海外トピックス

2011/12/6

vol.192 アメリカンドリームの失墜で賃貸マーケットの浮上

分譲住宅を大改築して賃貸にした建物。都心から電車で40分ほどの距離にある(イリノイ州シカゴ市)
分譲住宅を大改築して賃貸にした建物。都心から電車で40分ほどの距離にある(イリノイ州シカゴ市)
後方の建物は賃貸用。大学町で賑やかだ。5月から10月一杯、週に1回朝市が開かれる(イリノイ州エバンストン市)
後方の建物は賃貸用。大学町で賑やかだ。5月から10月一杯、週に1回朝市が開かれる(イリノイ州エバンストン市)
都心にあるもと分譲住宅だったアパート。テニスやヨットなど楽しめる(イリノイ州シカゴ市)
都心にあるもと分譲住宅だったアパート。テニスやヨットなど楽しめる(イリノイ州シカゴ市)
職住近接していると自転車レーンや湖岸、公園などで楽しむ時間がたっぷりとれる(イリノイ州シカゴ市)
職住近接していると自転車レーンや湖岸、公園などで楽しむ時間がたっぷりとれる(イリノイ州シカゴ市)
カフェで友だちと楽しく時を過ごす。都会ならではの暮し方だろう
カフェで友だちと楽しく時を過ごす。都会ならではの暮し方だろう
アクアタワーもロビー内にブッフェのサービスを始めた(写真提供 Steve Hall at Hedrich Blessing)
アクアタワーもロビー内にブッフェのサービスを始めた(写真提供 Steve Hall at Hedrich Blessing)

「家の所有」に本当に価値があるかどうか…

数年にわたる景気の低迷は「賃貸人口の増加」というダイナミックな動きを生み出した。これまで一戸建ての家を手に入れることはアメリカンドリームであり、不動産は確固とした投資対象として人々の心にしっかり定着していた。しかし、一戸建ての家やコンドミニアム(マンション)の価格低下が続き、現在でもとどまる気配がない。日々耳にするニュースはさらに不安と恐れを募らせるばかり。雇用率の低さもそれに輪をかける。 全米一の規模を持つ賃貸アパートのオーナー、ディビッド・ナイザーカット氏(Equity Residential, CEO)は、「消費者の心に精神的変化が起きている。家の所有をゴールとして本当に価値があるかどうか? 賃貸住宅に住むことによる利益と比べて、いまや人々は考えを改めつつある過程のように見受けられる」と、工業審議会で前置きとして述べている(www.worldpropertychannel.com) 。

賃貸アパート建設ブームも

全米公共ラジオ放送によると、コロラド州デンバー市では、賃貸アパートの建設プームが起きているとか。 「私は幸運だったわ。コングレスパーク地区に2BRを月900ドルで借りたけど、賃貸なら屋根をふき替えるとか、暖房設備を買い換えるなどの心配はしなくてもいいし…」と述べるリン・マイヤーさん。2009年には住宅購入を試みたが、ローンでつまずいた。「不動産を投資と考えるのは今や神話じゃないかしら? 友人達は家を売りたくても価格が安すぎて売れない状態。家を所有するのに比べて、賃貸ははるかに有利だと思う」と言い切る。 建設業者がこの動向を見逃すはずがない。コンドミニアム(マンション)として建てられた物件は、3BR等ユニットが大きいのに比べ、賃貸はスタジオや1BRなど小さいユニットが望まれる。ザッカー・ ディベロップメントは、60戸のコンドミニアム(マンション)を細かく区分けし直して200戸に大改築。金融関係もこのようなアパート改築は安全な投資とみなすためか、オーナー側は改築の費用を借りやすい。需要に合わせたスペースの供給で改築にかかった金額分を賃貸料に上乗せして回収できるという。 デンバー市では現在12の賃貸用建物が建設中で、さらに12の賃貸用建物の建設が予定されている(National Public Radio 11月29日放送)。

高級賃貸志向の年齢層が広がる

昨年このコラムでレポートした賃貸マーケットに異変? (vol.164) では、富裕な若者達が職住近接と快適な暮らしを求めて高級賃貸を選択しているという内容であった。1年経ち、その波は年齢層も区域もさらに大きく広がっているのが現状である。以前は18歳から35歳までが賃貸志向の中心だったが、現在は18歳から65歳まで、と中高年齢層がぐーんとのびている。 「旅行したり、気楽に住む場所を変えたり、軽やかに暮らしたい」と活動的な暮しを謳歌する高齢カップル(Chicago Tribune 新聞2011年 10月23日)。「時間は何ものにも代え難い」と、持ち家の修理や手入れに費やす時間を切り捨て、代わりにその分の時間を自分の好きなように楽しむ。月12万円の賃貸料だと一日4千円支払う勘定になるが、それを“サービスに対する対価”と割り切ってしまう中年層も芽生えてきている。家を持てば、自分でやるべきメンテナンスは、賃貸だと誰かが責任を持ってくれるのだ。

アパート内に有名レストランの屋台が…

アパート内のロビーに有名なレストランが週に3回ブッフェスタイルの屋台を出すのが最近人気を呼んでいる。居住者の持ち帰りが目的だ。夜7時すぎに仕事から戻り、それからどこか食べに出かけたり料理するのはおっくう。おいしく暖かい夕食を好みの量だけ持ち帰り、自分の部屋で食べられるこのアイディアは住人達に大喜びで迎えられている。 シカゴ都心部で1100戸を保有するマックラーグアパートメントでは、このサービスが新たな借り手を呼び込んでいるそうだ。昨年紹介した87階建て、建築大賞に輝くアクアタワー (vol. 152) は、賃貸、マンション、ホテルなど混合の建物だが、最近ここでも食事テイクアウトサービスを取り入れた。ブッフェサービス、バスケットボールコート、室内と戸外プール、ジムなどを通じて“コミュニティの形成” が自慢のようだが、アパートの賃貸料は1BRで月17万円から20万円と高め。従来はコンドミニアム(マンション)だったシカゴ都心部の4分の1の建物は、現在賃貸アパートに変わってしまった(Chicago Tribune 新聞 2011年10月2日)。 車がなくても交通便利で娯楽設備が整った都心を中心に、賃貸の需要は年齢層の広がりと共に郊外に向かってとじわじわと浸蝕しつつある様子がうかがわれる。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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