海外トピックス

2010/6/7

vol.156 激戦中の不動産エージェント

電話での応対も真剣な顔つきのセンチュリー21店の不動産エージェントたち(イリノイ州リバティヴィル市)
電話での応対も真剣な顔つきのセンチュリー21店の不動産エージェントたち(イリノイ州リバティヴィル市)
美しく物件を紹介したカタログ。エージェントは、このようなパッケージを作成して名刺とカードを添えて顧客に配る(同上)
美しく物件を紹介したカタログ。エージェントは、このようなパッケージを作成して名刺とカードを添えて顧客に配る(同上)
以前にはなかったのだが、通りがかりの人目を引くためか、窓にも物件の広告を張り出したセンチュリー21の加盟オフィス(イリノイ州シカゴ市)
以前にはなかったのだが、通りがかりの人目を引くためか、窓にも物件の広告を張り出したセンチュリー21の加盟オフィス(イリノイ州シカゴ市)
移転の知らせが貼り出されていたコールドウェルバンカーの加盟店(イリノイ州ハイランドパーク市)
移転の知らせが貼り出されていたコールドウェルバンカーの加盟店(イリノイ州ハイランドパーク市)

ベテランエージェントは「市場回復」に悲観的?

アメリカの不動産業界で店じまいや仕事替えが日常茶飯事で伝えられる現在、エージェント達は戦国時代さながら、日々興亡をかけて働いている。新聞やTVの報道では、不動産市場は回復とする楽観的な見方、そしてまだまだと見る悲観的な意見が入り乱れるが…。 不動産業界に40年間働いているベテラン不動産エージェントによると、“今回の落ち込みは自分が仕事を始めて以来の「大恐慌」で、小さな波は幾度もあったが、今回のような大津波は初めて” だそうだ。“5年前には1億円で売れた物件がここ数年間で7,000万円に下落。やっと7,500万円で売れるような現状では、元の1億円にほど遠い。これで不動産市場が回復した、と言えるのだろうか?”とも。 銀行に保有されるフォークロージャー物件がまだまだはけていないこと、住宅購買意欲を誘うためになされた政府からの税控除の期限が切れてしまったこと、家のローン利率があがるのではないかと予想されること、そしていまだに雇用率が低いこと、このような厳しい状況下、不動産エージェントが生き延びるのは並大抵ではない。

「適切な価格」…これが難しい!

20年のキャリアを持つ友人の不動産エージェントは、「すぐ売れる家」というのは、“人々の目に触れる機会の多い物件”及び“適切な価格の物件”と定義づける。だから、新聞や雑誌に物件の広告を掲載する、顧客にカードを送る、オフィスのウェブサイト、エージェント本人のサイト、ブログ、ツィッターなどを駆使し物件をできうる限り紹介する。 しかしながら、もうひとつの“適切な価格”をつけるというのは難しい! 物件をいくらで売りたいかは売り手が決めるのだが、実際は買い手あっての価格。エージェントは顧客(売り手)から価格設定の相談を受ければ意見を述べる立場にあるから、顧客が早く物件を処分したいのなら価格を低めにつけるアドバイスをすることになる。高めにつけて強気で売る努力をするタイプのエージェントもいるが、市場価格として高すぎれば売れず、その間、顧客はローンや税金などを払い続けねばならず、エージェントには売れるまで収益がない。

顧客によって、洋服、アクセサリー、会話にも配慮

友人の不動産エージェント(女性)が気をつけるのは、相手によって対応の仕方を考慮するということ。 家を売りたいと依頼を受けた時、顧客とその物件で落ち合う場合が最も多いが、初対面の顧客と会う時には何を着ていくかじっくり考えるそうだ。売り手が住むのは高級住宅地か、新興郊外地か、山手か下町か…? 物件の場所により顧客のタイプを判断、着ていく洋服やアクセサリーを選ぶ。高級住宅地に住む顧客と会う時はシックで地味なスーツを選び、宝石は小さくても本物。 一方、売りたい家の価格が低めと思われる顧客と会う時はカジュアルなドレスを選び、顧客に威圧感を与えないように気を配る。 相手が男性の場合は着るものは変えなくても対応の仕方に気をつける。ジョークを時折とばして気兼ねのない相手か、至れり尽くせり細かく説明すべき相手か、短時間に要点だけ述べた方が良い相手か、など。

相手の出身国により、しきたり、習慣にも注意が必要

また、相手のお国柄によっても特徴があるので、宗教的なしきたりを知らないと失敗することも…。友人の経験では、ある南米からの顧客は約束した時間に遅れたりすっぽかしたりすることが多く、いらいらしたが、かれらの楽天的な性格を飲み込んでからは、うまく交流できるようになったそう。またある国では、でしゃばらないながらも母親が権力をもっていて、家を買うかどうかの最終決定は母親が下す習慣があり、とりわけ丁寧に母親に的を絞って説明をして物件取引に成功した例もあるようだ。 それぞれの国の特別な祭りや文化的な習慣などを学ぶことは、多民族で成り立っているアメリカでは必須であろう。

個人競技の世界。能力と努力が実績につながる

アメリカの不動産エージェントは家の売買をエージェント個人で取り扱う点が日本と大きく違う。“団体競技”でなく、“個人競技”。だから、チームの協力で成し遂げるというよりも、個人の能力と努力次第で業績をつむぎ出す。 多くのエージェントは、コールドウェルバンカーやプルデンシャルルブロフ、センチュリー21といったフランチャイズ制の不動産会社に所属し、かかわった物件の売買取引が成立した時のコミッション(手数料)が彼らの収入となる。会社はエージェントにサラリーを支払うわけではないが、成立した売り上げを折半するから、腕のよいエージェントを抱えておきたいのは当然だ。そのためにセールスに役立つ情報を朝のミーティングで公開したり、セミナーを催したり…、会社のオーナー(ブローカー)も全体の売り上げを伸ばすために奮闘中だ。

成功の秘訣はテクニックではない。地道でこまめな努力が必要

不動産エージェントの個性は家を売るプロセスに発揮されるとは言え、ビジネス成功のために誰もが口をそろえて強調するのは、顧客との信頼関係を築くこと。良い顧客はエージェントにとって財産である。一人の顧客から始まってその子供達、親戚、友人達、果ては孫の代に至るまで、長い付き合いのあるエージェントは少なくないが、それは互いの信頼があってこそ。 「明るいこと、そして、誰に対しても正直であるべき」と友人の不動産エージェント、パム・フーサックは言うが、テクニックではもはやなく、エージェント本人の人間性にかかってくるのだ。家を売りたい顧客、買いたい顧客の手伝いをするのだから、これらのプロセスをスムースにやりとげる努力を惜しまず、現在のような困難な時期だからこそ、地道にこまめな営業に励む覚悟が必要だ。それが顧客との信頼の絆を強めてゆくのだから。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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