






西海岸のサンフランシスコからシアトルを太平洋岸に沿って北上し、アメリカからカナダへと国境を越えるとバンクーバー市だ。飛行機が降下してゆき、空から眺めると島や入り江が複雑に入り組み、モザイクのように散らばって朝日が水面にきらきら輝き美しい。しかし、バンクーバーは、ミシシッピ州やフロリダ州のような平坦な地形でなく、2010年の冬期オリンピックでダウンヒルスキーが解されたように、高い山もあって、海あり山ありの魅力的な町。
カナダ全体の人口密度はまだ低く、世界中から移民を比較的多く受け入れているが、とりわけバンクーバー市へは入植者が集中。その結果、住宅不足と物件価格の上昇が起きている。
世界中で「住んでみたい都市」として、何度も取り上げられたバンクーバー市だが、流入する人々で都市は膨れ上がり、道路は渋滞、過密化が問題になる側面も…。
中国移民が集中して居住
延々と中国語ばかりが氾濫する地域をタクシーで通り過ぎる。銀座一丁目から八丁目どころか、はるか品川まで続きそうな距離で、ここがカナダ?と唖然とする。インド人の運転手は「見てごらん。バスを待っている人たちの何人が中国人か」と、バスストップに差し掛かる度に指差すが、どこを向いても98%はアジア人だ。 インド人の運転手には中国人、韓国人、日本人、フィリピン人、ベトナム人など判別できず、一括して“中国人”と言っているのかもしれないが、それにしてもアジア系が多いことは確か。住宅街にさしかかると、「新しい家は中国人、古い家には白人が住んでいる」と彼。「どうしてわかるの?」と聞くと、「中国人は古い家を買い、壊して新しく建て直す。それでもお金が余っているから、ほら。」と、真新しい住宅の前に駐車してあるベンツやアウディを指差す。 香港がイギリスから中国へ返還された時に共産化を恐れたのか、香港の金持ち連中が数多くカナダへ入植した、といううわさを聞いたが、信憑性がありそうな気がしないでもない。 ちなみにバンクーバー市の半分が白人、3分の1は中国系であるから(/en.wikipedia.org/wiki/Vancouver)、10人のうち3人は中国人で、彼等はとりわけこの地区に集中している。物価が高騰。国境を越えて買い物に行く人も
都心部からやや東の地域にしばらく滞在したのだが、そこはお洒落だが気取りがなくヒッピーぽい地区であった。表通りはイタリア人の八百屋、ドイツ人のソーセージ店、ギリシャ食材店、韓国人の魚屋、メキシコ民芸品を売る雑貨屋、カフェ、気さくな雰囲気のレストランが軒を連ねて並んでいて、買い物客や歩いている人がとても多い。都心に近く、電車やバスもひんぱんに来るので、このあたりの一戸建て物件の価格はうなぎ上り、賃貸アパートも家賃が高騰している、と何十年もバンクーバーに住んでいる友人達から聞いた。 食料品の価格が高くなり、わざわざ国境を越えてアメリカ合衆国ワシントン州までミルクなど日用食料品を買いに行く人々が絶えない、とも…。食品の場合、国外から持ち込んでも税はかからないそうだ。 都心は増え続ける人々のためにコンドミニアム建設工事があちこちで見られる。2年前に滞在した時は殺風景な町工場がいくつかあり、がらんとしていた界隈が、今回すっかり近代的なコンドミニアムが立ち並ぶ町に変貌したのには目を見張ってしまったが、バンクーバー市内は至る所に活気が漲っている。活発な経済と温暖な気候。魅力あふれる都市
バンクーバー市の周辺にはいくつかの島が散在し、フェリーが島とバンクーバー市を結ぶ交通手段になっている。島の住民は、自宅からフェリー乗り場まで車をドライブし、駐車場に車を置いてフェリーに乗る。乗船時間は、近い島では15分位、遠い島で40分位だろうか。フェリー乗り場からバスでバンクーバー都心に向かうわけで、多少不便だけれど、島はまだ価格も安いし森林が多く自然にあふれているので、セカンドハウスとして保有している人も少なくない。 逆に島が自宅で、バンクーバー中心地にコンドミニアムを持って、週末には島の自宅で畑仕事をしたり、読書するのんびり派、サイクリングや魚釣り、セーリング、ハイキングを楽しむアウトドア派など、多様なライフスタイルが展開されている。 19世紀にはバンクーバーは東部モントリオールから大西洋と太平洋をつなぐ北アメリカ大陸横断鉄道の終着駅となり、港から世界に向けての林業、港湾業、鋼業など産業都市の中心であった。さらに現在は環境保全に力を入れており、バイオテクノロジーやソフトウエア開発も盛んと聞いた。 これらの活溌な経済状況に加え、温暖な気候や自然を満喫出来る沢山の観光スポットがあって、それらが世界中から多くの人々を惹き付けているゆえんであろう。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。