の鳴き声が聞こえる

 パソナ日本総務部では、この「バイオフィリア理論」を採り入れた空間ソリューションを提供する「COMORE BIZ(コモレビズ)」を事業展開している。

 「COMORE BIZ」は、

「GREEN」…植物
「SOUND」…自然音
「AIR」…香り、森林成分
「FURNITURE」…天然木などで造られたオリジナル家具
「TECHNOLOGY」…映像や照明、空調等

といった要素を取り入れ、バイオフィリア理論を実現する空間を提供しているという。これだけ幅広い自然の要素を盛り込んだ空間ってどのようなものだろう?
 そこで「COMORE BIZ」のソリューションにより作り上げられた同社のワークスペース(東京都品川区、「TENNOZ Rim」内)を見学した。

 オフィスに通されてまず驚いたのは、緑が数多く配置されていること、そしてオフィス内だというのに水が流れていることだった。

オフィスを入ると、豊かな緑が目に付く
オフィスのデスク横を水が流れる<写真提供:(株)パソナ日本総務部>

 水があるというだけで、何となく肌が潤うような気分になる。水が流れる音も、涼しげで気持ちが良い。
 共用の執務デスクの前には、生の植木が配置され、パソコン作業をしていても、モニタの向こうに木々の緑が視野に入る。座ってみると、自社のオフィスよりきれいな、そしてうるおいのある空気が流れているように感じる。

執務デスクに腰を掛けると、豊かな緑が目に入る<写真提供:(株)パソナ日本総務部>
 

 ふと耳をすますと、水音以外にも、鳥の鳴き声や時間によっては虫の音が聞こえる。これはハイレゾ自然音(自然音をデジタル化したもの)をスピーカーで流しているのだそう。適切な音響設計により、スピーカーはデスクが配置されているあたりに格納されているのにもかかわらず、鳥の声は上方で、水音や虫の音は足元から聞こえてくるように感じるから驚く。本当に屋外で仕事をしているような気分になる。

◆エビデンスを重視しサービスを提供

 水や緑、自然音に囲まれたオフィス空間は、確かにいるだけで気分がいい。その点に異論を唱える人はいないと思うが、実際にどのような効果があるのか。それについては、同社は、共同研究や実証実験などを重ね、明確なエビデンスに基づきサービスを提供しているという。

 植物を設置していない空間と、ストレス軽減効果が確認された植物を設置した空間の2つを用意しての実験によると、植物なし空間より植物あり空間の方が、ストレス値が約11%軽減されるという結果が出た。
 また、トヨタ自動車(株)との共同研究では、葉のサイズや形状により、人々に与える効果が異なることを実証。大きく丸い葉は活力アップ効果が、サイズが小さく丸い葉は癒し効果が、さらに直線系の葉は集中力アップ効果があることが実証されているそう。つまり、休憩スペースや談話スペースには葉が小さく丸い葉の植物を、集中作業スペースには、細い葉の植物を配置すると、その目的がより達成されやすくなることが期待できるという。
 また、パナソニックホールディングスとの共同研究により、植物とハイレゾ音がある空間の方が、ない空間よりモチベーションアップ、集中力アップといった効果が確認されたという。

植物とハイレゾ音がある空間の方が、ない空間と比較してモチベーションや集中力アップ効果が確認されているという(写真はイメージ)

 快適で、なおかつさまざまな効果が期待される「バイオフィリックデザイン空間」が今、徐々に広まってきており、オフィスのみならず、マンション、商業施設、さらには「介護施設での導入事例も出てきています」(同氏)とのこと。都会にいながらも自然を感じられる空間が増えることは、一消費者としても大変うれしく思える。

◇ ◇ ◇

 実は、当社でもオフィスで音楽を流せたら、という意見が出たことがある。しかし、「音楽を流したい」という意見がある一方で「音楽を流すことには反対」という意見もあったために、その話は棚上げとなった。そこで、ハイレゾ音を執務空間に流すことについてのクライアントの反応について質問してみたところ、「流すことに反対という意見はほとんど聞かれない」(同氏)とのことだった。自然音を拒絶する人はいない、ということだろう。逆に、人は無意識に自然環境を求めることの表れであるとも感じた。
 快適で、ストレス軽減、効率向上などの効果がある「バイオフィリックデザイン」は、今後間違いなく普及していく予感がした。(NO) 

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お知らせ

2024/5/23

「記者の目」を公開しました

記者が興味を持ったテーマを徹底取材する「記者の目」を更新しました。

今回更新したのは、「インフラゼロへの挑戦」。皆さんは、(株)MUJI HOUSEが、既存のライフラインに依存せず、エネルギーを自給自足できる設備を整えたトレーラーハウス「インフラゼロでも暮らせる家」の商品化を目指しているのをご存じですか?同社は昨年3月に実証実験「ゼロ・プロジェクト」を開始。2025年の実用化を目指し、今年4月にはプロトタイプを報道陣に公開しました。写真も交えつつをレポートします。「未来の家」が垣間見えるかもしれません。